ということで、りんごダイエット、バナナダイエットなど、単品系ダイエットについての危険性を取り上げたいと思う。
■単品ダイエットの売り文句
「超回復の嘘」の回でも、「基礎代謝とダイエットの誤解」の回でも、ウェブサイトの例を紹介しなかったが、りんごダイエット、バナナダイエットについては、以下、りんごダイエット、バナナダイエットを推奨しているサイトから各ダイエットの特徴を引用してご紹介したいと思う。
まずはりんごダイエットを紹介しているサイトより、以下ポイントを引用する。
・「りんごダイエット」の方法は単純明快で、りんご以外の食事を一切摂りません(!?)。
・りんご以外の食事は我慢し、飲み物は水もしくはコーヒーのみで3日間続けます。
・りんごは好きなだけ食べて◎ 栄養が偏るので、3日以上は続けない!
また、朝食のみをりんごにする「朝だけりんごダイエット」も紹介されている。
一方で、バナナダイエットも似たような内容で紹介されている。
以下、「朝バナナダイエットオフィシャルサイト」より引用。
・朝食に生バナナを単品でよく噛んで食べる
・数は食べたいだけ。基本はバナナ。
・バナナの気分でない日は、他の果物1種類。
これらはいわゆる単品ダイエットで、別に単品果物であれば何でもいい旨も書かれている。
・ずっと続けられる果物は何か探してみましょう。よく噛んで1種類で食べれば、同じような効果が期待できます。
どちらも女性ウケしそうな綺麗なサイトで、スタイリッシュに痩せられるイメージを持たせているが、結局、単品ダイエットは絶食ダイエットの派生版でしかなく、食べる量、摂取する栄養素を極端に減らし、意図的に短期的な栄養失調状態を作り出して体重を減らしているにすぎない。
ただ、驚くべきは、これらのサイトでは、単品ダイエットによる美容効果等の健康を強調し、健康に、綺麗に痩せられるとしている。
少し脱線するが、「水の飲みすぎはむくみ、体質悪化の原因」と記載されていることも問題である。たしかに水とはいえ飲み過ぎはよくないが、むくみ(いわゆる水太り)の原因は新陳代謝の低下による老廃物の滞留、ミネラルバランスの崩れ、塩分の過剰摂取(体内のナトリウム濃度を保つための水分調整)である。以下取り上げる単品ダイエットの栄養不足を見ていただければ、むしろ単品ダイエットによる栄養バランスの悪化が、むくみのみならず体内の各種健康維持機能に影響を及ぼし逆効果になっていることをご理解いただけるかと思う。
■単品ダイエットは極めて不健康
綺麗なかわいいレイアウトで美辞麗句を並べて飾り立てているウェブサイトでも、主観的な言葉や体験記などで「美肌効果」「健康効果」を謳っているだけで、公的機関レベルでの具体的かつ客観的な数値を使ってその効果が説明されていないものが多い。
ということで、朝食をりんごのみ、バナナのみにした場合の、栄養価の過不足を実際に検証していきたいと思う。
以下はアメリカの食品医薬品局(FDA)が公表し、アメリカで流通している食料品、サプリメントのパッケージ裏面にNutrition Facts、Supplement Factsとして必ず記載されている一日の栄養素の推奨摂取量である。朝食をりんごだけ、バナナだけにするとして、一日の栄養素として設定されている2,000kcalを元に、その3分の1で一食分の必要栄養素(カロリーにして667kcal)を算出している。
一方で、りんごとバナナの栄養素については、文部科学省の日本食品標準成分表2010で公表されている、可食部100gあたりの栄養素から計算している。
この点、可食部の重量を載せているサイトより、りんご1個の可食部を268g、バナナ1本の可食部を85gとして、上記一食の必要カロリー(667kcal)分に相当する個数、本数で比較を行った。つまり、バナナは9.1本、りんごは4.6個で、一食分に必要なカロリーを摂取することができる。
なお、一食で必要な栄養素を摂取できている割合が8割(80%)以下の場合には、栄養素不足として赤字にしている。
栄養素(英語) | 栄養素(日本語) | 一日の摂取栄養素 | 一食分の摂取栄養素 | バナナ9.1本 | (摂取率) | りんご4.6個 | (摂取率) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Calories | カロリー | 2,000 kcal | 667 kcal | 667 kcal | 100% | 667 kcal | 100% |
