社畜による社畜のための格差社会



最近食あたり気味なほど聞かれるのが、格差拡大うんぬんの報道。

ピケティのせいか、最近日本でも格差拡大うんぬんを取り上げる報道が増えてきたように思える。

が、どうみてもおかしかったり、違和感を覚える報道も多い。

これは自分が日本の外にいるせいで、「自分の常識、日本の非常識」になってしまっているのか。それとも単に報道がおかしいのか。

格差報道でよく槍玉に挙げられるのが、世間と違う論理で動いていると揶揄されるニューヨークのウォール街だが、実際にニューヨークの金融業界で働く社畜としては黙っていられない。




格差を批判するマスゴミが陥る7つの落とし穴

この点、抽象的な話しばかりしてもわかりにくく、何か具体的な対象が欲しいので、去年の年末(12月16日)に放送された「池上彰の緊急スペシャル!なぜ世界から格差はなくならないのか?」を遅ればせながら取り上げてみたい。





1.目くそ鼻くそを笑うの巻

そもそもこういった議論で滑稽なのが、富裕層が超富裕層を取り上げて揶揄しているところ

池上彰にしろ、他の芸能人にしろ、富裕層に該当しているであろう人たちが、超富裕層の説明を受けて「わあー、こんなに資産があるの?!」と驚いているのだから白々しいことこの上ない。

このことは以下サイトでも取り上げられているので引用しておきたい。

時間が許せば、ピケティ本でのトップ所得のシェアというのは、トップ所得者の所得が国民所得に占める比率であること、例えば、トップ1%は20歳以上の人口の中で所得が上位1%に相当する個人だ、といいたかった。しかし、そうした時間はテレビでないので、日本でトップ1%とは年収いくらなのかについて、年収1300万円とだけ言った。

そうしたら、筆者の隣の女子アナがびっくりした。何か、スタジオ全体が「えー。ウソ」という感じで凍り付いたようだった。一緒に出演していた森永卓郎氏を含めて出演者すべて、さらにはスタジオの一部の人が自分はトップ1%だと認識したようだ。

「ピケティ格差解説」番組に出たら、出演者がみんな「所得トップ1%に入る年収」だった


2.富裕層批判をしているピケティは超富裕層

そして番組でも取り上げられているピケティ。




ご存知の通り彼の著書である「Le Capital au XXIe siècle」(邦題「21世紀の資本」)は全世界で100万部以上、邦訳だけでも15万部を超えるベストセラーとなり、印税だけでも(彼自身が批判している)上位1%の富裕層になっている。

元々の大学教授という地位、収入に加え、印税や公演による所得、そして全世界的なその知名度。まさに資産、名声ともにまごうことなき超富裕層である。

ピケティは著書の中の主張として、富裕層への増税によって富を再分配して格差を縮小するように提言している。

が、実際に彼がやったことといえば、不特定多数の人に本を売って、うす~く、ひろ~く富を吸収して富裕層(ピケティ自身)へ富を集中させるという、再分配とは全く逆のことである。

自分自身が格差を拡大させておきながら「お前が言うな!」の厚顔無恥状態である。


3.自分勝手だと批判する自分勝手なナマポの話

最初に番組で紹介されたのは富裕層が作った町で、富裕層の税金によって様々な行政サービスが提供されている。

逆に富裕層が独立した町を作ったことで、もともと富裕層が暮らしていた州の税金が足りなくなって行政サービスに様々な問題が出ているという。

そのインタビューで出てくるのは、生活保護を受けながら6人の子供を持つという女性

富裕層だけで独立してしまうなんて自分勝手だと富裕層を批判している。




番組では「富裕層って自分勝手だね」って論調で話が進められてしまうがちょっと待ってくれと、

この人、なんで生活保護を受けてるのに6人も子供を作ってるんだろう・・・?(´・ω ・`)  ということに何で誰も猛烈な違和感を抱かないのだろうか・・・。

百歩譲って「1人だけ作ろうとしたら6つ子が産まれてしまった」というのなら不可抗力な部分もあるのでまだ許せる。





が、この人は生活保護を受けるほど生活に困っており、子供を育てるだけの余裕もないくせに6人も作っており、無責任極まりない。

もちろん子供には罪はないので子供たちは適切なサポートを受けるべきだとは思うが、自分勝手に子供を作ったこの親に富裕層を自分勝手だと批判する資格はない

常識問題として、子供を育てるのは親の責任であり、その責任には金銭面での責任も含まれるのではないだろうか。


実際、日本の少子化の原因として、経済的な理由が足枷になっていることは「国立社会保障・人口問題研究所」のレポート(PDFリンク)でも記載されている。

既婚女性の出生率が低下している理由には、子育ての費用負担が大きいことがあると言われている。国立社会保障・人口問題研究所(1997) は、夫婦が理想子ども数を持たない大きな理由として「子どもを育てるのに費用がかかるから」、「子どもの教育費にお金がかかるから」があげられると報告しており、またそれを理由としてあげる夫婦がこの 10年で増加していることを指摘している。


