実際のレース結果を使ったパイオニアのペダリング解析

Cyclo-Sphereというよりパイオニアのペダリングモニターの特徴であるペダリング解析機能

サイコンのSGX-CA500上でペダリングモニターウインドウを表示することはできるが、トルク曲線ウインドウを表示できるのはオンライン上のCyclo-Sphereのみとなっている。



今回はその2つのウインドウについて、昨日のエントリでご紹介したヒルクライムタイムトライアルの実際のログを使ってご紹介したい。


■ペダリングモニター

ペダリングモニター部分は解説の必要がないかもしれないが、ベクトルが力のかかっている向きと大きさを表している

以下はヒルクライムタイムトライアル中のダウンヒル区間でのペダリングモニター情報。グラフの特徴を良く表してくれるので敢えて悪い例として挙げてみたい。



この点、赤色は「ベクトルの合計」が自転車を進ませるのにプラスに働いている場合、青色は「ベクトルの合計」がマイナスに働いている場合である。が、色に惑わされてはいけない

「ベクトルの合計」と書いた通り、あくまでベクトルの色は合計がプラスかマイナスかでしか表していないので、「ベクトルの色は赤でもほとんどの力が無駄になってしまっている」場合もある。例えば下死点付近でほぼ真下に力をかけていてほとんどの力が無駄になっていたとしても、少しでもプラスの方向に働いていれば色としては赤くなってしまう。上記の図ではまさに5時の箇所がその良い例といえよう。

よって、ペダリングモニターは視覚的にわかりやすくしているというだけで、もっと詳細な分析をしたい場合にはトルク曲線ウインドウを見ることになる。


■トルク曲線

メディアで紹介される図は、グラフィカルでインパクトが強いからかペダリングモニターウインドウの方が多いが、トルク曲線こそペダリング解析の真骨頂である。

トルク曲線には4つの線が表示されている。

以下のトルク曲線は上掲のペダリングモニター(ダウンヒル区間のもの)と同じペダリングデータのトルク曲線である。



赤が左クランク、青が右クランク。

原色が接線方向(Tangential)のトルクで、蛍光色が法線方向(Radial)のトルクである。

接線と法線、この2種類のトルク曲線を見ることで、ペダリングのムラ、効率が丸裸になる。


■接線方向のトルク曲線

接線方向のトルク曲線とは、一言で言うと「自転車を前に進ませる力」のことである。

これがプラスであれば推進力となり、マイナスであればブレーキとなっている。

グラフ上でいえば、0の線より上の場合はプラス、下の場合はマイナスとなる。

ペダリングモニターの図で言えば、0の線より上が赤色、下が青色のベクトルで表示されている。

つまり、「0の線より下にいかないこと」がペダリング効率を高めるためのポイントとなる。


■法線方向のトルク曲線

一方、法線方向のトルク曲線は、「自転車を前に進ませるのに貢献しない力」のことである。

法線方向のトルク曲線では、プラスであってもマイナスであっても無駄な(クランクが回転する方向ではない方向に)トルクをかけていることになる。

グラフ上でいえば、0の線より上でも下でもマイナス効果

つまり、「0の線にできるだけ近づけること」がペダリング効率を高めるためのポイントとなる。

上記のダウンヒル区間の例で言えば、下死点にある180度地点でペダリングモニターでは真っ直ぐ下にトルクがかかっており、トルク曲線では接線方向がほぼ0=「クランクが回転する方向に力がかかっていない」、法線方向で大きくプラスに振れている=「クランクが回転しない方向に力がかかっている」ということがわかる。

右脚では約200Nのトルクが、左足では約150Nのトルクが全く自転車を前に進ませることなく無駄にかかっていることになる。

自転車を進ませる方向に力がかかっていなくても、実際の肉体では両脚で350N分の筋力を使っていることになり、いわば筋力の浪費以外の何物でもなく、こういった無駄をいかになくしていくかが筋力を長い時間持続させ、ひいては速く走るためのポイントとなっていく。


■ペダリングによる効率の違い

では実際に、上記で見ていったペダリング分析の知識をベースに各種ペダリングを分析していく。

こちらはヒルクライムタイムトライアルの相関図ウインドウ。



ポイントは、同じ出力を出していても効率が75%のところもあれば、50%のところもあるということ。

では「50%のところを75%にすればいいのか」というと、一概にそうとはいえない

こちらは低効率の例



ケイデンスは72rpmでダンシング中のログである。

トルク曲線でもその様子が顕著に出ており、下始点付近にかけて一気にトルクが出て、それ以外はほとんど出ていないことがわかる。ちなみにダンシングの場合は特に、引き足がちゃんとできていないと下死点以降で青いベクトルが出現する(=反対の脚に対してブレーキとなり相殺してしまっている)ことになる。



一方でこちらはシッティング中の高効率の例



このときはサドルの後ろに座っていたので2時~3時(60度~90度)にかけてトルクのピークがきているのがわかる。



注目すべきは法線方向の曲線。シッティングでは150N以下くらいで抑えられているのに対し、ダンシングでは750Nくらいまで上がっており、どれだけ無駄なトルクをかけてしまっているかがわかる

一方で、自転車推進力となる接線方向の曲線を見ると、シッティングでは300Nに達する程度なのに対し、ダンシングでは500Nまで上がっている。

この点、効率だけでみればもちろんシッティングの方が優位なのではあるが、エンジンたる人間の体にとってはダンシングを織り交ぜた方が逆に総合的に見た効率を上げることができる

というのも、ダンシングでペダリング効率を75%くらいまで上げるのは難しく、ダンシング時における人間の身体的構造からしても逆効果となってしまう(体重を有効利用できるというダンシングの特徴を無意味にしてしまう)。

よって、闇雲にペダリング効率を高くするのを目指すべきではなく、シッティング、ダンシング、それぞれのペダリングで目標効率を設定し、個々のペダリングにおいて、目標効率に収斂するようにペダリングを改善していくのが1つの解法であると思われる。




4 件のコメント :

  1. 自分のダンシングが遅いのは引き足が使えてないからだったのか!!

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  2. 分かりやすく詳しい説明、ありがとうございます。
    参考にさせて頂きます。

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  3. 初心者ロードレーサー2014年5月10日 2:08

    各種書籍やYouTube等でもいろんな種類のダンシングが紹介されてますのでご覧になられるとよいと思いますよ。

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  4. 初心者ロードレーサー2014年5月10日 2:12

    お役に立ちましたようでなによりです。いろんな書籍が出ているパワーメーターと違って、ペダリングモニターは機材は高機能でもまだそれを活用するための情報が少ない状況にあると思うのでこのブログでも少しずつ取り扱っていければと思います。

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