スタート地点に並ぶ。
スタッフから、エリート選手の名前が呼ばれる。
エリート選手は優先的にスタートラインの最前列からスタートできるようにアレンジされる。
名前が呼ばれたのはジェイソン。彼は様々なヒルクライムレースで表彰台の常連で、ヒルクライムシリーズのシリーズチャンピオンになったこともある東海岸最強ヒルクライマーの1人。スタッフからも「あのマウントワシントンで1時間切りの記録を持つ」として紹介される。
ほどなくしてレーススタート。
スタートラインで混雑し、片足を地面につきながら歩いてスタートラインの計測ボードを通過。そこでいきなり先頭との差が開いてしまう。
長丁場かつ急勾配のヒルクライムであれば、最初のスタートで遅れようとも自分のペースを守った方がよいのだろうが、今回のレースは20分もかからない短距離勝負。さらに最初は勾配も緩いということで先頭集団から離されるわけにはいかない。
前に追いついては追い抜きを繰り返し、その間にもアタックが繰り広げられる中で自分も出力を出して追いかける。(※ペダリングモニター図では、勾配がきついためトルクのベクトルがかかる位置(3時に該当する角度)がずれている)
最初の3分の平均が5.85w/kg。
時にはペース配分を無視してペダルを回す。
そこから先頭集団に追いついて少し落ち着いたものの引き続き集団内は活性化していてアタックもあり、結局、6分強あったState Parkに入るまでの公道区間は5.5w/kg。
いつもの自分のペースからいえば明らかにオーバーペース。
先頭集団から飛び出して先に行った選手もいるものの、State Parkに入ってからは集団も絞れてきて自分を含めて3、4人ほど。
最初はかなりのオーバーペースであったものの、逆にそこまで追い込めている状態に手応えを感じる。
タイムトライアルは自分のペースを維持するのが大事だが、レースは先頭が動けばパワーなんて関係無しにこちらも力を出さねばいけない。
この点、これまでのタイムトライアルでは少なからずブレーキをかけてしまっていたのだろうが、今回はスタート後のアタックで上手い具合に力を発揮でき、自分の限界を突破させてくれた感がある。
その後も下り区間で抜いたりしたが、逆に抜かれたりもしながら高出力を保ち続けて行く。
少人数集団のまま、残り750メートル・・・。
最後のスプリントに向けてダンシングの足を溜めており準備は万端。
が、雲の中に入ってしまったため、目の前はすごい霧で20メートル先も見えない。
去年、同じく雲の中を走ったエキノックスの再来である。
下り区間に入り、左コーナー、右コーナーと続くシケインに。
右コーナー中でバンクして(車体&体が傾いて)いるところに、後ろから来た選手が自分にぶつかってくるッ!
「Sorry! Sorry!!」と叫ぶ選手。
コーナリング中、まだクリッピングポイントに達する手前、トラクションもかけれていない不安定な状態で横からぶつけられ、体勢を崩す。
雨が降る中のウェットな路面ということもあり、一気にグリップを失い滑るような形でコーナーの外へ。
ガシャーンッ!
バキッ!グシャ!ピヨピヨ!
草地の奥にある林にまで突っ込む手前で落車。
・・・。
・・・・・・。
体は・・・!?
まだ動く!!