子供とはある意味人生で最も高い買い物の1つであることを考えれば、無計画かつ無責任に6人も子供を作ったこの生活保護受給者は、返済能力もないのに高い買い物をしまくるカードローン破産者の行動と変わらない

結婚・出産・子供2人の養育で大体5000万円かかります


日本でも、そしてアメリカでも、子供が欲しいのにも関わらず経済的な理由で泣く泣く諦めざるをえない人達がいることを考えれば、「なんでこのナマポは被害者ぶってんだ (#゚Д゚) ゴルァ!!」と怒りが沸いてきてもおかしくない

その子育ての責任を富裕層のせいにするのは明らかな責任転嫁であろう。

番組はこの人に同情するようなつくりになっているが、その前に親としての責任を諭してほしいところである。


4. なぜか論点がすり替えられていく

そして番組の論調は、今のままだとお金持ちはますますお金持ちになり格差は広がり続けるということを問題にしている。

しかし、なぜ格差社会が問題なのかが議論されないまま、貧困層の拡大に問題がすり替わってしまっている。

格差が広がっていたとしても、富裕層でない人たちが幸せな生活、不安のない生活を日々送れるのであれば問題はないだろう。

例えば、次の二つの社会があったとして、どちらの社会が望ましいのかは一目瞭然である。
  1. 格差は大きく、富裕層は莫大な資産を有しているが、それ以外の人もそれなりに生きていける社会
  2. 格差は少ないが、大半の人が経済的に困窮していて食べる物にも困る社会

これは非現実的な例でもなく、1の例がアメリカだとすれば、2の例は過去の大飢饉で苦しんだエチオピアに近いかもしれない(エチオピア大飢饉)。アメリカでは貧困層でも配膳や生活保護があったりと餓死するような事態は少なく、先ほどの生活保護受給者の女性が丸々と肥えていることを見ても、下位90%だからといって生活困難に至るようなレベルではないことがわかる


つまり、履き違えてはいけないのは、問題なのは格差が広がり続けることではなく、貧困層が増えることなのである。

番組ではアメリカの格差拡大のグラフが紹介されるが、格差拡大は上位1%の平均所得がさらに増えているのが原因であり、下位90%の平均所得は1980年からほとんど変わっておらず、貧困が拡大しているわけではないことがわかる。




ところが番組ではこの問題を取り違えており、なぜか格差拡大を批判していたのがいつの間にか貧困層の拡大の問題にすり替わってしまっている。まるで格差拡大のせいで貧困が拡大しているという論理展開だが、両者は全く別のトピックであり混同してはいけない


実際、炎上を巻き起こしたグラフでわかる通り、日本では上位1%はバブルの頃をピークにほぼ横ばいであり、格差もアメリカに比べれば小さいのにも関わらず、下位90%の平均所得は下落傾向にあり、格差拡大と貧困拡大は別の原因&別の問題であることがわかる。

【炎上】池上彰が日本の貧困を深刻に見せるためにインチキグラフを使っている




不等式で表すとこういうことで、格差拡大と貧困拡大が同じ問題でないのであれば、取り上げるべきは格差ではなく貧困拡大の防止である。
  • アメリカ:格差拡大>貧困拡大
  • 日本:格差拡大<貧困拡大
  • ∴ 格差拡大≠貧困拡大

