ペダル型パワーメーター PowerTap P1のクランク長設定

前回ペダル型パワーメーターのPowerTap P1をご紹介したが、一番大変だった(が、一度設定すればいい)クランク長の設定について触れておきたい。



クランク長設定


ペダル型のパワーメーターでは初期のPolarや、最近のGarmin Vector同様、クランク長を設定する必要がある。

Polarでは、ペダルの横につけるポッドで選べた(ちなみにPolarは170mm未満のクランクには対応していない・・・)が、PowerTap P1とGarmin VectorはGarmin Edgeといったサイコンで数値を設定する。

Polar Look Keo Power System–Pedal Based Power Meter–In-Depth Review




PowerTap P1の初期設定では172.5mmになっているので自分は170.0mmに変更する。

なぜペダル型パワーメーターはクランク長設定が必要か


(※tyanagisawa2016さんのご指摘により「トルク」と「力」の使い方に誤りがあったのを修正しております。

そもそも、クランク型やハブ型では不要なクランク長設定が、どうしてペダル型のパワーメーターでは必要になるのか。

物理的にペダル型パワーメーターで測定できるのはペダルにかかっている力であり、トルクを直接測ることはできない。トルクはペダル踏力がクランクを介することで発生されるが、梃子の原理でクランク長が長いほどトルクが増えることになる。ペダル側パワーメーターの計測箇所はあくまでペダル部分であるため、クランク長そのものやクランクを介した後のトルクの絶対値を直接計測できないのである。

この点、ペダルに掛かる有効な力をTrainingPeaksではAEPF(average effective pedal force)として定義している


AEPFは、Pをパワー(単位はワット)、Cをケイデンス(単位はrpm)、CLをクランク長(“crank length”、単位はミリメートル)と置いた場合、「AEPF = (P*60)/(C*2*π*CL)」の式となり、この式でわかる通りケイデンスとクランク長の変数によってAEPFというペダル踏力が一定でもパワーが変わることになる。逆に言えば(左辺にパワーであるPを持ってくると)、「P = (AEPF *C*2*π *CL)/60)」となるため、いくらペダル型パワーメーターでAEPFとCが計測できても、クランク長(CL)が決まらないとパワーが算出できないのである。

というわけで、パワーの算出のために、変数としてクランク長の設定が必要になる。

変数ということは、クランク長を変えることによって、同じ力(脚からペダルに伝えるAEPFの大きさ)でも出力の結果が変わるということになる。

すなわち、ケイデンスが同じであれば、筋出力が同じでも長いクランクを使った方が出力は大きくなる。

この「クランク長と出力の関係」を表にしたのが以下であり、ケイデンスを75rpmとした場合、AEPF(160から始まる縦列)とクランク長(170.0mmから始まる横列)により、どのように出力が変わるかを見ることができる。


160 165 170 175 180 185 190 195 200210
170.0mm 214 220 227 234 240 247 254 260 267 280
172.5mm 217 224 230 237 244 251 257 264 271 285
175.0mm 220 227 234 241 247 254 261 268 275 289
177.5mm 223 230 237 244 251 258 265 272 279 293
180.0mm 226 233 240 247 254 262 269 276 283 297


例えば75rpm、170mmのクランクで240W出している場合、クランク長が172.5mmになれば同じケイデンス、同じトルクでも4W出力を上げることができる。

4Wといってもピンと来ないかもしれないが、例えばこちらのシミュレーションサイトで乗鞍のプロファイルを入れてみると、平均出力が4W変われば50秒近くタイムを短縮できることがわかる。50秒は、優勝者が入賞圏外になるほどの差なので大きいと言わざるをえない。


ただ、「ケイデンスが同じであれば」というのが曲者で、クランク長が変わればその分脚関節の稼動範囲が変わるので、クランク長の変更前後で同じケイデンスを同じ疲労度で維持できるかというと別問題になる。

その結果、最適クランク長といった議論がされることになる。

このエントリはあくまでP1のクランク長設定なので深入りはしないが、こちらのブログで詳しく考察されているのでご興味のある方はご覧いただきたい。「身長の10分の1」といったまことしやかな説がある一方で、167cmのキンタナと176cmのコンタドールが同じ172.5mmクランクを使っていたり、188cmのキッテルが175mmだったりと、身長とクランク長の相関性は薄いと言わざるを得ない

ロードバイク クランク長 170mm-172.5mm最適説


PowerTap P1のクランク長設定方法


では実際にPowerTap P1でクランク長を設定していくのだが、この設定方法が曲者であった。

自分が使っているサイコンはGarmin Edge 800だが、パワーメーターをペアリングしても、パワーメーターの設定画面からはクランク長の設定箇所が見つからない。(自動キャリブレーションの項目しか表示されない)




CycleOpsのウェブサイトで質問欄を見てみると、Garmin Edge 1000はクランク長設定自体に対応していないということで、Garminのサポートに問い合わせた人の話しでは、Garminサポートも自分のメーカー品ではないので対応する予定なしとのこと。

