栄養学にしろ、生化学にしろ、突き詰めれば極めてシンプルな、そして使い古された言い回しの結論に辿り着く、すなわち「偏食(過剰摂取、摂取不足)に気をつけ、バランスのいい食事を適量摂取すること」である。
ただ、アスリートにとってはその「バランス」や「適量」が異なる。例えばタンパク質は通常生活を送る限りは、一日体重1kgにつき1gが適量であるが、スポーツをする人は1kgにつき2gと言われている。これは通常生活に比べて運動ではより多くのタンパク質が必要になるため、当然といえば当然である。
さらにタンパク質の内訳として、そのアミノ酸組成においても、アミノ酸スコアが平均的な生活を送る一般人を対象に作られており、アスリート等の違いがまったく考慮されておらず、スポーツをする場合は、主に筋肉に使われるBCAA(ロイシン、バリン、イソロイシン)やグルタミンがより多く必要となる。
なぜなら「超回復の嘘とデタラメ」にて紹介したように、アミノ酸の必要量が運動時と安静時で全く異なってくるからである。日常的に運動している人と、運動していない人の必要アミノ酸が違ってくるのも当然である。つまり、運動をするのに通常の人と同じ量しか摂取していないと、運動によって消費されるアミノ酸が不足し、逆にアミノ酸バランスを崩してしまう。特にBCAAなどの体内で合成できない必須アミノ酸は、不足分を外部から摂取する必要がある。
■食事だけでタンパク質を十分摂取できるか
といっても食事だけで必要量を過不足なく採るには限界がある。
文部科学省から、各品目の栄養組成表、アミノ酸組成表が公表されているので、それらを照らし合わせれば、三大栄養素だけでなくミネラル、ビタミンの量、タンパク質のアミノ酸組成まで確認することができる。しかし、普段沢山の品目を食べる中で、一つ一つ過不足を確認していくのは現実的ではない。
「日本食品標準成分表2010」
「日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表2010」
この点、タンパク質に限って言えば、運動選手は通常の生活を送る人の2倍必要になるわけだが、かといって毎日6食の生活をするのは不健康そのものであり、まさに下で述べる逆効果になってしまう。例えば身近なところで、今日食べた料理の2倍の量を毎日食べることを想像いただくと、タンパク質以外のカロリー、脂肪分等をいかに過剰摂取してしまうかが分かっていただけると思う。
つまり、肉や牛乳、卵などの食事から必要量のプロテインを摂取しようとすると、脂肪(特に動物性の場合は飽和脂肪酸)も大量に摂取してしまうことになり、筋肉が付く前に贅肉がついてしまう。そのため、特にタンパク質を必要とするアスリートは栄養補助としてプロテインで必要な種類、量を補給するのは重要である。
■過剰摂取による逆効果
一方で、だからといっても採りすぎは逆効果をもたらす。
まさしく「過猶不及」※である。
��※注釈&蛇足:論語の先進第十一より「過ぎたるは猶、及ばざるが如し」のこと。原文では端木賜が孔子に、「師と商、どちらが賢いですか」と聞いて、孔子が「師は賢すぎる。商は力量不足(不及)」と答え、端木賜が「では師の方が優秀なのですね」と言ったところに返した言葉。孔子の三千人の弟子のうち、七十二賢と呼ばれる優秀な弟子がおり、その中でも特に優秀な十人が孔子十哲と呼ばれた。孔子に尋ねた端木賜(字は子貢)は孔子十哲の一人。「賢すぎる」と評された師は七十二賢の一人で顓孫師(字は子張)のことだが、「不及」と評された商(卜商。字は子夏)は孔子十哲の一人である。)
厚生労働省でも、特定のアミノ酸を高濃度に含有している健康食品の危険性を公表している。
「アミノ酸を含有する健康食品の取扱いについて」(※PDFリンク)
サプリメント市場では、グルタミンだけ、アルギニンだけといった単一のアミノ酸のみのサプリメントも売られているが、大量の摂取は上記アミノ酸バランスを崩すことになりかねない。
■必要量をバランス良く
ちなみに以下は私が普段飲んでいるプロテインだが、必須アミノ酸だけでなく、準必須アミノ酸、非必須アミノ酸が満遍なく含まれていることがわかる。
GNC※のトップラインのプロテインである「Amplified Wheybolic Extreme60」。60はプロテインを60g含有しているということらしい(実際は60gより多い)。つまり、食事は非アスリート(体重1kgにつき1g)と同じく通常の量を摂取して、あとはこのプロテインをトレーニング後に飲むことで、一日体重1kgにつき2gの「アスリート向けタンパク質摂取量」を過不足無く確保することができる。
��※GNCはアメリカのサプリメントチェーンだが、店員のレベルはまちまち、扱っている商品も善し悪しありだが、種類が豊富で店舗も多くディスカウントも効くので重宝している。)
以下、組成表。パッケージに記載されており、購入前に確認できるようになっている。BCAAであるバリン、ロイシン、イソロイシンが約1:2:1の黄金比率の割合で入っていたり(最近はどのプロテインでも大体この割合を実現しているが)、筋肉中の遊離アミノ酸の約60%を占め、筋肉のカタボリック(分解)を抑制するグルタミンも十分含まれているところなど卒が無い。
一方で、プロテインといいつつ、プロテイン(タンパク質)に含まれるアミノ酸組成を記載していない商品も多いが、自分はそういう、ある意味情報を曖昧にしているような商品は避けるようにしている。アメリカで市販されているプロテインの種類についてはまた別途エントリを設けたいと思う。
結局、また使い古された言い回しになってしまうが「用法、用量をよく守って必要な量をバランス良く摂取すること」が王道であることがわかる。
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