ということで楕円チェーンリングについて引き続きエントリしていきたい。
ちなみに楕円チェーンリングと聞いて思い浮かべるのは、ツール・ド・フランスでウィギンスやフルーメがピナレロに装着しているOSYMETRICであろう。
ウィギンス自身は元々OSYMETRICを使い続けており、2009年のツール・ド・フランスで総合4位に入ったときもOSYMETRICを使っていた。OSYMETRIC自体、かなり以前からプロ選手に愛用されており、古くは2004年のアテネオリンピックの個人タイムトライアルで銅メダルを獲ったボビー・ジュリックも使用者であった。
とはいえ、やはりツール・ド・フランスの、特に第9ステージの個人タイムトライアルでワン・ツー・フィニッシュを飾った2人が2人してOSYMETRICを使っていたというインパクトは大きい。
なお、自分が最初に導入したのはRotor 3DのOCP3 Q-Rings、50/34かつクランク長165mmの楕円チェーンリングである。OSYMETRICは現在人柱中であり、また感触が固まり次第フィードバックしていければと思う。
今回、便宜上、楕円チェーンリングとして一括りにしてしまっているが、OSYMETRICはQ-Ringsと形も異なっており、使用感覚は随分異なるようである。
この点、OSYMETRICはオフィシャルサイトでも「楕円ではない」と強調している。「OSYMETRIC curve is not an oval or ellipse, is a dual cam, a TwinCam. What is a Twincam : 2 curves are symmetrical about a single point.」確かに形を見ても楕円というよりももっと歪な形をしているのがわかる。OSYMETRICと同じフランス産であるOGIVALという「楕円」チェーンリングもあるが、こちらも楕円というよりは「ラグビーボール型」と言った方がしっくりくる。
なにはともあれ、Q-Ringsは6月7日に届いて既に40日近く使い続けているが、結論から書くと「大当たり」であった。
が、一方で、楕円チェーンリングは「人を選ぶ」とも思う。それはペダリングはもちろん、レーススタイルも含めてである。
ということで、楕円チェーンリングのコンセプトと向き、不向きについて取り上げてみたいと思う。
■真円チェーンリングと楕円チェーンリングに見る思想の違い
上記のOSYMETRICと同じく、楕円チェーンリングといっても形や仕上げは様々で、古くはShimanoのBiopaceやスギノのサイクロイド、現在ではRotorのQ-RingsやOSYMETRIC、OGIVAL、中には自作でこんなものまで作っている人もいる。(なんというか、もはや楕円というよりチェーンソーのようである)
ShimanoのBiopaceはコンセプト自体が真逆なので例外ではあるが、それ以外の楕円チェーンリングに共通しているコンセプトは、「上死点、下死点での無駄をなくす」である。
つまるところ、真円と楕円の違いが表す思想とは、「人が機材に合わせるのか」「人に機材を合わせるのか」の違いである。
生物的な観点から見ても、人間という動物が生きていくにあたり、脚を真円に動かす動作というものは存在していない。現代の日常生活において必要になる脚の動きも上下運動が中心であり、いわば自転車とは、脚の上下運動をペダルの回転運動にして走る乗り物なわけである。
楕円チェーンリングとは、人間本位のパーツ設計であり、人間の体の造りに機材を合わせた結果の産物であることに他ならない。
一方で、機材に合わせたペダリングをしている人、真円で回している人にとっては楕円チェーンリングは使いにくいものになるかもしれない。
■楕円チェーンリングのペダリング
楕円チェーリングに有用なペダリングとは、まさしく以前このブログでご紹介した、狩野プロや中野浩一氏、松本整氏と同じ大腿四頭筋位置での「重力中心のペダリング」である。(見返してみたら当時も風邪をひいていたとは…)
逆に、脚の様々な筋肉を総動員して、各角度で一定のトルクがペダルにかかるようなペダリングをしている人にとっては、楕円チェーンリングはむしろその感覚を狂わせてしまうであろう。
ちなみに、松本整氏は下死点で無駄なトルクを発生させている人のための「矯正ギア」として、楕円チェーンリングのジニアスフィーリングを開発しており、楕円チェーンリングが「下死点で力を抜く」ことを体に覚えこませるための矯正器具として利用されている点が興味深い。
■変速性能
楕円チェーンリングのデメリットとして真っ先に挙がるのはその変速性能の悪さであろう。
実際に使っている人たちが集まるフォーラム等では、使い物にならないという人から、問題なく変速できるという人までいる。
