怪我を防ぎ自転車パフォーマンスを向上させる見逃されがちな筋肉たち

出力を生み出しているのはクランクでもペダルでもない。

パワーの根源はあくまで筋肉。

さすれば「如何に効率的にパワーを出すか」とは、すなわち「如何に効率的に筋肉を動かすか」ということに他ならない

筋肉とはすなわち、起始と停止によって骨格に接続し、収縮と弛緩により関節を動かす人体器官。

つまり、効率的に筋肉を動かすということは、効率的に関節を、体全体を動かすということであり、それは体幹や重心の制御にも通ずる。


ただ、筋肉の効率ということを考えるに前に、まずはそもそも筋肉について知っておかなければならない。

そのことに言及されているのが、今や日本のロードバイクコーチとしては第一人者になっている栗村修氏のこの本である。



栗村氏は他の場所でも同じように考えを述べており、「自転車選手はボディビルを学ぶべきです」と断言している。

17歳男性「腰の痛みはプロの選手でもよくあるケガなのでしょうか」


ウエイトトレーニングの世界では1つ1つの筋肉まで意識してトレーニングする。

1つ1つの筋肉を意識するようになると「なんとなく」で体を動かしていたのが、どの筋肉を収縮させてどの関節を伸展、屈曲させて走るのかまで考えるようになる。


例えばBikeRadarでは、重要な筋肉に焦点を当てて特集されている。

Work neglected muscles to prevent injury and make big cycling gains



内側広筋


最初に出てくるのはVastus Medialis(内側広筋)。



グレアム・オブリーのトレーニング本でも「we must learn to use the most neglected muscle in cycling, the vastus medial」と、内側広筋の重要性と活用の方法が強調されている。

その形から別名Tear Drop(涙の粒)とも呼ばれ、鏡に映った内側広筋を見ると感無量に浸ってたまらなくなるというとてもヤバい筋肉である。





腹横筋


次に出てくるのがTransversus abdominis(腹横筋)。




腹横筋は腹圧に関する重要な筋肉で、冒頭でリンクした腰痛とは切っても切れない関係である。

腹圧はウエイトトレーニングの世界では常識で、ウエイトトレーニングのBIG3といわれるスクワットとデッドリフトで誰もがぶち当たる壁である。

自分はトレーニングベルトを導入する前、まだ呼吸法もちゃんとしていなかったときにデッドリフトで限界まで追い込んで、文字通り「腰が砕ける」思いをした。ジムから出た瞬間歩き方が変になり腰をカクカクさせながらミッドタウンのブロードウェイを歩いて変態丸出しであった。

が、こんなに重要な腹圧なのに日本でペダリングと腹圧の関係を重要視しているのはフランキーたけ氏くらいしか見受けられない。



棘下筋


棘下筋のInfraspinatusは攻撃的で排他的。




肩胛骨から起始し、上半身の力を下半身に加える上肢帯筋の1つ。

ペダル、サドル、ハンドルという体を支える3点のうち、ハンドルを結ぶ重要な筋肉である。

が、ぶっちゃけ自分はそこまで棘下筋を意識して鍛えていない。

BikeRadarではベンチプレスが推奨されているが自分はBIG3の中で唯一全くやっていないのがベンチプレス。

上半身の体、特に脊柱起立筋、広背筋、菱形筋、僧帽筋といった背筋群はデッドリフトやプルアップでも鍛えられていくのでまずはそれで足りると考えている。

とはいえ、レースのクラッシュで負傷したのがまさしく右肩のローテーターカフ(回旋筋腱板)であり、いまだに完治していないのでまさに自分こそ強化すべき筋肉かもしれない。



中臀筋


中臀筋のGluteus Mediusは慎重かつ大胆。




股関節の外転、内旋の作用を行う。

いわゆるHip Abductionのマシーンでも鍛えることができるが、積極的に股関節の外転、内旋を行わないペダリングではHip Abductionマシーンの外旋動作による負荷で鍛えても効果は薄いと思われるので最近は他のコンパウンド種目で副次的に鍛えているのみである。

やはり臀筋の王様は股関節伸展の主動筋となり単関節筋でもある大臀筋で決まりだと思う。おそらくここでは「見逃されやすい筋肉」という特集なので、メジャーすぎる大臀筋は当然すぎて言及するまでもなしというスタンスになっているのかもしれない。そういえば前段の棘下筋も「そんなもんよりまずはLats(広背筋)やろー、石垣くぅーん!」と叫びそうになったがマイナー筋肉特集といわれれば納得である。





腸腰筋


最後はお馴染みの腸腰筋(Psoas)。



ボディービルディングやウエイトリフティングに興味がない人でもスポーツに関係するということで知名度が高い筋肉だが、一方で筋肉の名称だけ一人歩きしている感もある

たとえば腸腰筋は大腰筋、小腰筋、腸骨筋の総称であり、自転車のペダリングで腸腰筋が取り上げられる場合は股関節屈曲の作用を指している場合がほとんどだが、股関節屈曲の主動筋となっているのは大腰筋と腸骨筋だけである。小腰筋は構造上脊柱の屈曲補助のみで股関節屈曲の作用はない

同じく大腿四頭筋についても、以前の自分はとりあえず「大腿四頭筋」と一緒にして呼んでいたが、たとえば股関節の屈曲に働くのは大腿四頭筋のうち大腿直筋のみで、他の筋肉は股関節を動かす作用を持たない。

