大都市におけるスポーツ自転車の危険走行とその環境

今回のエントリは閑話休題として、気になったアウトサイダーさんのエントリにトラックバックさせていただきたいと思う。

スーパーJチャンネルで放送されたという「無法自転車族」の特集。



一言で書くと、首都圏でロードレーサーの集団が赤信号無視の高速走行をしていて危険だという報道である。



自分が気になったのは、「集団で信号無視」のところ。



とはいえ、「人生で一度も信号無視したことありません」と言えるほど出来た人間でもないので、敢えて交通法規云々については言わないが、高速走行したまま赤信号を突っ切るのは危ないなぁと思う。

ちなみに自分は公道ではスピードを出さないようにしている。正確に言うと、「出さない」のではなく、「(怖くて)出せない」のである。

自動車通行禁止で、自転車道と歩道が分かれているプロスペクトパークでさえ、病院に運ばれる事故を経験した身としては、不確定要素が強すぎる公道でスピードを出すのは自殺行為に等しい

自分の場合、交通法規を守りたいからではなく、自分自身を守りたいからディフェンシブライディング(事故を防ぐための消極的な走り)をせざるをえない。というか、今まで鍛え育ててきた脚が大事なら、間違っても危険な走行などできないはずであるのだが…。



ニューヨークでは路上駐車が普通で、両側に止まった車の間から子供も飛び出してくるし、確認もせずにいきなりドアを開けるし、ウィンカーを出さずに曲がる車も多いし、そもそも信号機自体が壊れていることもある。ちなみに以前、自宅の前で驚愕した光景は、車道を挟んだ両側の歩道で野球をやっているのである。つまり、片方の歩道からボールを投げ、反対側の歩道でバットを振っている…。

逆に日本は交通ルールをみんな守るから危険な走行ができるのかもしれない。こちらから言わせると、他者へのすごい信頼感である。



ニューヨークでははっきり行って他者をそれほど信頼できない。先に書いた通り、ウィンカーも出さずに曲がってくる車に巻き込まれかけたこともあり、安全運転に徹しなければ、それこそ一生ペダルが漕げない体になってしまう危険性がある。つまり、自転車というスポーツを楽しみたいからこそ、危険な運転を公道ではできないのである。


■自転車競技というスポーツができる環境

ただ、一方で、報道されたような自転車乗りに対して、肯定はできないが同情はできる

大都市でははっきりいって自由にスピードを出せる公道はないに等しい。

実際に東京で自転車に乗っていた自分としては、都内は言うに及ばず、荒川の下流でも20km/hの速度制限が出来、およそ自転車競技のトレーニングを思う存分にできる環境はほとんどないと思う。

幸い、ニューヨークにはセントラルパークもあれば、プロスペクトパークもあるし、トラック用のベロドロームもある。プロスペクトパークで全力でタイムアタックした帰りは、そもそも疲れていてスピードを出せない。わざわざ全力を出せるサーキットがあるのに、公道でスピードを出す意味がないのである。

そこには大都市ながらも自転車競技を育む練習環境があり、実際に、クイーンズ出身でツール・ド・フランスにも出ているジョージ・ヒンカピーといった実績もある

少なくともニューヨークでは、ロードバイクは「郊外に住んでる人にしか楽しめないスポーツ」にはなっていない。


■ニューヨークの自転車事情の裏側

この点、誤解をしないでいただきたいのは、ニューヨークが単にたまたま 自転車に恵まれた環境なわけではない

以前、セントラルパークでの取り締まりが厳しくなったことを取り上げたが、すぐさま自転車団体がロビー活動を展開し、一般のサイクリストも署名や投稿をして、ニューヨーク市警とのコネクションを持つ市議会議員に働きかけをしている

今月にあったプロスペクトパークの公園運営会議にも、自転車通勤団体代表としてTransportation Alternativeだけでなく、自転車競技団体代表としてうちのレースチームのメンバーも出席して、自転車の利用環境やニーズの訴えかけをしている。

アメリカでは声を上げないと主張が通らないので、このように人を集め、金を集めて自転車という存在を社会の中で確保していくのである。例えば荒川下流域のスピード制限が決められたとき、おそらくその場には自転車団体の代表者はいなかったのではないだろうか。

つまり、自転車に恵まれた環境は決してたまたまなものではなく、自分達で努力し、勝ち取ってきた闘争の成果であるわけである。

ただ、日本でもアメリカでも共通して言えるのは、自分の身は自分で守ることである。

それは、公道では安全運転に徹することに通ずる。

例えば時速40kmで赤信号を無視した集団に車が突っ込んできたら…

この光景を思うと、公道で高速走行をする気にはなれないし、赤信号を突っ切るのも最早勇気以前に命知らずな気がする。




6 件のコメント :