Carbohydrate | 炭水化物 | 300 g | 100 g | 174.4 g | 174% | 180.2 g | 180% |
Protein | タンパク質 | 50 g | 16.7 g | 8.5 g | 51% | 2.5 g | 15% |
Total Fat | 脂肪計 | 65 g | 21.7 g | 1.6 g | 7% | 1.2 g | 6% |
Saturated Fatty Acids | (内、飽和脂肪酸) | 20 g | 6.7 g | - | - | 0.1 g | 2% |
Cholesterol | コレステロール | 300 mg | 100 mg | 0 mg | 0% | 0 mg | 0% |
Fiber | 食物繊維 | 25 g | 8.3 g | 17.1 g | 205% | 37 g | 444% |
Sodium | ナトリウム(塩分) | 2,300 mg | 767 mg | 0 mg | 0% | 0 mg | 0% |
Potassium | カリウム | 4,700 mg | 1,567 mg | 2,791 mg | 178% | 1,358 mg | 87% |
Vitamin A | ビタミンA | 5,000 IU | 1,667 IU | 1,757 IU | 105% | 885 IU | 53% |
Vitamin C | ビタミンC | 60 mg | 20 mg | 124 mg | 620% | 49 mg | 247% |
Calcium | カルシウム | 1,000 mg | 333 mg | 47 mg | 14% | 37 mg | 11% |
Iron | 鉄 | 18 mg | 6 mg | 2.3 mg | 39% | 0 mg | 0% |
Vitamin D | ビタミンD | 400 IU | 133 IU | 0 IU | 0% | 0 IU | 0% |
Vitamin E | ビタミンE | 30 IU | 10 IU | 5.8 IU | 58% | 3.7 IU | 37% |
Vitamin K | ビタミンK | 80 μg | 27 μg | 0 μg | 0% | 0 μg | 0% |
Thiamin | ビタミンB1(チアミン) | 2 mg | 1 mg | 0.39 mg | 78% | 0.25 mg | 49% |
Riboflavin | ビタミンB2(リボフラビン) | 2 mg | 1 mg | 0.31 mg | 55% | 0.12 mg | 22% |
Niacin | ビタミンB3(ナイアシン) | 20 mg | 7 mg | 5.4 mg | 81% | 1.2 mg | 19% |
Vitamin B6 | ビタミンB6 | 2 mg | 1 mg | 2.95 mg | 442% | 0.37 mg | 56% |
Biotin | ビタミンB7(ビオチン) | 300 μg | 100 μg | 10.9 μg | 11% | 7.4 μg | 7% |
Folate | ビタミンB9(葉酸) | 400 μg | 133 μg | 202 μg | 151% | 62 μg | 46% |
Vitamin B12 | ビタミンB12 | 6 μg | 2 μg | 0 μg | 0% | 0 μg | 0% |
Pantothenic acid | ビタミンB5(パントテン酸) | 10 mg | 3 mg | 3.41 mg | 102% | 1.11 mg | 33% |
Phosphorus | 燐 | 1,000 mg | 333 mg | 209 mg | 63% | 123 mg | 37% |
Iodine | ヨウ素 | 150 μg | 50 μg | 0 μg | 0% | 0 μg | 0% |
Magnesium | マグネシウム | 400 mg | 133 mg | 248 mg | 186% | 37 mg | 28% |