雨で濡れた地面は、クラッシュという点ではアンラッキーだが、クラッシュ後の怪我という点ではラッキーだった。
体は泥で汚れ、草木で擦り切れた擦り傷やミミズ腫れはあるが致命傷はない。
関節も骨も問題ない(少なくとも落車直後のこのときは・・・)。
ロードバイクのチェーンがチェーンリングから外れてしまっているのですぐに直す・・・。
が・・・、チェーンリングにかけてもうまくはまらない・・・。
冷静になって見てみると、プーリーの部分でもずれてチェーンが一回転して捻れてしまっている。
チェーンの捻れを直すのに手間取り、その間に何人もの選手に抜かれる。
もう好タイムも望むべくもなく、これがクリテだったらDNFでもしようものだが、あと750メートルという距離では頂上まで上った方が早いので諦めずに手を動かす。
やっとチェーンを直して出発。
が、50メートルほどいったところでパイオニアのサイコン、SGX-CA500がなくなっていることに気付く。
ゴールしてから取りに戻ればいいかとも思ったが、そもそもゴール後のダウンヒルではクラッシュ地点がわからなくなる不安があったので引き返す。
��実際、下山時では別ルートを通って下山することになったのでこのとき拾いに行っておいて正解であった。さらに、パイオニアのSGX-CA500は、初期設定で停止時に自動的にラップを切るようになっていてそのまま使っていたため、停止していた時間をあとから確認することができた。)
以前Garmin Edge 700の結束バンドが切れて橋の下まで吹っ飛んでいったときは10分以上捜索に時間がかかったこともあったので、今回も林の中の草むらに入り込んでいたりすればすごく時間がかかってしまうのではと不安になる。
が、幸い雑草の上にある黒い物体・・・SGX-CA500をすぐに見つけることができた。。
そこから再スタート。
もともと速度域が違う他の後続選手を数人抜いてゴール。
ズキズキ、ヒリヒリ痛む擦過傷を感じながら預けておいたバッグを受け取る。
と、ぶつかってきた選手が謝ってきた。
前を走っていたこちらは相手を確認する余裕などなく、声を掛けられなければわからず仕舞いだったので彼のスポーツマンシップに感謝である。
感謝、というのは、残り750メートルという状態だったので、彼のタイムを確認することで自分がクラッシュしなかった場合にどれくらいのタイムでゴールできていたかの参考になるからである。
以前のニューヨークのレースのように、怒鳴り散らしてくればこちらも怒鳴り返してあげるのだが、素直に謝られては怒りをぶつける気にもならず「レースだから気にすんな。」といってお互いの検討を讃えあう。
今月末にあるヒルクライムレース第二戦にも出るのかと聞くと、「出る」との回答。
そこでの再戦とリベンジを誓ってわかれる。
ちなみに後でわかったのだが、自分に接触したこの選手はレース前に最前列に案内されていたジェイソンその人であった。
カテゴリー2位でゴールした彼と同じレベルで競えていたことからも、今回は激しくコンディションや追い込み方が良かったことがわかり、より一層リザルトに残る走りができなかったことが悔やまれる。
さらにもう1人新しい出会いが。
声を掛けてきた男性はマイク。
話を聞くと、彼はペンシルバニアからきており、なんと前回のハイポイントヒルクライムTTで、自分と全く同じタイムだったとのこと。
しかも生まれは日本の岩国。
岩国には米軍岩国基地があるので、おそらくご両親が米軍関連の仕事をされていたのだろう。
自分も同じタイムの人がいることは気付いていたが、日本と接点がある彼にとって、日本人の自分の名前がかなり気になっていたのだと思う。
生まれてからすぐにアメリカに戻ってきてしまったので記憶はほとんどないということだが、日本と少しでも所縁のある人が、それから40年以上も経ったあと、趣味の自転車で自分と同じタイムで競い合っている日本人を見つけたときの心境たるは如何なるものだったのかと思うと感慨深いものがある。
■自転車に乗る理由
今回のレースを通じてはっきりとわかったことがある。
それはなぜ自分が自転車に乗るのかである。
以前、同僚の女性から半ば呆れ顔で聞かれたことがある。
「なんでそんなに自転車にハマってるんですか?風を切って走るのが気持ちいいからとかですか?」と。
違う・・・。
全然違う・・・。
なぜ走るのか。
それは競い合える強敵がいるからである(※もちろん「強敵」と書いて「友」と読む(笑))
競え合えるライバルがいる。
切磋琢磨できる相手がいる。
思うに、自分にとってのレースとは発表会のようなものである。
普段全く違う世界で暮らしているライバル達。
人種も言語も異なり、違う生活を送っている者たちが、自転車という共通の手段を通じて一同に介し、努力の結果をぶつけ合う真剣勝負。
去年競った強敵と今年も競う。
この1年どう過ごしてきたか、地道に努力を続けてきた者もいれば、怠けた者もいる。
それぞれの1年の結果を見せ合う発表会。
ピアノの発表会がピアノで表現するように、
レースにも余計な言葉は要らず、脚で魅せればいい。
せっかくそんな相手がいて、そんな場があるのだから、無様な姿は見せたくない。
だから今日もペダルを回す。
そう考えると、やはり一番大事なのはフレームでもホイールでもコンポでもなく、「人」なのである。
