VXXとVIX
前回はVXXのコンタンゴロスについて解説し、通常運転時はVXX価格は右肩下がりに下がっていくことを取り上げた。
が、そもそもVXXはVIX先物を元にしているためVIX先物の価格変動と連動して上下する。
VIX・・・。
正式名称Volatility Index。
CBOE(シカゴオプション取引所)が算出している指数で、S&P500オプション取引のボラティリティを元に算出している。
詳しい計算方法はCBOEのWhite Paperをご参考いただきたいが、性質としては暴落が起こると急上昇するという特徴を持つ。
VIX to reflect a new way to measure expected volatility, one that continues to be widely used by financial theorists, risk managers and volatility traders alike. The new VIX is based on the S&P 500® Index (SPXSM), the core index for U.S. equities, and estimates expected volatility by averaging the weighted prices of SPX puts and calls over a wide range of strike prices.
THE CBOE VOLATILITY INDEX - VIX(PDFリンク)
実際のVIXのチャートがこちら。ウソ発見器のように相場が暴落したときに跳ね上がって、危機が去ると元の水準に戻るのがわかる。
VXXショート戦略とは
この点、VXXショート戦略は以下の2種類にわけられる。
- キャピタルゲイン型:VIX急騰に合わせてVXXを売って短期売買益を狙う
- インカムゲイン型:VXXのコンタンゴロスによる長期安定収益を狙う
1と2は時間軸が違うだけではなく、本質的な収益源が異なる。
1はVIX先物自体の価格変動による売買差益を狙うものだが、2はあくまでコンタンゴになっている先物のロールオーバーロスを狙ったものである。
2の場合、長期で保有してコンタンゴロスによる効果をまるでインカムゲインのように受け取っていくもので、インカムゲイン型VXXショート戦略といえる。
この点、VXXの漸減効果による利回りはどれくらいかというと、過去の漸減結果によれば、月に5%~10%ほどになる。
Once I verified my index calculations I wanted to look at the nemesis of the long volatility funds like VXX and UVXY—yield losses. These losses, which can be 5% to 10% per month, occur when the CBOE S&P 500 Volatility Index (VIX) Futures that underlie these ETPs are more expensive than the market, or “spot” price.
The Cost of Contango—It’s Not the Daily Roll
月に5%~10%ということは、理論上、年間利回りでは60%以上という詐欺商品並みの莫大な利回りになる。
そう、あくまで理論上は・・・。
私がインカムゲイン型VXXショート戦略をしない理由(ワケ)
なぜ自分は理論上年間利回り60%以上になるインカムゲイン型VXXショート戦略を取らないのか。
それは暴落時のVaRを想定しても乗り切れるだけの余剰資金を確保した場合、実質年間利回りがそのリスクを取るだけのリターンに見合わないからである。
インカムゲイン型VXXショート戦略に対して、何も考えずに全力投入した場合何が起こるか・・・。
たとえば100万円分VXXを売れば毎月5万円以上の利益が出て、年間で160万円以上になる・・・。
何事もなければ・・・。
一方、VIX先物に連動しているため一旦暴落が起きるとVXXは急騰する。
実際、2015年8~9月のチャイナショックでは8月14日の255.84ドルから9月4日には469.28ドルまで1.83倍まで急騰している。
たとえば2015年8月の暴騰前、VXXが255.84ドルのときに100万円分売ってたとすると、3週間後にはVXXが469.28ドルになり83万円の含み損が出ていたことになる※。
※実際には証拠金が足りなくなった時点でマージンコールされる(詳細は以下参照)ので、「含み損」では済まずに強制ロスカットされて実現損となってしまう。
Any margin account will require some assets be present in the account to serve as margin. The initial amount of margin you need to put up for a short sale varies with the security, so you will need to investigate further, but if it is 50%, a typical number, you will need to have assets worth at least 50% of your initial short sale deposited in your margin account before you can do the sale. If your trade goes significantly against you and your asset to short position ratio drops below a certain threshold—typically 30%, you will get a margin call. At this point, you will either need to put up more assets or liquidate enough of your position to bring your asset to debt value back into line. This is not fun.
