Trek Emonda奮闘記:ヒルクライム専用マシン化 ~ フロントを28Tにするには

Trek Emondaの低ギア化、リアの変更が難しそうなので、フロントを低ギア化する方向で検討する。

リアのロード用は、10速ではUltegraの30Tや、11速ではカンパニョーロの29Tといった歯数もあるが、シマノのDura-AceやSRAM Redでも最小となっている28Tをリアギアの下限として考える。

となると、1:1のギアレシオを実現するにはフロントを28Tにしてやればいい

「してやればいい」と書くと簡単そうだが、そこでまた一工夫必要になる。


■BCD問題

フロントの制限とはすなわちBCDの制限に他ならない。

BCDとはBolt Circle Diameter のことでチェーンリングを装着するボルトの直径を指し、PCD(Pitch Circle Diameter)とも呼ばれる。日本語では「ギア固定ピッチ径」(シマノウェブサイトより)。

通常mm(ミリメートル)単位で表記し、ロードのクランクセットでは110か130が良く使われる(カンパニョーロでは135だったり、トラックシングル用では144もある)。

基本的にダブルのノーマル(53-39T)はBCD130、コンパクトクランクの50-34TはBCD110だが、FC-9000からはBCD110に統一されている。

つまり、FC-9000では一つのクランクセットがあればチェーンリングを替えるだけで50Tを53Tに替えることができ、チェーンリング交換時の互換性が広がっている(一方でスパイダーアームが4本のため、BCD110でも4本対応のチェーンリングしか使えないが)。



一方で、BCD110の場合、事実上※の最小歯数は34Tになるため、BCD110規格である既存のコンパクトクランクでは、28Tのチェーンリングをつけることは物理的に(チェーンリングの直径<BCDになるため)不可能となる。(※TAというフランスのメーカーが33Tも出しているが、そういった特例を除けば34Tが最小)


■実際の例

では実際の激坂レースではどのようなギア構成でみんな走っているのか。

過去に出場したレースでの写真を引っ張り出し、他のレーサーのセッティングを見てみる。

詳しくは当時のエントリでチェックしているためこちらをご参照いただきたい。

エキノックスヒルクライム大会2013:激坂ジャンキー達のギア構成

ちなみにヒルクライムシリーズで上位常連選手はMTB用、



マウントワシントンで優勝しているUCIコンチネンタルチーム所属のプロ選手もCannondaleのMTB用クランクをインナーのみにして使っている。




■マウンテンバイク用クランクで低ギア化

と見ていくと、MTB用のダブルを使っている人が多いことがわかる(もちろんアウターは外してフロントシングル化している)。

となると自分も同じくMTB用のクランクにしようかと思い、いろいろ調べてみる。

ちなみにMTB用とはいえ必要になるのがパワーメーター。

ロード用しかないパイオニアのパワーメーターは無理だが、上掲のプロレーサーが使っているSRM(写真ではわかりづらいが)をはじめ、SRAMやStagesでもMTB用のパワーメーターは出ている。

プロレーサーがMTB用を使っているなら自分もそうしようと思ったのだが、ここでさらに問題が出てくる。

MTB用のクランクは、クランク軸の長さがロード用と違うのである。

たとえばホローテックⅡという同じシマノの規格でも、MTB用の方がロード用のクランク軸より長く、2.5mmのスペーサーを68mmのBBの場合は3枚(右クランクに2枚、左クランクに1枚)、73mmBBの場合は右クランクに1枚入れて75.5mmにしてやる必要がある。

スペーサーを入れて済むだけなら入れればいいのだが、それによってQ-Factorも変わってしまうのはペダリングにも影響を及ぼしそうでデメリットである。

となれば、そもそもBBの互換性を考えなくてもいいロード用のトリプルクランクならどうだろう、ということでトリプルクランクの検討に移る。


■トリプルクランクで低ギア化

ではトリプルクランクにすればすぐに問題は解決するかというと、そうは問屋が卸さない。

ご存知の通り、トリプルクランクはもはや絶滅種となっており、Dura-Aceでは7800系のFC-7803で存在したのみで、7900系、9000系ではダブルのみ。



それに追随してUltegraでも6800系からトリプルは消滅してダブルのみとなってしまっているため、トリプルにするためには6700系のFC-6703まで遡らないといけない



が、実はFC-6703でもまだ解決には至らない。



こちらのFC-6703の仕様書(PDFリンク)を確認していただくとわかるように、FC-6703のインナーのBCDは92mmなのである。

BCD92の場合は30Tが最小で、28Tのチェーンリングを装着することができない。

1:1のギアレシオ、つまりフロント28Tを実現するためには、BCDは74mm以下でなければならない。

この点、FC-6603/FC-6604まで遡って仕様書(PDFリンク)を見てみると、6600系のトリプルクランクはBCD74を採用していることがわかる。

なんと必要条件を満たすトリプルクランクを探すために、10年以上前の2004年に発表された6600系にまで遡らなければならないとは・・・。


■逆転に次ぐ逆転

リアの検討から始まり、フロントのMTB、トリプルと壁にぶち当たっては再考を迫られていた11速の低ギア化もついに出口が見えてきた。

と思ってFC-6604をポチろうかと探していたところでもう一つ問題が。



そう、FC-6604に対応しているパワーメーターがないのである。

パイオニアはもちろん、SRMやPower2Maxにもなし。

いっそのことクランク計測ではないパワーメーターを考える手もあるが、PowerTapにするとなるとまたハブやリア側の話しに戻り堂々巡り。

クランク計測でありながら最もクランクの仕様に縛られにくいStagesもチェックしたが、頼みの綱のStagesも6700系のUltegra用パワーメーターはあるが6600系は存在しない。

