前回ご紹介した通り、Delaware Water Gapという地溝帯が見所なこの一帯であるが、Google Mapの自転車道表示で調べてみるとサイクリングロードがもう一つあるのがわかる。
そしてそのサイクリングロード沿いに、ポーリンズキル高架橋(Pauslinskill Viaduct)という名所がある。
実はこのポーリンズキル高架橋、1910年当時、世界最大の鉄筋コンクリート製建造物であった。
かつて、ラカワナ鉄道という、ペンシルベニア州からニューヨーク市へ鉄を運ぶために建設された鉄道があった。元々はニュージャージーの山河を縫うように迂回して作られていた路線であったが、運搬時間短縮のために山河を切り開いて直線的に短絡新線(Cut-off)を敷設した。山河を切り開いたため、谷に位置するような場所ではかなりの高さがある高架橋を建設する必要があり、このポーリンズキル高架橋もそうして造られた橋である。
しかも、1982年にこの短絡線は廃線となり、それ以降、この路線があった場所は廃墟のような状態になっているという。
子どもの頃、秘密基地を近所で作って遊んでいた自分にとってはなんともワクワクするようなシチュエーションである。
ということでこの日の目的地をポーリンズキル高架橋に定める。
■ポーリンズキルのサイクリングロードへ
5時前に起床。
他の(非自転車属性の)キャンプ参加者(30人くらいいる)と8時半から朝食で集合になっているので、帰ってきてからのシャワーの時間等を考えると8時前には部屋に戻っていなければならない。
まずは携帯ポンプのTopeak Road Morph Gのバルブヘッドをアメリカのシュレーダー式に変える。といっても中のキャップを逆向きにするだけ。
Road Morph Gは携帯ポンプでありながら体重をかけて押し込むことで空気が入れられるので8barといったロードバイク用の高気圧も入れることができ、ベルギーの遠征ではお世話になったものである。
外が白み始めた5時20分ごろに出発。
霧に中を走り始めると…。
き、気持ち良いっっ!!
鳥の囀りに両側の木々、右手にはゆっくりと流れるデラウェア川、朝霧を全身に受けながら風を切って走るのは最高の気分である。
自転車は折り畳みのブロンプトンで速度もそんなに出ていないはずなのに、ニューヨークでロードバイクに乗っているとき以上の爽快感を味わう。
車もめったに通らない早朝の道を走っていくと、右手のデラウェア川との間に線路が。
これももしかしたらラカワナ鉄道の廃線なのかもしれない。
ポーリンズキルのサイクリングロードはデラウェア川の東側、ニュージャージー州にあるため、まずはデラウェア川を渡る。
こちらの橋の名前はPortland-Columbia Pedestrian Bridge。
Portlandはこの橋の西側のペンシルベニア州、Columbiaは東側のニュージャージー州の町の名前である。
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この橋を渡ってニュージャージー州へ。
ニュージャージー州に入ってからはGoogle Mapを確認しながらサイクリングロードへの道を辿る。
途中でポーリンズキル(Paulins Kill)に架かる名も無き橋を渡る。
ちなみにニューヨークやニュージャージー近辺には、キル(Kill)という地名が多く存在する。
ロードレースも行われるキャッツキル(Catskill)やバッテンキル(Battenkill)、ニュージャージーとスタテンアイランドの間にはアーサーキル(Arthur Kill)という地名も存在する。
アーサー・キルなどと聞くと、アーサー王が殺された的な歴史的故事にでも由来しているのかなと当初は思ったものだが、このキル(Kill)は、中世オランダ語のkilleのことで、水路や河を意味している。
ということで、ポーリンズキルという河がこちら。穏やかな水面は鏡のようで朝霧と相まって素晴らしい景色を魅せてくれる。
南にはコロンビア湖が広がる。
そして地図上で見たサイクリングロードの入口へ到着。
って、これ……?!
