日本で報道されないアメリカの増税法案

“大幅減税”のアメリカ新税制?


アメリカで税制改革法案が成立・・・。

日本でも一斉に報じられている。

トランプ政権はレーガン政権以来、およそ30年ぶりの歴史的な減税を行うとして、大規模な税制改革の実施を公約に掲げてきました。

これを受けて、与党・共和党は先週、法人税率を今の35%から21%に引き下げるほか、個人の所得税の最高税率を39.6%から37%に引き下げることなどを盛り込んだ新たな法案をまとめました。

トランプ政権の柱 税制改革法案が下院可決

おいおい、待ってくれお・・・。

最高税率の39.6%が適用される場合の年収って知ってます?

単身世帯(Single Filing)で年収50万ドル(≒5660万円)、二人以上の世帯(Married Filing Jointly)では世帯収入60万ドル(≒6800万円)を超える世帯ですよ。

サラリーマンはもちろん、弁護士や医者だって大多数の人は6000万円の年収には届かないだろう。

共働きだって1人頭で年収3400万円ないと届かない。

少なくともほぼ全てのサラリーマンにとっては縁がない世界・・・。

こんな大多数の「個人」にとって意味がない39.6%の減税を取り上げて「個人の所得税も減税されました!」って報道してる人はほんとにアメリカの実情がわかってるのだろうか・・・。

実際に新旧税制による税金額を比べてみる


こちらが実際の2018年の収入に適用される税率の新旧比較表である。

なお数字は夫婦合算申告(Married Filing Jointly)のもの。

これを見ていただくとわかる通り、最も貧困層に属する世帯年収1万9千50ドル(≒215万円)以下の場合、旧税制と同じで所得税の減税効果が全くないことになる。

旧税制新税制
年収下限年収上限適用税率年収下限年収上限適用税率
- $19,050 10.0%- $19,050 10.0%
$19,050 $77,400 15.0%$19,050 $77,400 12.0%
$77,400 $156,150 25.0%$77,400 $165,000 22.0%
$156,150 $237,950 28.0%$165,000 $315,000 24.0%
$237,950 $424,950 33.0%$315,000 $400,000 32.0%
$424,950 $480,050 35.0%$400,000 $600,000 35.0%
$480,050 - 39.6%$600,000 - 37.0%

ちなみに19,050ドルを超えると減税効果があるが、越えた分にのみ減税税率が適用されるので、たとえ19,050ドル以上の世帯収入でも低いほど減税効果は小さくなる

例えば30,000ドルなら、19,050ドルまでは10%の税金(=1,905ドル)、それ以降に12%の税率が適用されるので、実際の合計税額は旧税制が3,548ドル、新税制が3,219ドルとなり、減税効果は僅か329ドルにしかならない

一方、最高税率が適用され始める世帯収入600,000ドルの場合、旧税制181,744ドルに対し、新税制161,379ドルとなり、その減税効果は20,000ドル以上に達する。それでも最高税率適用の「最下限」であって、さらに収入が高ければその恩恵は大きくなっていく。

つまり、富裕層になればなるほど減税効果が大きくなる

実際に世帯収入と税額を新旧比較したグラフが以下となるが、見ていただくと分かる通り、年収8万ドル(≒906万円)以下では点が重なっているようにしか見えない・・・。そして年収が増えれば増えるほど旧税制と新税制による税額の差が開いていき、金持ちであればあるほど減税効果が大きくなることがわかる。

(※表示にはcanvas要素を解釈可能なブラウザが必要です)

それでも減税になるならいいじゃないかと思われるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

SALT控除の上限設定による報復税制


今回の税制改革で大きなインパクトとなったのはSALT控除の減少。

日本の報道では取り上げられることが少ないが、SALTとはState And Local Taxの略で、地方税(州税や市税)として払っている税金分を連邦税の対象所得から控除できる。

このSALT控除が旧税制では無制限だったのが、新税制では1万ドルまでの上限がつく

なお、1万ドルといっても、その中には所得税だけでなく固定資産税(Property Tax)も含まれるので、所得税どころか固定資産税だけで達してしまう場合もある。

地方税の税率が高い地域ほどこのSALT控除による減税効果は大きくなり、実際にSALT控除の利用内訳を見ると、カリフォルニア州とニューヨーク州で全SALT控除の3分の1を占め、利用者の多い州はニュージャージー州、イリノイ州と続く

そしてこの2016年大統領選挙の結果を見ると、それらの大都市州はすべて民主党が勝利していたことがわかる



そう、新税制はクリスマスプレゼントどころか民主党支持者に対するクリスマス爆弾として機能しているのである。

ちなみに自分のようにニュージャージー州に住んでニューヨーク州で働いている場合、両方の州に払っている税金が控除できなくなる上、ニュージャージー州の固定資産税は全50州中最悪なので直撃を食らう

その結果、せっかく連邦所得税の税率減少で恩恵を受けても、SALT控除改正でその恩恵を吹き飛ばし、逆に新税制で増税になってしまう人も出てくるのである。

この点、地方税は州ごとに違い、各種控除も加えると一概な計算も難しいので、ニュースメディアでは連邦税部分だけ取り上げて「企業だけでなく個人も大幅減税だ」と囃し立てているのだろう。

参考:過去の適用税率表


最後に、ご参考までに過去の適用税率表を掲載しておきたい。

適用税率は同じだが、インフレを反映して適用対象年収が年々少しずつだが上がっているのがわかる。なお、数字は全て上掲の2018年と同じく夫婦合算申告のもの。

2015年

年収下限年収上限適用税率
- $18,450 10.0%
$18,450 $74,900 15.0%
$74,900 $151,200 25.0%
$151,200 $230,450 28.0%
$230,450 $411,500 33.0%
$411,500 $464,850 35.0%
$464,850 - 39.6%

2016年

年収下限年収上限適用税率
- $18,550 10.0%
$18,550 $75,300 15.0%
$75,300 $151,900 25.0%
$151,900 $231,450 28.0%
$231,450 $413,350 33.0%
$413,350 $466,950 35.0%
$466,950 - 39.6%

2017年

年収下限年収上限適用税率
- $18,650 10.0%
$18,650 $75,900 15.0%
$75,900 $153,100 25.0%
$153,100 $233,350 28.0%
$233,350 $416,700 33.0%
$416,700 $470,700 35.0%
$470,700 - 39.6%


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