Garmin Edge 800も同様にクランク長設定ができないのではないかと思い、ググって調べてみると、CycleOpsのスマホ用アプリで設定が可能とのこと。

しかしこのアプリ、なんとiPhone版しか出ておらずAndroidには対応していない・・・。

しょうがないのでiPhoneユーザーのいまっちさんに連絡して、CycleOpsのアプリを使わせてもらう。

平日の昼休み、インドカレーのビュッフェでランチをしながらアプリをインストール(今思えば当時はまだ外でランチができるほど仕事が忙しくなかった・・・)。



PowerTap P1を起動させ、Bluetoothで接続を試みようとアプリを起動すると・・・。

エラーが・・・。



なんとそこから先に進めない・・・。

しかもこのエラー画面、けっこう凝っていて、指で触ると指の動きに合わせて丸いバブルが動いたりポンポン跳ねてくれる・・・。こんなファンシーなエラー画面を作る余裕があるならちゃんと動くアプリをそしてAndroid版を作ってくれと声を大にして言いたい・・・。

ランチ時間も終わり、半ば諦めて帰途に。

その後いろいろと試してみると・・・なんと設定できる箇所が見つかった。

クランク長の設定は、パワーメーターの設定画面でするものだと思っていたが、自転車の設定画面で設定するのであった。



しかもP1接続前は画面にクランク長は出てこないのだが、接続中にだけクランク長の設定ボタンが表示される(未接続状態の下の写真では上の写真にあったクランク長が消えていることがわかる)



ということでデフォルト設定だった172.5mmを



170.0mmに変更。



ちなみに0.5mmずつ変更できるので、170.5mmといった市販されていないクランク長も設定できる。




PowerTap P1のクランク長影響テスト


そして実際にちゃんとクランク長設定の影響がパワー出力に現れるかテストしてみる。

クランク長の設定を165.0mm、170.0mm、172.5mmにそれぞれ変更し、同じギア比、同じケイデンスでパワー出力の値に影響が出ているかを実際に固定ローラー上でログを取る。

グループ1~3はギア比を2.125(フロント34T、リア16T)で、グループ4~6はギア比2.267(フロント34T、リア15T)にしている。


Group
Crank Length Gear Ratio
Avg Bike Cadence
Avg Power
Normalized Power (NP)
1 165.0 2.125 70 103 103
1 170.0 2.125 70 115 117
1 172.5 2.125 70 118 111
2 165.0 2.125 80 162 160
2 170.0 2.125 80 171 166
2 172.5 2.125 80 168 162
3 165.0 2.125 90 226 218
3 170.0 2.125 90 232 222
3 172.5 2.125 90 227 218
4 165.0 2.267 70 127 124
4 170.0 2.267 70 141 137
4 172.5 2.267 70 141 138
5 165.0 2.267 80 197 191
5 170.0 2.267 80 204 198
5 172.5 2.267 80 199 197
6 165.0 2.267 90 265 254
6 170.0 2.267 90 274 268
6 172.5 2.267 90 267 257


その結果、170mmと172.5mmで逆転している箇所もあるが、基本的にクランク長の設定が織り込まれて出力が表示されていることがわかる。

逆転箇所については、おそらくペダリングのムラやケイデンスが微妙に違う影響によるものと思われ、たとえ70rpmという同じ整数値でも70.1rpmと70.9rpmでは出力に違いが出るのでそういった誤差によるものなのかもしれない。

なにはともあれこれでやっとP1の設定完了。

ちなみに使い続けて4ヶ月近くになるが、総じてかなりの好印象。

出ている出力値は一貫性があり、同じP1で計測した過去の出力と相対比較するには十分である。

それにペダルだけでパワーもケイデンスも計測可能というのは、面倒くさがりの自分には思ったよりもメリットがあり、マグネットといったフレーム本体への設定が不要なだけでかなりストレスレスになる。

8 件のコメント :

  1. いつも拝見しております。自分もP1購入しました。
    クランク長の設定については、ガーミンフォーラム、DCrainmakerさんのコメント欄等で、それこそ場外乱闘の様なやり取りがあってました。問題は、日本でガーミンを使用する場合、ソフトウエアのアップデートが、海外ものに比べ、遅すぎるという点にあります。自分は、920XTで何とかできますが、1000Jのファームウエアは、3.1。1000は、5.1ですからね。ただし、日本版には、日本語やみちびきの補足など独特の利点もありますが。

    ご意見を伺いたいのは、「P1は、パイオニアやベクターにあるペダリング効率を解析する将来的な機能拡張性はもっているが、その有効性が証明されていないので、今はしないみたいな。」ことを言っていることについてです。いや、いいじゃない。機能があるなら、やってよ。それを選ぶのは、ユーザーでしょうみたいに思ってしまうのですが。むしろ、ホントにその機能あるの?みたいに考えてしまいますが。

