物欲紹介:パイオニアのペダリングモニターもといパワーメーターがアメリカで普及していないワケ

前回取り上げたとおり、SGY-PM900の発売から1年も待たずに値下げして発売されたのがSGY-PM910H。

ぶっちゃけアメリカではマーケットを見る限りパイオニアのパワーメーターは成功しているとは言い難く、世界市場を見越して性能改善&全体の価格帯を下げることでのテコ入れと思われる。

SGY-PM900は、Trekへのフレーム未対応やSRM並みの高額ということもあって不評。パイオニアUSAの公式ホームページではすでにSGY-PM910Hのみ紹介がされていて、「VIEW PREVIOUS MODELS」というリンク先でSGY-PM900のページを参照できるのみとなっている。つまり、SGY-PM910HはSGY-PM900からのバージョンアップである「最新型」という位置付けになっている。

サイコンも同じく、SGX-CA500はモノクロということもありSGX-CA900よりも劣るイメージがあるが、実際には改良版かつ値下げ戦略の一部として投入されている。

ちなみにSGY-PM900のBike Raderでのレビューは5点満点中2点と酷評

  Pioneer Pedaling Monitor System review

「目玉の角度別のベクトルはどんどんズレ、片足ペダリングをしても足をつけてない方のパワーが表示され、エポキシ接着剤でクランクに貼り付けたり結束バンドで止める仕様は洗練されておらず、SRMと同じ価格帯にしては作りが悪い」とバッサリ切られている。

パイオニアUSAの公式ページでオフィシャルディーラーが紹介されているが、そのうちパイオニアのパワーメーターの商品紹介がウェブサイトにあるのは1社のみ。他のサイクルショップはパワーメーターの紹介ページはあっても、PowerTap、Stage One、SRAMであってパイオニアの紹介はない。(ローディーの数も日本より多いのに、SGY-PM900を実際に使っている人の情報はインターネット上にほとんどない)


■ペダリング効率とは

米国内のレビューや感想を見ると、そもそもパイオニアのパワーメーターが売りにしている「ペダリング効率」について疑問が呈されている。

これについては自分も同意する部分があり、あくまでも目的は速く走ることであって、ペダリング効率を高くすることではない

ではペダリング効率を高くすることが、速く走る目的のための手段となるかというと、必ずしもそうとはいえない。

ペダリング効率とはあくまでクランクにかかるトルクのベクトルから割り出している機械的な効率だけであって、人間の体の使い方についての効率ではないからである。

たとえばエアロポジション。

空気抵抗的に最も効率的なポジションでは、オブリーがやっていたように、腕をできるだけ畳むか真っ直ぐに伸ばし、背筋はまっすぐ、できるだけ前面投影面積を小さくするようにする。

一方で、空気抵抗削減を追及しすぎると、逆に不安定な体勢となってペダリングがしにくくなり、肝心のエンジンの性能を下げてしまう。これが「空気抵抗的に最も効率的なポジション」=「速く走る上での最も効率的なポジション」にならないポイントである。

前者が物理的な効率だとすれば、後者は人間工学も含めた最終的な効率であり、パイオニアのパワーメーターがカバーしているのは前者のみである。

そして世の中に楕円チェーンリングなるものがあるのも、前者の効率が後者の効率とは似て非なるものであるからに他ならない。


■数字絶対主義への警鐘

先のBike Raderのレビューを見ると、上記のように物理的なペダリング効率が数値で表されても、その数値が実際の効率ではないので役に立たないと考えられているようである。

確かに、そもそもパワー出力値自体、数値に頼りすぎることへの疑問や批判も出ている。

ヘルミダーのインタビューでは、ことあるごとに「出力の値は重要ではない」と語られている。

  世界チャンピオン、ホセ・ヘルミダのトレーニング理論

また、こちらの本でもパワーの出力値といったフィジカルな部分ばかりに頼る数値絶対主義への注意喚起がなされている。

  

元チャンピオンシステムズの西薗選手のブログでは、Garmin Edge 800の画面表示考察で、数値に惑わされないためにパワーの数値自体をサイコンに表示しない設定もなされている。

  Garminの画面表示考

この点、ペダリング効率だけで他の(特にエンジンの)使い方が可視化されないのが、既存のトータルバイクフィッティングに比べて見劣りしてしまう原因なのかもしれない。

なお、トータルバイクフィッティングの分析としてはシマノのDynamic Fitが一歩上を行っている。



ペダリングのトルク方向はもちろん、3Dモーションキャプチャーを使って体の動きまで解析して最適なポジション、ペダリングを追求する。



クランクのトルクだけではなく、クリートを通してペダルシャフトにかかっている力の分布まで分析できる。



さらに専用の解析ソフトウェアが、複数の改善候補ポジションやフレーム(メーカーの名前まで!)をお勧めしてくれるというから驚きである。

これであればエンジンも含めてトータルな効率を追及できるかもしれない。



まあこちらは業務用なので、個人で買うのは今のところ難しく、かつ敷居も高い。

ただどちらにしろ言えるのは、自転車業界の巨頭であるシマノがペダリングモニターの世界にも脚を踏み入れてきているということである。

すでにサイコンだけでなく電動シフターにも情報を飛ばすというパワーメーターの特許がシマノから申請されており、オートマ変速の可能性まで視野に入れられている中では、まだ定番といわれるものが出るまで「待ち」の方がいいのかもしれない。

と、パイオニアのパワーメーターの物欲じゃないような内容になってしまったが、実際のところは逆で、種々の事情を勘案するとそれでも自分的にはSGY-PM910Hは買いだと思っている

ということで長くなってしまったので続きはまた後日。


2 件のコメント :

  1. まだちゃんとバイクフィットできてる自信がないので、Bike Dynamicsやってみたいですね~。
    特にオルベアオルカだとヘッドチューブ(73.5度)とシートチューブ(73.2度)の角度が特殊なんですよね。
    そのせいか、トップチューブ長とステム長からコックピット長を計算しようにもうまくいかないです。
    ところで初心者ロードレーサーさんはあまりバイクフィット関連の記事を書いてないですね。
    サドル高やステム長はどうやって決めていますか?

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  2. 初心者ロードレーサー2014年3月19日 1:55

    バイクフィットは体ができてからの方がお勧めです。自転車に乗り慣れてくればくるほど最適なポジションが変わっていくように、適正体重や筋肉ができていない状態では「最適」なポジションはでないので。
    私はチームメンバーに相談しつつ、あとはひたすら乗り込んで微調整の繰り返しです。まあブログに書いても何にも面白くないので特に触れませんが(笑)
    ちなみにサドル高やステム長はネットに山ほど情報がありますが、誰にでもあてはまる正解はないので、あくまで参考にしつつ、やはり自分で乗りまくって違いを肌で感じ、感覚を磨くのが一番だと思います。

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