書評:正月の暴飲暴食に空腹力?

空腹力 PHP新書 石原結實


あけましておめでとうございます。

1月1日以外はカレンダー通りのアメリカでも、やはり年末年始は食べる量が多くなる。

飽食のこの時期だからこそ気をつけたい食事量について、古い本だが備忘録的に書評を残しておきたい。

抜くなら朝食?!


冒頭でいきなり「朝食を抜け」と持論を展開。

総摂取カロリーを減らすという方向性は理解できるものの、「まず朝食を抜く、できれば昼食も抜く、2食抜けばカロリー的には十分少ないから夜は普通に食べても大丈夫」という論調。

・・・。

逆じゃね?

一日のうち活動的でカロリーを消費しやすいのは朝~夕方。むしろ夕食後は寝るだけなのだから夕食にカロリーを摂りすぎると脂肪の元になる。

さらに体内時計ベースで動くBMAL1というたんぱく質により、夜は脂肪が蓄積されやすくなることがわかっている。

ちなみに朝食抜きが太りやすいというのは各種調査結果でも報告されており、「抜くなら朝食」の論理的根拠が不明というのがあやしい。

「朝食を食べなかったり、夜遅い時間に食事をする人ほど、内臓脂肪がつきやすい」というデータが、花王ヘルスケア研究所より発表されています。
朝食欠食率が20%、つまり「5日に1日くらい朝ごはんを抜く」という人は、毎日食べる人に比べて、明らかに内臓脂肪がつきやすくなっていました。

「朝食抜きや、遅い夕食は太りやすい」って、本当!?

なお、筆者は朝食の代わりにニンジンとリンゴのジュースを飲んでいるということだが、カロリー的にはむしろそれが朝食なんじゃないのかと言いたくなる。

結局摂取カロリー次第なのに、飲料だったらカロリーがあっても「朝食」ではなく、固形物だったら「ご飯」というのは単なる言葉遊びに過ぎず、よって「朝食を摂らない」というのも、流動物での摂取が「朝食」に該当していないというだけなのかもしれない。

アスリートを持ち出すものの・・・


朝食や昼食を抜くというと、競技スポーツをしている場合にはあてはまらないように思うが、むしろ筆者はプロのアスリートでも朝食を抜いているとして持論を補強している。

曰く、「相撲取りは朝食抜きなのに4時間も朝稽古をする」「ボクシングの辰吉は朝食抜きでもあんなに激しい殴り合いをした」。

たしかに相撲取りはあんなに体を動かしているのに2食だが、それは2食で運動してても体重を維持できること、つまり、逆に太れてしまうことの証明になってしまう。

ボクシングについてはプロボクサーの減量という極端な例を出されても・・・というところだろう。

人類の歴史から紐解く


タイトルにもある「空腹力」について、その根拠は人類の歴史に遡る。

人間は有史以前から食料を獲得するのに苦労してきた。

飽食の時代になったのはここ最近50年ほどの話で、人類300万年の歴史のうち、299万9950年は飢えに苦しんでいるのが当たり前だった。

つまり飢餓状態こそ普通の状態で、お腹いっぱい食べられるのは異常事態なのである。

なるほど、なるほど。

たしかに歴史を紐解けばそうかもしれない。

300万年分の50年だと、たしかに飽食の時代は全体の0.0017%で異常事態なのかもしれない。

が、人類の歴史における年数割合が、日常生活において空腹にすべきかどうかの根拠になるかどうかは別問題。

一見関係ありそうな二つの事象を繋げようとしているが、その関連性が証明されていないので論理的に正しい論拠にもならない。

ただ、一点繋がりがありそうに思えたのは、血糖値をコントロールするホルモンの存在

血糖値を下げるホルモンはインスリンの一種類だけだが、血糖値を上げるホルモンはグルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンと何種類も存在している。

人体におけるホルモンの生化学的な働きは、後天的なものではなく人類の長い歴史の中で備わってきたものなので、人体そのものが満腹状態(血糖値を下げる必要)より飢餓状態(血糖値を上げる必要)の方に適応していると証明できる事例かもしれない。

この点では、「満腹状態にするより飢餓状態にした方が人体負荷的に良い」という論調には賛成できる(といっても満腹でも飢餓でもないニュートラルな状態の方がよっぽど良いとは思うが)。

動物肉を食べるなの個人的背景


そして「動物肉を食べるな。肉を食べる場合は魚にしろ。」と話しは続く。

食事制限につきものなのは、反動による食欲だが、筆者曰く、「私は動物肉が好きじゃないので苦にならなかった」

・・・。

そりゃ好きじゃないなら食べなくても苦にならないだろうよ・・・。

これって筆者の個人的嗜好がたまたまそうだったからだけであって、逆にステーキやハンバーグといった動物肉が好きな人への回答には全くなっていない。

読みながらも、あなたの個人的な好き嫌いはどうでもいいよ、とツッコンでしまう。

健康になるために・・・


ただ、トンデモ理論ばかりかというとそうでもなく、オーソドックスな健康法も推奨している。

曰く、「摂取カロリーを抑え、適度な運動習慣を持てば健康になれます」、「食べ過ぎを避け、昔から言われているように腹八分目がいいのです」。

・・・。

So what?

たしかに間違ってはないが、そんな言われなくてもわかるようなことを解説されても新しい発見は何もない。

というかそんなことを知りたいために読んでるんじゃないといいたい。

総評


ということで、普段の減量や健康管理、体重維持のために参考にするには微妙な本であった。

一番の問題は、筆者の経験や個人的な嗜好と「理論」と言う名の持論がごちゃ混ぜになっており、定量的な論理的根拠が不十分なまま持論が展開されている点であろう。

それでも参考になったというか、あらためて意識させられたのは上記の血糖値に関連したホルモンから見た人体の先天的性質の話。

自分も食べ過ぎになるくらいなら食べなさ過ぎを意識するようにしたい。

が、やはり「空腹力」と題するほどの説得力としては弱い。

なぜなら「満腹より空腹」の主張は何度も繰り返されているが、「満腹でも空腹でもない通常状態」より空腹にすべき利点については見落とされているから。

とどのつまり、満腹か飢餓かという両極端ではなく、中庸が一番なのだろう。

適度に食べ、適度に動き、適度に休む。

この一見つまらなさそうなニュートラル状態こそが健康の秘訣なのだろう。

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