ちょうど大腿直筋が出たので補足しておきたいが、股関節屈曲に関わる筋肉は、大腰筋、腸骨筋の他には二関節筋である大腿直筋くらいしかないのでやはり腸腰筋は意識して鍛えていきたい部位である。

が、腸腰筋を鍛えるトレーニングは少なく、ニーレイズやレッグレイズくらいしかなく負荷もかけにくいのが悩みどころである。しかもフォームが少しでも崩れて骨盤で屈曲してしまっては腹直筋下部に効かせてしまうことになりかねない。




ただ腸腰筋を使いすぎた際は腰部の奥の起始付近でかなり疲労しているのを感じることができ、その痛みがまた気持ちよかったりするからドMである。


アブゥ。



4 件のコメント :

  1. ロードバイクの良いところに、私のような超ド平凡な人間でも、反復練習で身体の使い方を意識することが出来るようになるということがあります。ローラー台で平均90ケイデンスを一日一時間トレーニングすれば、一年間で197万回転…。
    ちなみに学生の頃バドミントン部だったのですが、練習ではともかくいざ試合となると、いつも頭の中は真っ白でしたw。

    大腰筋は最近になってようやくしっかり意識できるようになりました(凡人…)。一方で大臀筋はまだまだダメですね。。中々神経が通ってくれない。初心者ロードレーサー様は、ペダリング時どのようなイメージで大臀筋を活用していますでしょうか?


    …棘下筋キャラといえば、広島の街宮でしょうか。悪運だけでここまで来たと思うなよ、箱学ゥ!

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    1. やはりペダリングで意識することは重要ですね。本エントリ内でご紹介した栗村氏の本に「自転車の怖いところは使っていない筋肉があっても走れてしまうことです」というのがあります。バドミントンでは変な動きをすればシャトルがコートの外に飛んでいってしまいますが、自転車ではなまじペダルやクランクが固定されて必ず円形に回転するようになっている分、変な動きをしても自転車は前に進んでしまう=変なペダリングをしていてもそれに気付かずにそのフォームのまま走って(走れて)しまうという危険性があると思います。

      そのため、ペダリングでこれまで意識してこなかった筋肉をいきなり意識するというのは難しいかも知れません。というのも他の筋肉を使っても走れてしまうし、実際そうしてきたので体にそのクセがついてしまっているからです。となると他の筋肉を総動員しているペダリングでは(まだ大臀筋を意識できていない状態で)大臀筋のみに意識を持っていくのは難しく、では何をして大臀筋の神経を意識するかというと、個々の筋肉をアイソレートして刺激できるウエイトトレーニングに至るわけであります。ちなみに私のおすすめはデッドリフトです。大臀筋がプルプルして限界まで来ているのを肌で感じ取れます。

      大臀筋の活用=股関節の伸展なのでペダリング時にはパワーフェイズにおいて活躍します。股関節伸展に関わる筋肉は大臀筋とハムストリングですが、ハムストリングは二関節筋なので膝関節が屈折状態にある場合には大臀筋主動で股関節を伸展させることになります。大臀筋が使えていないということは膝関節の伸展でペダリングしていて股関節が使えていないということになるので股関節に意識を持っていけば股関節屈曲・伸展に関わる筋肉も意識できるかと思います(すでに股関節屈曲の大腰筋は意識できているということですし)。

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    2. なるほど、筋肉量を増やしてトルクをあげるという目的以外に、「使える筋肉」を養う意味でもウェイトトレーニングは有効なのですね!貴重なアドバイス、ありがとうございました。

      そういえば、高齢の方でもえらい速く走れる人いますよね。特にトラック競技では。
      トラックはロードバイクよりさらにシンプルなので、ひょっとしたら筋力の先にある領域にまで達している人がいるのかもしれません。
      お久しぶりです、師匠…(ゴキブリを見ながら)。

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    3. まさしく、「筋肉量を増やす以外に」というその部分が誤解されてしまっている箇所だと思います。
      たとえば「ウェイトトレーニングをすると肥大化した筋肉がついてしまってロードレーサーには向かない」という意見を見ることもありますが、それはまさしく「競輪選手みたいに脚が太くなるからロードバイクには乗りたくない」といっているロードデビュー前の人と同じ論理だと思います。

      自転車でもロードのような長距離走とトラックのような短距離走、さらにロードの中でもクリテやヒルクライムやTTで求められる能力が違いますが、ウェイトトレーニングも挙重量とReps(回数)によって鍛える能力が分かれており、トレーニングの仕方によって、最大筋力、筋パワー、筋肥大、筋持久力のどれに効かせるかといったことを意識してトレーニングしていきます。コメントいただきました「トルクをあげる」というのも、神経系を鍛えて(筋肉の物理的質量は変わらずに)出力を上げるのか、筋肥大させて出力を上げるのかという違ったアプローチがあります。

      日本語訳も出ている「短時間 効率的サイクリング・トレーニング」の著者も、ウェイトリフティングの大会に出るほどの熱心なウェイトリフターでサイクリストにとってのウェイトトレーニングのすすめを書かれていますが、上記の神経系のトレーニングを中心に取り上げています。
      http://www.training4cyclists.com/how-to-become-stronger-without-adding-muscle-mass/

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