How to short VXX—the hard way and the easy way
つまり、「年間利回り60%以上」というのはあくまで100%資金を入れた場合の最大利回りであり、実際には全力でショートポジションを取った場合少し高騰しただけですぐにロスカットを食らってしまうため、この高利回りは絵に描いた餅にしかならない。
逆に言えば、インカムゲイン型VXXショート戦略で重要なのは、価格が急騰しても持ち堪えられるだけの証拠金余力を残しておくことであり、どこまで耐えられるようにするかの目利き、余剰証拠金管理が鍵を握ることになる。
リーマン級暴落の場合の実質利回り
ではどれくらいの余力を残しておけばVXXが急騰しても持ち堪えることができるのか。
FXのロスカットに対する証拠金管理等を経験している方は詳しいと思うが、空売りによる含み損拡大によって余剰証拠金がなくなり強制決済されるのを防ぐため、十分な余力資金を入れておくことになる。
例えば2倍程度の証拠金を確保しようとする場合、100万円口座にあったらVXXを売れるのは50万円分までとなる(50万円分がポジションを取るための証拠金として使われ、残りの50万円が余剰証拠金として下落時の「バッファ」として機能する)。逆に言えばその余剰証拠金を使い切ってマージンコールの閾値まで未実現損が積み上がれば晴れて強制ロスカットとなる。
先ほど確認した通り、VXXは2倍近くまでなら暴落でなくても達してしまうので、この「何倍まで耐えられるか」という基準を探るのが長期保有型(インカムゲイン型)VXXショート戦略の要となる。
ここでVaRの観点から、リーマンショック時のインパクトを予測できうる最大損失として基準にしてみる。
VIXからVXXの上昇幅を計算しているサイトによると、リーマンショック級(VIXが最高値を記録した2007年2月)の暴落が起こった場合、最大で15倍まで跳ね上がるとのことである(UVXYはVXXの2倍レバレッジ版だが、上昇率という点では同じ)。
Long volatility funds have not existed all that long, the first one was introduced in 2009, so we don’t have actual data for the earlier bear markets, but we do have historical data for the 2011 correction, where UVXY’s value went up 550% in a few months. In my simulation of UVXY’s prices that goes back to 2004, I show that that the prices of UVXY would have gone up 15X in the 2008/2009 crash. Now you can see why some people are interested in going long with these funds.
Is Shorting UVXY, TVIX, or VXX the Perfect Trade?
15倍のバッファ(余力)を確保しようとすると、100万円の場合VXXショートできる分は7万円弱(100万円÷15倍=6.66万円)。
7万円で60%の利回りだと年間収益は4.2万円(=7万円×60%)。
余剰確保分の100万円を投入資金として考えた場合、実質利回りは4.2%にしかならない(=4.2万円÷100万円)。
もちろん100年に1度と言われたリーマンショック級の暴落は起こらないかもしれないが、逆に200年に1度の暴落が起こるかもしれないし、1000年に1度の暴落が起こるかもしれない。
リーマンショックの半分くらいと考えて7倍程度まで余力を確保した場合、実質利回りは約8.6%まで確保できるが、どちらにしろ7倍以上の暴落になったら余力を食い潰して大損失確定となる。
ちなみに余力分を証券で担保して余力資産を現金で寝かしておかない(無駄にしない)という選択肢もあるが、その場合証券担保分は掛け目によって減額評価されるし、暴落が起これば株式も債券も毀損するので破綻確率を高めるだけになる。
優先出資証券ETFのPFFの利回りが約6.2%であることを考えると、「暴落が起きたら一発退場」というギャンブルといえるようなリスクを取るだけのメリットが4.2%~8.6%の利回りにあるのか・・・。
先物取引で短期ギャンブルするならまだしも、長期投資では「何かあったら終わり」ではなく、「何かあっても大丈夫」な戦略を取るべきであろう。
空売りの極意
キャピタルゲイン型もインカムゲイン型もどちらも空売りであるが、そもそも空売りと長期投資は相性が悪い。
買いで入る場合と違い、空売りは損失無限大、利益は最大(価格がゼロになった場合)でも2倍である。
つまり、空売りのポジションを長期で取り続けるのは非常にリスクが大きい。
よって、空売りはあくまで短期勝負に限定するべきで、イメージとしては上空を旋回している鷹が、一瞬の隙を見て急降下して獲物をしとめるが如く、スパッと入ってヒットアンドアウェイでポジションクローズするのが理想である。
といってもその「一瞬の隙」がなかなか起きないのがVXXショート。
逆にそんなに頻繁に暴落が起きていたらたまったものではないが、暴落する頻度が少ないという収益機会の少なさがキャピタルゲイン型VXXショート戦略のデメリットとなる。
ただ「棚からぼた餅」を得るためには棚の下にいなければいけない。
VXXショートとはまさしくぼた餅が転がってくるタイミングで棚の下にいるためにアンテナを張っておく戦略なのである。
今回の戦績
ということで今回のキャピタルゲイン型VXXショート。
ちょうど棚の下に居れたのでさっと収益機会をいただく。
理論的には持ち続けることができればいつかは必ずプラスになる取引。
上がったところで売ればいつかは元の水準(さらに待てばそれ以下)まで下がる。
VIXが上昇したのは8月、ご記憶にある方もいらっしゃるだろうが、トランプの「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面する」発言が出て地政学リスクが顕在化、アメリカと北朝鮮が大いなる口喧嘩を演じていたときである。
ショートポジションを取ったあとは元の水準で買い戻しの指値を入れて放っておくと、香港の旅程を終えたあたりで理論通りに約定。
確定利益は4,579.74ドル(≒51万円)。
銅先物で負けた100万円のマイナスの半分を取り返す・・・。
が、まだまだ半分取り返しただけ・・・。
TTバイクの夢は遥か彼方へと消えてしまったことには変わりないのであった・・・。
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