スタートゲートでは、高くなっているステージにはスタート選手と次の選手が。3人目の選手からはステージ手前で並び、7人目の選手(つまり出走7分前)の時点でバイクチェックを受けるようになっている。
バイクチェックで自分の番がやってくると、水平器を使ってサドルをチェックされ、「水平じゃないから駄目だ」と言われてしまう。「車まで戻って直さないといけないのか」と思っていると、「そこにいるシマノのメカニックに直してもらえ」と言われて、シマノカーに向かう。
その場でシマノのメカニック(といっても全員外国人)に直してもらい、再度並ぶが、「まだ水平じゃない」と駄目出しされて再度直す。
急いでゲートに向かって今度はOKをもらうと、すでに出走3分前。
ゼッケン番号順なので割り込み云々は関係ないが、列を掻き分けて前に並び、前後のレーサーと挨拶を交わす。
2人前のレーサーがスタートして、前のレーサーがスタートポジションに付く。自分はロードバイクを係員に手渡してステージの上に上がる。
ちなみに係員がロードバイクをステージ上まで上げてくれるようになっていて、「そんなの自分で持ち上げて上がれるよ」と思ったが、どうやらこの時点でロードバイクの重量をチェックされているようである。
前のノルウェー出身レーサーがスタート。ちなみに1分毎だから前のレーサーには追いつけることもあるかもなぁなどと甘く見ていたが、彼は総合一桁に入るほどのレーサーだったので、とてもではないが追いつけるどころの実力差ではなかったわけである。
自分の番となり、係員にサドルを保持してもらいつつ、両足をクリートにはめる。これまでにタイムトライアルは1度しか走ったことはないし、しかもこういったスタート台で支えられた状態でのスタートは初めてである。
■タイムトライアルスタート
TAG Heuerの時計が自分のスタート時間を告げる。ちなみにTAG Heuerは設立当初からスポーツウォッチの開発に力を注いでおり、2003年まではF1の、2004年からはインディカー・シリーズの公式計時を担当している。
係員に軽くサドルを押されるとともにペダルを回してステージからのスロープを降りる。
危うくスロープの端に車輪がぶれるが、落ちることなく発進。ちなみにこのスロープから落ちてスタート直後にクラッシュするシーンをプロのタイムトライアルで見たことがあるが、そんなこと普通なら起こるはずないと思っていたものの、係員と自分のペダルの力の入れ具合とタイミング次第では落ちることも十分考えられるなぁと思った。
そんなスロープ効果か、さすがプロのタイムトライアルでも行われるスロープ発進だけあって、一気に加速して高速巡航に入る。
走り出すのを見計らって自分の前に先導バイクが出てテールランプをつけたまま先導してくれる。1人につき1台先導バイクがつくなんてさすがUCIの世界大会だなぁと思いつつペダルを回す。
一般道に入るまでのRAVeL区間では峠もなく緩い上りが続くストレート。途中で長いトンネルに入り、入口と出口の光も届かず真っ暗になったが、先導バイクのテールランプのおかげで薄く照らされる濡れた路面を捉えつつ突破。
RAVeL区間も後半に入り、これから一般道に出て本番の3つの峠に入るなぁと思っていると、後ろからクラクションが!
まさかと思って道の端に寄ると、後ろの選手の先導バイクが出てきて、彼に抜かされる。
がはぁ、まだ10分くらいしか経ってないのにもう追いつかれるとは…。
TT機材を使っていないとか、試走をしていないというのも言い訳にしかならないほど脚の差は歴然としていた。
その後も他の選手に抜かされる。
が、峠の上りでは差が開かない。それなりにクライミングには分があるらしい。とはいえ、体格のメリットがありながらも相対ワット(watt/kg)で差をつけられずにいて、それどころか絶対ワット(watt)では差が開くばかりということなので、そこがやはり脚の違いなのだろう。
そしてやはり思い知ったのはダウンヒルでのスピードの違いである。速いレーサーはまさしくダウンヒルが激速であった。雨に濡れた路面にも関わらず一気に駆け下りていく。試走できなかったビハインドがあるとしても、やはり雨や今後の家族旅行の旅程等があるので攻め込みきれない自分がいるし、それでもしょうがないと納得している部分もある。
とはいえ、2つ目の峠で先に出たレーサーを前に捉える。そのまま並び、抜き去る。抜かれはしたが、逆に抜く瞬間もこの大舞台で味わうことができた。
基本的にタイムトライアルというと一人旅と思われることがあるが、時間差で出た他の選手に追いつき追い越され、抜いて抜かされてこそタイムトライアルの醍醐味でありアドレナリンポイントであると思う。ドラフティングが禁止されていても、そうした競争心こそが気合に変わりペダルに伝わる。
そんなこんなで峠を上っては降り、スタヴロの街に戻ってくる。
最後の石畳の坂、シクロクロスのようにガタガタ揺れる中を駆け上る。
そして振動で全身マッサージ状態になりながらフィニッシュゲートに一直線。
ゴールした後、スタッフから水を受け取って飲みながら道路脇に停車して呼吸を整える。
と、フィニッシュゲートの電光掲示板に自分の名前とタイムが出るとともに、司会者から読み上げられる。名前の横には昨日修正したばかりの国籍が反映されており日本の国旗も表示されている。その割りにはトップからは遠く及ばないタイムで、次の選手が中々ゴールしてこないからか、しばらく自分のタイム(とトップとの差)がフィニッシュゲートに表示されたままで少し恥ずかしい。
そんなこんなで妻と合流して車の中に自転車をしまう。
既にホテルをチェックアウトしてしまっているのでシャワーも浴びれず、雨と汗で濡れた体を拭いて、せっかくだから近くにあるスパという温泉地へ向かうのだった。
その途中で見かけた入賞者。サドルの高いTTバイクが印象的だった。
それにしても、ホテルを移り変わる途中にタイムトライアルが重なり、ろくに練習も試走もできず、雨という中で完走できただけでも良かったと思う。レースについては、ロードレースのエントリを終えた後にでも、レース総括という形で所見を述べれればと思う。
このような石畳のコース走れるなんて、うらやましいです。
返信削除ロードで石畳はキビシイでしょうが、またとない経験でしたね。
ニューヨークは石畳の道は少ないし、石畳の坂道となるとないに等しいのでまさしく素晴らしい経験でした。時間がもっとあれば、フレッシュ・ワロンヌに出てくる最大勾配20%の石畳の激坂というユイの壁にも挑戦したかったのですが…。
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