みなさまも今年一年お疲れ様でした。
年末と言えば税金。
今年一年の経済活動の総決算であります。
ある意味、我々市井の一般人は、ニンジンをぶら下げられて走る馬と同じ。
1年で言えば、4月くらいまでは税金を払うためだけに働かされてるようなもの。
ジムロジャースのようにシンガポールに移民※して税金を回避している例もありますが、世界で一番厳しいアメリカにいる限り税金から逃げることはできない。
※アメリカは属人主義なので移住してアメリカの非居住者になるだけでは納税義務から逃れることはできず、アメリカ国籍や永住権を放棄しない限り納税義務が発生する。ちなみに日本は属地主義なので日本の非居住者になれば日本国外の収入には課税されない。
どうせ逃げられないなら目を逸らすよりも真っ正面から向き合おう。
ということで前回詳しく見ていったアメリカの新税制であるが、今回は各ニュースメディアの情報を元に大局図をみていきたい。
ミドルクラス2万5千世帯のビジュアル化
まずはニューヨークタイムズの「What the Tax Bill Would Look Like for 25,000 Middle-Class Families」より。
世帯収入4万ドル~14万ドル(≒450万円~1580万円)の中間層(グラフ内の縦軸)のうち、様々な条件(単身、夫婦、子どものあるなし等)を組み合わせた2万5千世帯について、彼らの税金が増えるのか減るのかをビジュアル的なグラフにしている。
グラフ下部に記載してあるとおり、赤いドットは税金が増える人、緑のドットは税金が減る人になり、左右に行けば行くほど(中央から外れれば外れるほど)税制変更による増減影響が大きくなる。
これを見ると、今回の税改正で増税になってしまうのは「一部の人」どころではなく、相当数の世帯が増税になることがわかる。
さらに前回取り上げたSALT控除について比較されているのがこちら。
左は地方税がほとんどない州に住んでいる場合で、右は地方税が高いニューヨークやカリフォルニア、ニュージャージーに住む世帯の場合。
地方税が高ければ高いほど今回の税改正で増税になる場合が増えるということが一目瞭然である。
SALT控除の減少を巡っては、増税インパクトが大きくなるニューヨーク州のクオモ知事が早速反応している。
税制改革法では、州・地方の所得税・不動産税控除の上限を1万ドルに設定。同知事は、この条項がニューヨーク州の住民が保有する「適正手続き」と「平等の保護」の権利を侵害する恐れがあるとの認識を示した。
同条項では、高所得者が多く不動産価値も高いニューヨーク州、ニュージャージー州、カリフォルニア州などの納税者が打撃を受ける。こうした州は総じて民主党の地盤となっている。
クオモ知事とカリフォルニア州のブラウン知事(民主党)は先に、州・地方税控除の上限設定に対する法的措置を検討する方針を示していた。
クオモ知事は、ニューヨーク州が税制改正を提案することも明らかにしたが、詳細には触れなかった。
米税制改革法、違憲の可能性=NY州知事
SALT控除減少の増税インパクトが直撃するニューヨーク、ニュージャージー、カリフォルニア州を中心に、固定資産税を年内に払って節税するように薦める記事がネットにも溢れている(来年度分の固定資産税を来年払うとSALT控除の上限を超えてしまい控除できなくなるので、SALT控除が無制限である今年中に先払いすることで今年分の税金を安くする)。
また、子どもの数によって受ける恩恵(Child Tax Credit)が変わり、こちらも子どもが増えるほど税金が減る傾向がわかる。
ケーススタディ:新税制で損する人、得する人
これらを踏まえて、様々な世帯の例をもとにケーススタディーをしているのがCNNの「How much you'd pay under GOP tax plan depends on a million things」のサイト。
ちなみに「家族世帯」や「世帯主」というのは申告ステータスを指す。米国の場合、申告ステータスによって控除や税率が異なる。
事例1:カリフォルニア州サンディエゴの家族世帯
SALT控除の影響で項目別控除が減るが、標準控除に切り替えることに加え、子どもによる減税効果により大きく減税に。
→新税制では3,559ドルの減税になる。
- 15万ドルの世帯収入
- 既婚で17歳以下の子どもが1人
- 持ち家
- 現(旧)税制での項目別控除2万2千ドル
事例2:ミズーリ州カンザスシティの世帯主
ほぼ2倍になった標準控除と子どもによる減税効果により大きく減税に。
→新税制では1,802ドルの減税になる。
- 4万5千ドルの世帯収入
- 2人の子どもを持つ1人親家庭
- 借家
- 現(旧)税制での標準控除9,550ドル
事例3:ニューヨーク州クイーンズの独身世帯
12万ドルの世帯収入の税率は28%から24%と減税になるものの、地方税の高いニューヨーク州に住んでいるためSALT控除減少で打ち消されてしまいほぼトントンという結果に。
→新税制では101ドルの減税になる。
- 12万ドルの世帯収入
- 子どもなし
- 持ち家
- 現(旧)税制での項目別控除2万2千500ドル
事例4:コロラド州ウエストミンスターの独身世帯
7万ドルの世帯収入の税率は25%から22%と減税になるものの、事業経費が控除対象から外れることで税額が膨らみ増税に。
→新税制では1,484ドルの増税になる。
- 7万ドルの世帯収入
- 子どもなし
- 持ち家
- 旧税制では控除可能だった1万ドルの事業経費あり
- 現(旧)税制での項目別控除1万9千600ドル
事例5:ニューヨーク州ニューヨーク市の独身世帯
収入では減税効果の大きい富裕層に属するものの、SALT控除減少の衝撃をモロに受けて13万5千ドルの項目別控除が1万ドルまでしか認められなくなり大幅増税に。
→新税制では6,470ドルの減税になる。
- 50万ドルの世帯収入
- 子どもなし
- 持ち家
- 現(旧)税制での項目別控除13万5千ドル
新税制の概算シミュレーター
こちらのCNNのサイトでは、新税制によってどれだけの増減税効果があるか、大まかな条件(年収や申告区分、子どもの数等)を選択することで概算をシミュレーションできるようになっている。
いろいろ試してみると、世間で言われている通り金持ちに優遇的であることがわかるが、やはりSALT控除の影響がバカでかいことがわかる。
例えばこちら。薄く黄色でハイライトされている項目がSALT控除による影響を判定する選択肢になっており、地方税の高い州に該当するかどうかをYes/Noで選択することになっている。
富裕層であれば減税効果も大きくプラスだが・・・。
地方税が高い州のチェックをYESにするだけで世界が一変し、増税になってしまう。
そしてみんな敗者になる
さらに注目すべきは2026年から。
例えば先程取り上げた、「富裕層で子どもがいて地方税が低い州に住んでいる」という最適な条件の場合、新税制が適用される2018年からは3%以上の減税効果が見込めるのだが、それでも2026年には増税インパクトになってしまう。
なぜなら今回の新税制のほぼ全ては時限立法であり、2026年からは期限が切れて元の旧税制に戻ってしまうためである。
それならまだ戻るだけでいいのだが、「ほぼ全て」の例外は税金計算に使われるインフレ指数の変更。
旧税制の固定CPI(Consumer Price Index、消費者物価指数)よりも、インフレによる増税インパクトを受けやすいChain-weighted CPIに変更された上、この変更は時限立法ではなく2026年以降も引き続き適用されるため、増税効果のある変更のみ残り続けることになる(CPIの改善版とも言えるC-CPIの方が実際のインフレに即しているのでより「正確」ではあるのだが・・・)。
つまり、2026年になると基本的に全世帯が損をすることになる。
まさに勝者無き世界が待っているのであった・・・。
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