5.富裕層に増税すれば貧困が解消するという幻想

それにも関わらず、貧困拡大を抑えるには格差拡大を解消すればよいという論調が多いこと多いこと。

番組でも取り上げられた通り、貧困の拡大は富裕層の増加が原因ではなく、労働者派遣法の改正であり、非正規雇用の拡大である。







そして驚くべきことに、その全てが政府の政策によるものである。


つまり、貧困拡大の戦犯は日本政府なのである(もちろん報道の自由が韓国やタンザニア以下である今の日本メディアはそんな大っぴらな批判はできないのだが・・・)。

報道の自由度、日本は72位 国際NGO「問題がある」


そもそも、税収を増やして政府に任せれば問題が解決するというケインジアン的考え方は、政府が税金を弱者救済のために使ってくれるという幻想に満ちた希望でしかない。

過去様々な失政を行い、湯水の如く税金を無駄遣いし、資本家と癒着の限りを尽くしてきた政府を何でそこまで信頼しているのか理解に苦しむ。


そして誤解してはいけないのは、貧困拡大は税金が足らないからではないということである。

ご存知の通り政府の予算は毎年史上最高を更新しており、税収で足りない分は国債を発行することによって補っている。

マネタリーバランスは日銀緩和以来、急拡大の一途を辿り、国債発行額も史上最高を更新しているなかで、マネーはじゃぶじゃぶに余っている。

つまり、政府はお金がないから貧困が増えているのではなく、予算はあっても貧困解消のための政策を行っていないのである。

たとえ富裕層からの税収が増えたとしても、その分だけ国債による借金をしなくて済むようになるだけである。

もちろん、赤字国債が減ることでプライマリーバランスは良い方向へ向かうかもしれないが、それで予算配分が変わるわけではない。

変えるべきは、予算財源を国債から富裕層の税収にすることではなく、予算の使い道なのである。

すでに史上最高額の予算を使っているのにもかかわらず貧困層が拡大しているという政府の政策自体を批判すべきなのではないだろうか

予算配分と政策が変わらないのに財源の種類だけ替えても貧困解消には全く関係ないことに気付くべきである。


6.格差を拡大させ続ける政府


話しを格差の拡大に戻すと、驚くべきことに、今現在でも政府の政策は格差を拡大させ続けている。

その典型的な例がETFの買い増しである。

日経平均を買い支える(端的に言えば株価を偽装することで市場マインドに好況感を持たせる)ために、日経平均連動のETFを日銀が買いまくっている。

日経平均は、TOPIXのような時価総額加重型ではなく株価の単純平均であるため、単純に額面額が高いユニクロ(ファーストリテイリング)やファナックと言った株価の影響が大きくなる。

例えば、ユニクロの寄与度は7.13%に対して、みずほフィナンシャルグループの寄与度は0.04%しかないので、企業自体の時価総額ではみずほの方が大きいにも関わらず、こと日経平均に対してはユニクロの株価がみずほの178倍もの影響力を持つことになる(2017年2月28日時点の値)。

こちらの記事にも書かれている通り、寄与度上位のユニクロ、KDDI、ファナック、ソフトバンクの4銘柄だけで全体の20%を超えているので、日経平均を政府・日銀が買い支えるということは、これらの企業の株主を肥えさせることに他ならない。

なぜ、海外投資家は日経平均を信用しないか


特定企業の株価が上がって喜ぶのは誰か。

もちろんその企業の株を所有している株主で、最も株を持っているのはその企業の創業者・経営者である。




つまり、政府・日銀は、日経平均連動ETFの買い増しをすることで、日本国民の金を一握りの経営者(柳井正、孫正義ら)に移動させているのである。

これぞまさしく、うす~く、ひろ~く集めた金を超富裕層へ流すことで富を集中させるという、格差拡大政策以外の何者でもない。

こうしてみると、格差を拡大させてきた犯人である政府に対して、格差解消のために政府が使える税収を増やすということがいかに滑稽なことかがわかる。泥棒にお金を預ける馬鹿がどこにいるのだろう。


7.r>gは至極平等な社会だ


財界と癒着して実際に富裕層が世の中に提供している価値以上に格差を拡大させている政府は問題ではあるが、一方で価値に見合った富を得ている限り、r>gは納得のいく結果である。

ピケティが問題としているr>g自体がそもそも問題ではないということについては、ハーバード大学のグレゴリー・マンキュー教授が小論文で発表している。

Yes, r > g. So What?(その通り、r>gだ。それがどうした?)(英語、PDFリンク)


r>gは番組でも解説されている通り、資本からの収益の方が、労働所得よりも収益の伸び率が大きいということである。

換言すれば、サラリーマンとしてお金を稼ぐより、ビジネス(起業家や、上記で挙げた自社株を大量保有するような経営者)や投資でお金を稼いだ方が儲かっていくということになる。




このことで、不平等だ、理不尽だという論調になるのだが、自分に言わせてもらえば、リスクをとっている分、リターンも大きいのは当然である。




そもそも生存者バイアスがかかって成功者の事例ばかりが多く取り上げられるので見過ごされがちだが、起業した企業のうち5年後まで生き残っているのは約1割しかない

「30年以上存続できるのは1000社のうちわずか3社だけ(生存率0.025%)」という世界に敢えて飛び込み、人生を賭けて起業という道を選ぶ以上、成功したときのリターンがサラリーマンのそれと同じだったら誰もリスクをとってまで起業なんかしないだろう。