そして6700系はStagesのパワーメーターがあってもBCDが92mmなので使えない。

Stagesは左クランクだけで動作するため、左クランクさえ互換性があれば、FC-6604に6700系の左クランク(兼パワーメーター)をつけることもできるのかもしれないが、ネットを探してもそれを試している人はおらず、自分が人柱となって試すのも最後の手段にしたい。

ということでFC-6604という選択肢もNG。


■FC-5703

出口の光が見えたと思ったらまた塞がれるということを繰り返しながらたどり着いた最後の希望は、Stagesの商品ラインナップにあった「FC-5700」の文字であった。

Ultegraの700番台であるFC-6703のBCDは130/92なのだが、105の700番台であるFC-5703のBCDは130/74なのである。




一応シマノの製品情報を見て確認すると、確かにインナー用74mmと書かれている。

ただ、FC-5703(というかほぼ全てのトリプルクランク)のインナーチェーンリングはデフォルトで30Tが付いているので、別途28Tのサードパーティー製チェーンリングを買って付け替えてやらないといけない。

とはいえ、これでやっと、やっと全てのパズルが埋まった。

以下の手順であれば少なくともこれまで確認した上ではBBに手を加えずにパワーメーターがついたフロント28Tが実現可能になる。
  1. FC-5703(BCD130/74のトリプルクランク)を用意
  2. FC-5703のチェーンリングを全て外し、インナーの30Tのみサードパーティー製の28Tに変更
  3. 左クランクをStagesの互換性のあるパワーメーター付左クランクに交換(シマノの5700系、6700系、7900系、9000系のモデルであれば装着可能なはず)

ということで最後にトリプルクランクの絶滅過程を表にしてみるのでフロント低ギア化を考えている方はご参考いただきたい。

グレード旧々モデル旧モデル現行モデル
Dura-Ace
7800系
FC-7803 (BCD130/92)
7900系
絶滅
9000系
絶滅
Ultegra
6600系
FC-6603/6604 (BCD130/74)
6700系
FC-6703 (BCD130/92)
6800系
絶滅
105
5600系
FC-5603 (BCD130/74)
5700系
FC-5703 (BCD130/74)
5800系
絶滅

今でこそまだ型落ちのトリプルクランクが手に入るが、おそらく将来低ギア化するときにはトリプルクランクという選択肢はなくなっていると思われるので、Q-Factorを犠牲にしても素直にMTB化するしかなくなっていくのかと思う。

8 件のコメント :

  1. フレーム軽いのにクランクで重くなってる(笑)
    ペダル型パワーメーターがあればもうちょっと使えるクランクが増えそうですね。

    返信削除
    返信
    1. おそらく他の人も105と聞いて同じことを思っているのかと思います。
      が、実のところは・・・。

      削除
  2. 6700Stages所有者です。PTとの比較で今までFC-6650, FC-7950, FC-M981と使っていますが、右クランクが問題となったことはございません。ただし左取り付け5mmボルトのトルク管理はお勧めします。

    VeloNewsにFDをとるとロードSTIでもXTR Di2 RD動く、という情報がありました。

    返信削除
    返信
    1. おおお、情報ありがとうございます。こうして実際に利用している生の声をいただけるととても助かります。左クランクのトルク含めたセッティングだけ気をつければ右側のクランク&スパイダーアームとの相性はあまり関係ないんですね。5700系はUltegraやDura-Aceとも左クランクの仕様は同じようなので105より上のグレードで左クランクは狙ってみたいと思います。

      削除
    2. えっとただ105のトリプルが右なら左もそれのP/Nに合わせないと左右でQfactorが変わるかもしれません。私はFC-M985で左が67アルテStagesは微妙に違和感がありました。クリートでごまかしましたが分からないというと嘘になります。
      以前シマノに電話しましたがホロテク2の左軸セレーションは78時代から形の変更は電話したときまでなく、すべて刺さりはするそうです。日本のお客様相談室に電話すると各クランクの内々の寸法をいやいや教えてくれました。

      削除
    3. MTBクランクはロードトリプルよりもさらにロードダブルからのQfactorが広がるので違和感も出るのかもしれませんね。まあトリプルもダブルやMTBと違って左右のQfactorが均一でなくなるという弱点がありますが・・・。それにしてもお客様相談室でそんなことまで教えてくれるとは、さすが日本のサポートは違いますね。

      削除
  3. 興味深いお話しをありがとうございます。
    最後の表なんですが,7800系のところは,絶滅ではなくFC-7803がありますよね。本文中では正しく書かれています。

    返信削除
    返信
    1. ご指摘ありがとうございます。表の方修正させていただきました。

      削除