自転車が繋ぐ人との絆が毎日トレーニングをするモチベーションとなる。
数秒の差で凌ぎを削るいまっちさんや、宿敵となったジェイソン、同タイムのマイク・・・。
彼らとの次のヒルクライムレースまであと三週間。
その三週間で誰がどこまでレベルアップできるか。
競い合えるライバルの存在、
それが今の自分を支えている。
■さらば、Trek Madone 6.9 Pro
レースを終えて下山。
下山しているとまだ雪が積もっている箇所も。
山頂は低い雲に覆われており、下山して雲から抜け出すと雨は止んでいた。
泥で汚れた体をふき、血をぬぐう。
落車の衝撃か、クリートもボロボロで換えないといけない。
自転車もペーパータオルで拭いて泥と雨で濡れたフレームをふいていく・・・。
と・・・。
フレームの左側、チェーンステーが割れてしまっている。
機材なんかのせいで、漢と漢の真剣勝負に水を挿された感じである。(※もちろん「漢」と書いて「おとこ」と読む(笑))
三週間後の決戦に向けて体を鍛えていかなければならないというのに・・・。
目の前に・・・暗雲が垂れ込んだ・・・。
レースお疲れ様でした。まずは身体が無事で何よりです。
返信削除レースとは発表会のようなもの…そういえば「勝利で得るものとは、決められた枠組みからの自由(超越)と、他者からの承認」と聞いたことがあります。スポーツで闘争心を昇華し、お互いを認め合えれば世界はずっと平和になれるかもですね。
マドン6.9大破はショックですね!しかしこれはフレーム乗り換えへの啓示…ロボットアニメ的なw
お疲れ様でした。
返信削除お怪我がなくなによりです。
そして…紳士な対応ですね。
タイトルでまず笑いましたw
返信削除タイトルからもしかして大怪我したのかなと思ってましたが、まさかマシンダメージがあったとは。
ビニールテープでも貼ってればなんとか数レース走れるのかな・・。
過去の記事を読んでて思いますけど、あれだけクラッシュしといて今まで平気だったのが凄いですよ。
マシンチェンジするいい機会なんじゃないですか。
次はGiant Propelとか?(笑)
戦いに水をさされたどころか、ここで新マシン登場とかストーリー的に熱い展開ですよ!!
レースはお金がかかりますね。次のレースはご無事でm(_ _)m
返信削除身体は実はまだ右肩の関節に違和感があって微妙な感じだったりします。
返信削除あと2週間後までには全快すると思うのですが・・・。
これがロボットアニメだったら一気にレベルアップになるんでしょうが自転車のフレームはお金がかかるわりにタイムに対して影響が少ないのがつらいところです・・・。
こちらでは意外と(失礼?)みんな紳士な方が多いです。走っていて怒鳴ってくる人もいますがロードに乗っている方はレースは激しくてもフレンドリーで紳士的な方だと思います。
返信削除たしかにクラッシュももう何度もしてるんでけっこうフレーム酷使してるんですよね。
返信削除とはいえプロのレースで使われているフレームなので、それに比べたら普段かけてる負荷も、クラッシュ時の激しさもかわいいものなのかもしれませんが。
マシンチェンジはしたいところですが、いかんせん値が張るので財布の紐という分厚い現実の壁があります・・・w
レースに移動に、ホテルに、そして機材破損した場合の交換と、やはりロードバイクという趣味は金食い虫です。まあモータースポーツに比べればずいぶん安く済んでるのでマシな方かもしれませんが(と、自分自身に言い訳をしてみるという・・・w)
返信削除お身体の方が大丈夫で何よりでした。でも、フレームの傷=心のダメージって感じで、自分だったらかなりメンタル面で落ち込みます。それをネタにできるとは、ブログ魂を感じ、流石です(純粋に誉め言葉)。こうなったら、フル中華カーボンで!
返信削除クラッシュたいへんでしたね。おおきなケガがなくてなによりです。
返信削除新城も落車でひどいケガをしたようです。ロードレースは危険と隣り合わせですね。
戦隊ものとか、仮面ライダーではこの場合、新しい武器とか、新メンバーが加わるお約束ですから、
ブログ主さんのウェポンもグレードアップして4000ドルのフレームに電動デュラ、カーボンホイールに成るハズ?
午前中…某国際ロードレース激坂をハイキング(途中から押して歩いた)
返信削除確かに紳士な人が多いです⁉︎
すれ違う時は、爽やかに挨拶されるし、
話掛けられることも多い。
いやいや、かなりメンタル面で落ち込みました。フレームは速さにはあんまり関係ないとわかっていても心も財布も不安です。。。逆にネタにでもしないことには報われません(笑)
返信削除電動デュラ、実はかなり気になってたんですよ。特にヒルクライム専用機を作る場合にクライマースイッチを使えば重いSTIを外せるなぁと・・・。ただ電池や他のもので重量増になるので重量的にはそこまでしてもあまり変わらないかもしれませんが・・・。
返信削除すれ違うときに挨拶するハイキングのハイカーたちと同じ感じなのかもしれませんね。私も自転車通勤してると顔なじみもできてきて、声かけたりかけられたりします。
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