    ケイデンス機能はいいですよね。自分はそれに気づかず、わざわざ、ケイデンスセンサーも、買ってしまいました。。





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    1. 日本語版はこちらでは手に入りませんがそんな利点があるんですね。単に日本語表示だけであれば英語版でも問題ないとは思いますが(ケイデンスやハートレート等横文字の多い世界ですし)。

      P1の弱点はソフトウェアの弱さだと思います。PowerBeam ProでもバーチャルトレーニングソフトはTacxのような自社製品ではなくてサードパーティー(Univet System)製を使ってますし。設定アプリもiPhone版しかなく、いつまでたってもAndroid版が出なかったり、最近では電池切れも経験しましたが(QuarqやPioneerと違って)電池残量僅かの警告メッセージが出なかったりと、総じてCycleOpsはハードウェアは良いですがソフトウェアが弱いと思います。

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    2. なるほど、ありがとうございます。
      それと、体調不良の中恐縮ですが、もうひとつ、質問させてください。
      片足ペダリングをすると、片方の時は、パワーは表示されますが、反対の足では、パワーも、ケイデンスも、ゼロと表示されてしまうのですが、これは、どうしてでしょうか?
      私の設定が、まずいからでしょうか?RNYさんのP1は、そんなことないでしょうか?
      宜しければ、教えて下さい。

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    3. それぞれ片足を完全にペダルから外した状態で試してみましたが左右どちらも同じようにパワー、ケイデンスが認識されました。P1は左ペダルがサイコンに送信していて、右ペダルは左ペダルにデータを送っているだけということなのでもし左ペダルがスタンバイ状態だったりした場合にはサイコン側でデータが受け取れないのかもしれません。

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    4. お忙しいのに、返信ありがとうございます。個別相談しているみたいですみません。ただ、P1は、ググっても、日本語の情報が少ないので、大変助かります。

      Edge1000だと、左右別々に拾うんですか?現在の僕のフォームウエアv30.023と520Jあるいは、920XTの組み合わせでは、右の片側べダルをすると、RNYが、おっしゃるように、左がすぐにスリープ状態に判定されて、右側のみの片側ペダリングでは、ワットを拾いません。これは、本家のPowerTapのQ&Aにも記載があります。http://www.powertap.com/product/powertap-p1-pedals

      BLT経由だと左右別々に拾うみたいですが、1000とは、BLTでペアリングされたのでしょうか?右が回ってる時は、左をスリープにしないように、ファームウエアを書き換えて欲しいものですが。

      The right sensor lost message typically only happens on start up and only with Garmin head units. To check if the right pedal is working correctly you can do one of 2 things. First, check to see the green LEDs are blinking a single blink. If the right and left pedals are not communicating the left pedal will have a double green blink. You can test this by waking up only the left pedal. You will notice a double green blink. When you wake up the right pedal the left pedal will change to a single green blink once it finds the right. The next thing you can do to check that the right pedal is working is to check to see if you have pedal balance. A balance number will give clear indication that right and left pedals are functioning properly. Again, we do not typically see this message on our Joule GPS head units and only at start up (before moving) on the Garmins. It could be something they are doing at start up that is causing the radio to get bogged down. We are investigating further and should be communicating what we find soon. Cheers!

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    5. 私が使っているのはGarmin Edge 800でANT+接続しております。DCRainmakerのレビューページでも記載されている通り、ANT+でもサイコンとのデータのやりとりは左ペダルだけで、右ペダルは左ペダルに通信するのみのようです。
      http://www.dcrainmaker.com/2015/08/powertap-p1-pedals-review.html

      スリープはおそらく数分くらいしてからなので通常接続されているあとに右のみの片足ペダルをする分には拾うと思いますのでその時点でも拾わないということは右ペダルがそもそも拾えていないのかもしれません(私は片足ペダリングをしないので詳しくないですが・・・)。

      ちなみに左右両方拾っていることを確認するためにGarminの表示に左右ペダリングバランスも表示させています。これが100%-0%だと片側しか拾えていないので再度接続してやる必要がありますが(ただ最近はいつも両方拾えているので特に問題は起こっていません)。

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  2. 時々ブログを拝見させていただいています。ここの説明に関してはちょっと看過せない感じなので...

    - 力とトルクを混同されているような。
    - ペダル式メーターで直接計れるのは力です。
    - ペダルへの力がクランクを介して発生するトルクの計算のためにクランク長がいります。ペダルに掛かる(有効な)力×クランク長がトルクです。
    - なので、ペダルへの力が同じでもクランク長が増えるとトルクが増えます。
    - そしてパワー=ケイデンス×トルクなので、ケイデンスが同じでもトルクが増えるとパワーが増えます。

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    1. ご指摘ありがとうございます!
      仰る通り力とトルクを混同した内容になっておりました。
      折りをみて本文の方も修正させていただきますので今後ともよろしくお願いいたします。

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