  1. とある自転車乗り2011年9月28日 11:37

    いつも楽しく読ませて頂いております。
    例の埠頭ですね。倉庫街ゆえに日曜はほとんど車がおらず、自分も使用していましたが、いつかはTVなどで取り上げられ、締め出される日が来るとは思っていました。おっしゃられている通り、集団走行で練習する場があまりにもないのが原因だとは思いますが、信号無視は法律違反ですからねぇ。日本では、車の方が自転車などを轢かないよう慎重に走り、自転車は歩道と車道を好き勝手に動き回っているといった感じでしょうか。競技車だけでなく、いわゆるママチャリもひどい走り方が多いです。
    集団信号無視の写真ですが、そこはT字路で、左側も柵があって、車が来る可能性がまずないところです。それ故無視してしまいがちです。逆に、二枚目の写真のところは柵がなく、たまに車が通りますし、見通しも悪いので非常に危険です(ご存知でしたらすいません)。当然、ここでは救急車を何度も目にしました。
    行政に任せっきりでは、間違いなく肩身が狭くなっていくだけなので、自転車団体がもっと積極的に動いていかないといけないんでしょうね。「SHARE THE ROAD」という活動もありますが、まだまだといった印象です。思い切って都内に自転車競技の練習場所を作ってしまう(週末限定などで)のもアリだと思うのですが。
    あぁ、何だかまとまりない文章になってしまいました。。。
    今後の記事も楽しみにしています。特にそちらのレース事情をぜひ!!

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  2. 自分の記事を引用してくださって、ありがとうございます。
    確かに自分も東京都内では、せいぜいポタリング程度の走行しか出来ませんでしたが、だからと言って埠頭での暴走行為に加わる気は毛頭なかったです。
    川沿いのサイクリングロードも似たような状況ですね。あそこもいつかは走行禁止になりそうです。
    ただ競技できる場は少ないですね。というか無いです。
    毎週レースに参加できるような環境は欲しいです。。
    ああいう報道がなされると、真面目なライダーまで暴走族と捉えられてしまうのが一番の懸念です。

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  3. 自分はたまたま自動車や歩行者や信号等に気兼ねせず全力で走れる環境が近くにある地方都市に住んでいるのですが、確かに都心の自転車乗りは走る環境が無くて大変そうですね。
    しかしそれでも暴走行為は自分も含めた皆が不幸になるでしょうから、減っていってほしいです。
    とりあえず自分は職場の同僚に危険な自転車の乗り方をしないよう地道に伝導していきます。
    しかし最後の写真には驚きました・・・!
    Σ(゚Д゚;エーッ!

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  4. 初心者ロードレーサー2011年9月28日 23:59

    詳細ありがとうございます。私は現場には行ったことがないので、T字路や見通し等、画像では見えない部分もわかりました。
    ほとんど車が来ない場所は個人的には逆に要注意だと思っています。ニューヨークでもそういうところはありますが、交通量が少ない分、車の方も油断していたりスピードを出していたりすることが多く、衝突する確率は少ないものの、もし衝突したら大事故になるケースかと思います。
    私もプロスペクトパークやセントラルパークで歩行者と自転車、自転車と自転車の事故による救急車を何度も見ていますが、対自動車でないのがせめてもの救いだと思っています。むしろ対自動車はなんとしても防ぎたいところであります。
    ちなみにニューヨークは歩道を走ってる自転車は稀で、9割以上の自転車は車道を走ってますが、今回遠征したヨーロッパではむしろ日本に近かったでした。今後、日米欧の自転車文化も比較して取り上げていければと思います。

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  5. 初心者ロードレーサー2011年9月29日 0:00

    マスコミの報道はイメージ醸成を狙ってか決め付けで報道することもありますよね。交通法規違反をしている場合は弁解の余地はありませんが、スポーツ自転車ブーム、ロードバイク、高速走行と暴走といったキーワードを結びつけることで、交通違反をしていなくてもそういう目で見られてしまうとたまったものではありませんし。

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  6. 初心者ロードレーサー2011年9月29日 0:09

    私も、プロスペクトパークというサーキットがなければ確実に今のレベルまで成長できなかったので、練習環境に恵まれていると思います。
    最後の写真はレース中の集団に飲酒運転の自動車が突っ込んできた光景で、1人の死亡者を含め10数名の死傷者が出たとのことです。レース中ですら実際にこんな事故が起こってることを考えると、集団で信号無視はかなりリスキーな行為だと感じてしまいます。
    私もこのブログで自転車を取り巻く各種問題を取り上げたりして自転車文化の発展に微力ながら助力していければと思います。

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