Zinc | 亜鉛 | 15 mg | 5 mg | 2 mg | 31% | 0 mg | 0% |
Selenium | セレン | 70 μg | 23 μg | 8 μg | 33% | 0 μg | 0% |
Copper | 銅 | 2 mg | 1 mg | 0.70 mg | 105% | 0.49 mg | 74% |
Manganese | マンガン | 2 mg | 1 mg | 2.02 mg | 302% | 0.37 mg | 56% |
Chromium | クロム | 120 μg | 40 μg | 0 μg | 0% | 12 μg | 31% |
Molybdenum | モリブデン | 75 μg | 25 μg | 54 μg | 217% | 0 μg | 0% |
Chloride | クロリド | 3,400 mg | 1,133 mg | - | - | - | - |
結果として、必要摂取量に届かない栄養素がバナナでは33項目中18項目、りんごでは27項目もあり、バナナで全体の57%、りんごに至っては実に全体の81%もの栄養素が不足しているのである。めちゃくちゃ不健康な食生活と言わざるを得ない。
朝食だけバナナにするなら、その不足分を昼食、夕食などで補わなければいけないが、朝食をバナナにした分、他の食事を多くとるのであれば、単に食事のバランスが偏るだけになる。いわゆる「食い貯め」はできず、ブドウ糖の肝臓貯蔵量には上限がある上、ビタミンB、C系の水溶性ビタミンは過剰分は排出されてしまう。また脂溶性ビタミンのビタミンA、D、E、Kについては、過剰摂取は副作用をもたらす危険性さえある。
さらに注意したいのは、上記の検証はあくまで一食分に必要なだけのカロリー(667kcal)を摂取した場合であるが、実際にはバナナ9本、りんご4個半も毎朝食べれないであろうことを考えると、実際の栄養素はさらに不足し偏ることになる。
■木を見て森を見ず
単品ダイエットを勧めるサイトによく見られる問題点は、一部の良い成分だけを取り上げて、全体的な栄養バランス、致命的な栄養素不足を無視していることである。
りんごポリフェノールだけ、~だけといった、その単品に含まれている特定の有効成分の効果だけを取り上げて「美肌」「健康」を謳い、全体的な栄養バランスを見ない。まさしく木を見て森を見ずのダイエットである。
では森を見てみよう。
例えば、一食分に必要なカロリー(667kcal)を摂取したとしても、カロリーを構成する栄養素にかなりの偏りが出る。カロリーの元になるのは、炭水化物、タンパク質、脂肪の三大栄養素のみであり、それぞれ1グラムにつき、4kcal、4kcal、9kcalを産出する。しかし、バナナだけで一食分のカロリーをとった場合、タンパク質は必要摂取量の50%しか確保できず、りんごに至ってはなんと85%も不足してしまう。
肌、皮膚、髪、筋肉等はタンパク質から構成されている。つまり、美肌にしろ、綺麗な髪にしろ、極端なタンパク質不足は、美容にとっても最悪な結果をもたらす。さらにビタミン群も軒並み不足している。抗酸化作用を持ち、血行を改善し、乾燥・しわ・しみ対策でも知られるビタミンE。細胞の再生と成長を促し、にきび・肌荒れに効果を発揮するビタミンB群。特にりんごにおいては、ビタミンC以外のビタミンは全滅である。その上、丈夫な骨を作るのに必要なカルシウムも必要量の1割ちょっとしか摂取できない。
こうして各栄養素をトータルに見ていくと、肌や皮膚を構成するタンパク質(コラーゲン※)が85%も不足し、他のビタミンもカルシウムも大きく不足しているのに、一体なにが「美肌」で「健康」なのだろうか。例えて言うなら、味噌も水もないのに、良い鍋とキッチンがあるから美味しい味噌汁が作れますと言っているようなものである。
��※コラーゲンの主な成分は、グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アラニンであり、いずれもタンパク質を構成しているアミノ酸である。)
ということで、不健康になりたくなければ単品ダイエットはやってはいけない。
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