起業が失敗する理由とは?5年以内に10社中9社が倒産する現実


それに対してサラリーマンは給料が保証されて安定しているし、万が一のときにも失業保険に守ってもらえる。

会社の売り上げが半分になったからといって自分の給料が半額になることはないし、赤字が出たからといって会社にお金を払う(従業員の財布から損失補填する)わけでもない。

逆に経営者は、売り上げが落ちても決まった給料を従業員に払わなければならないし※、その分自分の取り分は減る(※もし支払わなければ労働基準法第24条違反になる)。

事業が失敗すれば多額の借金を背負い、自己破産、離婚、夜逃げといったケースも実際に山ほどある。

投資も同じで、毎月の収益は大きく変動する上、マイナスになることもあり、労働者の給料の安定性と比べると取っているリスクは桁違いである。

rはそれだけのリスクを取っているのだから、その分リターンも大きくなければ不公平である。

人生が破綻するリスクまでとって成功した起業家が、市役所の役人と同じ年収しかもらえないなんて不平等な社会があってたまるか。

つまり、r>gが不等号なのはむしろ平等で、r=gなんて社会は不平等なのである。


そして番組でも紹介された超富裕層に名を連ねる人々を見ると、それだけ世の中に与えている価値も大きいことがわかる。




WindowsにしろAmazonにしろ、世界中の誰もが知っていて、多くの人が利用してるくらい影響力があるのだから、その与えた価値に比例した富を得ているというのは納得がいくと思う。

なまじ彼らに増税をして、見たことも聞いたこともない役人の天下りに使われるよりよっぽど公平である。

民進党の小川淳也議員は、顧問報酬について「月2日勤務で1千万円か」と質問。嶋貫氏が「社に出向く回数は基本的にそう」「金額はその通り」などと答えると、委員や傍聴人からは「おお」「1カ月2回か」とどよめきが起きた。

天下り先「月2回勤務、年収1千万円」 国会どよめく


はっきり言おう。

ぶっちゃけ、ビルゲイツが何兆円持っててもむかつかないが、役人が月2回勤務で1千万円もらっているのはむかつく。

となると、問題なのは格差うんぬんではなく、不当に利権を得ている者に対する不条理さなのである。

ビルゲイツ、ジェフベゾズ、ウォーレンバフェット、いいじゃないか!

彼らはそれだけのことしてるんだもの。

彼らに比べれば天下りの役人こそ腐れ外道じゃないか。






それでも富裕層を肥えさせたくないのであれば、富裕層の富は彼らが世の中に提供した価値の対価なのだから、彼らのサービスを利用しなければいい。

パソコンを使わず、スマホもLINEも、オンラインショップも使わず、安い服も買わなければいい。

彼らの資産は大半が自社株なりで保有しているのだから、世界中の人がApple製品を買わなくなって売り上げがゼロになればAppleの株価は大暴落するだろう。




自動車も電気もガスも石油も使わなければ、豊田創業者一族が富を牛耳ることもなくなるし、他の富の集中も防ぐことができる。


そんな生活できない?

いやいや、数百年前まで遡れば、当時生きていたあなたの祖先は実際にそんなものなくても人生を全うしていたはずである。

一方、現代社会ではそれだけ新しい技術やサービスの恩恵を受け、それらの価値を享受しているのだから、その分彼らに富が集中しているのも当然の帰結であると思う。

彼らが(リスクをとってまで)創造した価値を享受しているのに不公平だと文句を言うのは恩知らずというか単なる妬み嫉みの類であろう。

それが嫌ならリスクをとって起業なり資産運用なりすればいい。


種銭がないから起業も資産運用もできない?




世の中には実際に金がなかったり借金を背負った状態から身一つで成功した起業家だっていることを忘れてはいけない。努力と情熱と責任感といった人的資本があればリスクはとれるのである(ピケティはそもそも人的資本を「資本」の中に含めていないのでそこも批判されているが)。




逆にリスクを敢えて取らないのも合理的な選択肢の一つであると思うし、安定が欲しくて社蓄の道を選んだのは自分自身なのだから、gに留まっていることは自己責任なのである(そうです、私のことです)。


So what?

ということで、格差拡大をテーマにしながら、なぜか論点が貧困解消にすり替わった挙句、解消には全く関係ない議論でなんの提案もなく終わってしまったのがこの番組だったのだが、「番組ではSo what?の部分が何もありませんでした」では肩透かしなので、「では、どうすべきか?」をまとめてみるとこんな感じだろうか。

  • r>g はリスク&リターンの関係から当然であり、公平性の観点からもそうあるべき
  • 批判されるべきは根拠のない不当な利益であったり、癒着だったり、既得権益に群がり血税をむさぼる腐れ外道たち
  • r の人は引き続きリスクコントロールしながら r の資本収益率を享受すればいい
  • gで不満を持ってる人は、デモや反対運動で文句を言う暇と時間があるなら r に行く努力をした方が効率的→政治や税制を変えるより自分が変わった方が早い
  • rに行きたいならリスクをとって挑戦すればいい
  • リスクをとらずにgを選んだ人は、rのリターンを放棄するのと引き換えに安定を選んだのだから社蓄となってもしょうがない
  • この私のように・・・(´;ω ;`)

かくして富める者は富み、富まぬ者はキャベツ太郎を大人買いして満足するのであった・・・。本当にありがとうございました。








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