が、概ね変速性能は真円以下になると考えてよい。少なくとも真円よりも変速性能が良くなったという話は聞いたことがない。あるコメントによれば、Dura-Aceを使っていても楕円にしたら変速性能は105以下になったとのことである。
自分の場合、これまで1年で1、2回くらいしか起こしていなかったチェーン落ちが、楕円にしてからの2週間で2回も起こった。
しかもそのうちの1回が、レース前夜でシフターまで道連れにして故障してしまったのでその精神的ダメージは大きかった。
いろいろとシビアなフロントディレイラー調整をしつつ、変速にも慣れたことから最近はチェーン落ちさせることもなくなったが、フロントを変速をガンガン多様するようなレースにおいてはその信頼性は低いといわざるを得ない。
ぶっちゃけ、もし今もマスドスタートのロードレース中心のレーススタイルであったなら、危なっかしくて使っていなかったかもしれない。
それでも変速ポイント等が設定してあるQ-Ringsは良い方らしく、OSYMETRICはさらに悪いらしいので気になるところである。
フロントの変速性能の悪さを考えると、フロントを頻繁に変速させる必要がなく一定のペースを保つようなヒルクライムやタイムトライアルに向いているといえる。
■楕円チェーンリングの効果
では楕円チェーンリングの効果は何であろうか。
楕円チェーンリングの特徴とは、「人体の構造上、最もペダルが回しにくくなる上死点&下死点を、ギアを軽くすることによって回転速度を損なわずに通過させること」である。
例えばRotor Q-Ringsのアウター、50(x)のチェーンリングの場合、チェーンリングの長短比は1.1(y)であるため、一番ギアが大きくなる箇所では「x + (x*y-x) / 2」で52.5、一番小さくなる箇所では47.5の歯数になる。
52.5に近い53の真円チェーンリングを使っている場合、もちろん上死点、下死点においても53のギアを回すだけのトルクが必要になるが、50のQ-Ringsの場合、上死点、下死点では47.5のギアを回すだけのトルクで回転させることができる。
結果として、上死点、下死点の通過速度を速めることはケイデンスの向上につながる。
ただ誤解しないでおきたいのは、楕円チェーンリングは、決して「楽をするための機材」ではないということである。
トルクがかかる箇所が同じギアでケイデンスが上がるということは、それだけ単位時間あたりのトルクをかける回数が増えるということであり、むしろきつくなる。
あるフォーラムでは、「Now for fun but for racers」と形容していたが、まさにもっと自分をいじめたい、もっと追い込みたい人向けの手段であるといえよう。
つまりは、結果を得るためならきついことにも喜んで身を投じるような、ドM向け機材といえるかもしれない。
��00回転を超えた当たりから違うような気がします。
返信削除「キレイに回せてる!」と思わせてくれる
と言うところが私の感想です。
パワーメーターを使って定量的に計測した結果をかなり期待しています。
プラシーボ効果でないことを祈ります・・・
初めはもっとぎこちなく回さなくてはならないのか?
と思っていましたが、
そんなことは消してないですね。
「むしろこちらが自然」
なのでしょう。
人に機材を合わせる
この表現がかなりツボを突いていると思いました。
Jさん、パワーメーターを使った計測、ログ分析がまだですがチェックしてみようと思います。
返信削除ただ汎用的に効果があるエアロ装備等と違って、ペダリング方法に依存する部分も大きく人を選ぶと思うのでかなり人によって幅がでそうです。実際、研究結果では効果があったというものから特に変わっていないというものまでありますし。
ただ仰るとおり楕円にすることでぎこちなくなるどころか、むしろこんなにも違和感ないのかというくらい自然に回せるのはむしろこのギアの方が「自然」なのではないかと思わせてくれるところですね。
長短比がもっと高いOSYMETRICやOGIVALでも同じような感じなのかが気になるところです。
いつも楽しく拝見させて頂いています。
返信削除楕円は最近自分もきになる機材なんですが、ダンシングした時の感覚などはいかがでしょうか?
yasuさん、当初は楕円クランクはシッティングでこそ威力を発揮すると思っていたのですが、ダンシングも意外といい感じです。なまじ何も考えずにダンシングしていると無駄なトルク(というより体重)を下死点でかけてしまうこともありますが、楕円の場合は下死点でトルクが抜ける傾向にあるので意識せずに無駄な力をかけないことが出来るイメージです。まあその効果もあって「矯正ギア」として楕円チェーンリングが使われてるところもあるのかもしれませんが。
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