GPSで確認するが、間違いなくこの道である。少なくとも歩道として整備されている石畳どころではなく、単なる石が辺り一面に転がってるだけである。
自転車を降りてひきながら進む。Google先生、これはサイクリングロードではありませんっ!!(涙)
しばらく進むと二又に道が分かれ、左側はなんとか通れそうな道に。
GPSで確認するとそっちが正しい道のようなので、安心して進み出す。
が、雨でぐちゃぐちゃになっていたりで、こちらもサイクリングロードには程遠い。
それでも先へ先へと進んでいく(後で気付くのだが、この辺りでさらに左へ行く脇道があったらしい)。
ところどころでは完全に小川状態になっていて注意しながら進む。
広い空間に出てGPSを確認すると、微妙にサイクリングロードからずれているっぽい。
さらに進むとついには行き止まり。
まだポーリンズキル高架橋に辿り着いていないのにとがっくりしながら元来た道を引き返す…と、脇道に降りられる場所が。
これでやっと本来のサイクリングロードに復帰。
といっても道の状況は一緒で、塗れた土に雑草の中を進んでいく。
ついには膝まで届くような雑草地帯になり、生い茂る雑草の中、突き出る木々の間を蜘蛛の巣に触れながら進む…。
というかこれがGoogle公認(?)のサイクリングロードとは…。ロードバイクで来なくて良かったなぁと実感するのであった。
雑草の中を自転車をひきながら、もはやサイクリングとはかけ離れた状態で障害物を越えていく…と……
想像していたよりもそれは巨大で、見上げるほどの場所に霧の中からポーリンズキル高架橋が姿を現した。
サイクリングロードとは呼べない雑草だらけの獣道。自然に囲まれた中に唐突に浮かび上がる人工の巨大建造物は異質で、なんともいえない不思議な感覚にとらわれた。
そんな感動にも似た感覚を味わっていたのだが、遠くに車が通り過ぎるのを見てがっかり。なんとこんな道を通らなくても公道が橋の下を走っていたのである。
まあ公道経由で着いてもここまで感動の味わえなかったと思うのでこれはこれでよかったのだろう。
下から見上げるポーリンズキル高架橋。
こちらは川岸から。
さらに川の反対側を見ると、上に登れるようになっているっぽい。
山肌を手を付きながら登るような感じなので、とてもではないがブロンプトンは持っていけない。
だが、せっかくここまで来たのだから、あの上の、見捨てられた廃路線の景色を見てみたい。
盗難の心配もあったのだが、辺りに人もいなかったのでブロンプトンを置いて上へ進む。ちなみに下の柱の右側、木と木の間に見えるのがブロンプトンである。ブロンプトンと比べていただくと、橋の巨大さがわかっていただけると思う。
さらに登る。
ついに高架橋の上に到着。
ここがあの高かった橋の上。
霧の中へと吸い込まれるように消えていく空中の廃線路である。100年以上前に建てられ、自分が生まれる前に全盛期を迎えてニューヨーク市を支えていた路線が、今こうして荒れ果てた姿で目の前にあると思うと、時の流れを感じずにはいられず感慨深い。
しばらくして降りるとブロンプトンは無事元いた場所にあった。
マンハッタンで以前折り畳み自転車を盗まれた経験があるので、盗難には敏感になってしまうのであった。
そしてポーリンズキル高架橋を後にする。
帰路の途中で先程の高架橋へ続く廃路線が。こちらは標高が先程より高いこともあってこんなにすぐ近くに線路がある。
そのまま丘陵地帯を抜けてペンシルベニア州へ戻る。
キャンプ場へ着くとまだ朝霧が続いている。
心の洗濯ができたような、とても清々しい朝の景色であった。
そして朝食。それにしても色とりどりの原色を使ったコーンフレークはアメリカならでは。食べ物にこの色彩感覚は理解できん…。
橋の写真を見て、あ…ラピュタ…って思ったのは僕だけですかね。
返信削除それはそうと、こういう道はクロスバイクに限りますよ。
この冬、一緒にどうですか?買うでしょ?
おお!たしかにラピュタな感じですね。使われなくなった過去の巨大建造物が、自然に覆われて埋もれているというのが特に。
返信削除おっしゃるとおり、泥の道とか、まさしくシクロクロスの良い練習になりそうですね。うーむ、シクロですかぁー。興味はありますが、うちのアパート事情ではスペース&汚れ的にNGを出されそうです…。
サイクリングロードの一連の写真がスカイリムみたいで幻想的ですね!(ゲーム脳的褒め言葉)。
返信削除もっとも実際にプレイした3DCGゲームは、セガサターンのヴァーチャルハイドライドだけなんですが…w
ブロンプトンは坂道も悪路もグリグリ進むのですね。正直以外でした。
欲しくなっちゃうなー。
スカイリムは初耳でネットで調べてみましたが、たしかに幻想的でそんな感じかもしれませんね。それにしても3DCGゲームはNYが舞台になってるGTAでハマってしまったので一度触れるとハマってしまいそうで怖いです。セガサターンのヴァーチャルハイドライドとはかなり懐かしいですが、私のオススメは伝説の迷作、ドリームキャストのシェンムーですw
返信削除ブロンプトンはスリック風タイヤなどタイヤも何種類かから選べるのですが、私は雪の中を通勤する必要があったので通常のブロックタイヤにしています。折り畳みの審美性を追求したブロンプトンはロードバイクにはない魅力があってまた良いですよ。ロードバイクが最高速を叩き出す戦闘機なら、ブロンプトンは小回りが利くヘリコプターといった感じでしょうか。