脂肪が燃えるか、筋肉が燃えるか
前回は筋肉を落とさないためのカロリー摂取方法を取り上げたが、それがわかっても片手落ち。
代謝が同化と異化両方のバランスで成り立っているのと同じく、カロリー収支も「収支」というくらいだから摂取と消費のバランスで成り立っている。
そしてカロリー消費で分解されるのは脂肪だけでない。筋肉だって分解される。
が、カロリー摂取でタンパク質が多いと筋肉が落ちにくいのと同様、カロリー消費にも筋肉が落ちにくい消費の仕方がある。
まず知っておきたいのは、カロリー消費といっても消費されるカロリー源には様々な種類があるということ。
最大のエネルギー源となっている脂肪を筆頭に、血液中に遊離している血漿グルコースや遊離脂肪酸、そして肝臓に存在する肝グリコーゲン(約100g=400kcal)、筋肉に蓄えられている筋グリコーゲン(約300g=1200kcal)もある。
が、糖代謝に注目した場合のグリコーゲン貯蓄量は多くなく、グリコーゲンが枯渇した後はグリコーゲン以外の燃料、つまりは筋肉(タンパク質)と脂肪を分解して糖が作り出される(糖新生)。
以下はグルコースが消費される場合のエネルギー源を表しているが、最初に燃やされるのは外因性グルコース(食事等体外から摂取した糖)、次が肝臓に貯蔵されたグリコーゲンで、最後に糖新生となっている(ちなみに筋グリコーゲンはその筋肉部位の収縮のために使用される)。
糖新生で脂肪が分解される以上、まずは血中のグルコースや肝臓のグリコーゲンを消費して、それからやっと脂肪(と筋肉)がエネルギー源として使われる糖新生の段階に至る。
そしてそれこそが、「運動してから20分経たないと脂肪が燃焼されない」とまことしやかに囁かれる説につながるのかもしれない。
が、実際には脂肪は糖新生だけではなくβ酸化でも分解されてエネルギー源として使われる。といっても脂肪が分解された脂肪酸とグリセロールは、前者がβ酸化に、後者が糖新生に使われるのでβ酸化の亢進時には連携して糖新生も亢進されるのだが。
話が生化学方面に傾斜してきたが、ダイエッターにとっては別に糖新生でもβ酸化でもどうでもよく、ぶっちゃけ知りたいのは「じゃあどうすれば脂肪が燃えるんだ」ということだろう。
この点、注目すべきは運動強度によっても使われるエネルギー源が異なってくるということである。
ポイント1:運動強度が低ければ低いほど脂肪燃焼割合が高まる
以下の図は、横軸が運動強度(VO2Maxの何割か)、縦軸が使われるエネルギー源の割合を示したもので、運動強度が低ければ低いほど脂肪(赤色背景)が使われ、逆に運動強度が高いほど糖質(青色背景)が使われる。
「運動してから20分経たないと脂肪が燃焼されない」という説とは対照的に、(消費カロリーの絶対量は小さいものの、)運動していなくても脂肪は燃焼されているし、むしろ安静時の方が脂肪燃焼割合は高い。
では表中の左端(=運動していない状態)にある安静時が一番ダイエット向きなのかというとそうではなく、たとえ脂肪燃焼割合は高くても、あくまで「割合」であるため、カロリー消費の絶対量が少なければ脂肪燃焼効果は悪くなる。
例えるなら、税率10%で1万円貰えば9割の9000円が手元に残るが、税率が50%でも元の金額が10万円なら5万円が手元に残る。どっちを選ぶかと言われたらもちろん後者の方だろう。いくら脂肪燃焼「割合」が高くても、燃焼される絶対量が少なければ非効率なのである。
1日は24時間と有限で、運動できる時間などさらに限られているのだから、絶対量で脂肪のカロリー消費に有効な脂肪燃焼が最大化される運動強度を目標にするべきである。
ポイント2:脂肪燃焼の絶対量が最大になるのはVO2Maxの60%の運動強度
では実際にカロリー消費内訳とその絶対量をみていきたい。
上掲の「割合」によるグラフと違い、縦軸にカロリー消費量をもってきたのがこちらのグラフ。VO2Maxの25%、60%、85%の運動強度における1時間あたりのカロリー消費量とその内訳(何をエネルギー源としてカロリーが消費されているか)が示されている。脂肪か糖質かという点では、各棒グラフの隣にある細い棒グラフ(赤が脂肪(FAT)、青が糖質(CHO))を見るのがわかりやすい。なお、緑色のグラム表記は燃焼された脂肪量。
ここで注目したいのは、「運動強度が低すぎても、逆に高すぎても、脂肪消費量は最大化されない」ということ。
トータルカロリーで見た場合、VO2Maxの85%が一番カロリーを多く消費しているが、その大半は糖質の消費で、脂肪の消費量は60%の方が多い。
上掲した通り、糖質の消費=グリコーゲンが枯渇すれば糖新生によって筋肉を分解して補うことになる。
つまり、ダイエットのつもりで頑張って運動した結果、脂肪よりも筋肉が分解されていたということが起こるわけである(まあダイエット=体重を減らすという点では効果はあるのだが)。
有酸素運動のしすぎ
ダイエット中、毎日1時間のエリプティカルで汗を流せば、カロリーを消費して脂肪が燃やせると思ってない?残念ながらこれは間違い。全身の筋組織を使うウエイトリフティングとは異なり、有酸素運動で筋肉は作られない。むしろ、有酸素運動は筋肉を燃やしかねない。1時間のウォーキングのような低負荷の有酸素運動の燃料に脂肪が使われるのは確か。でも、カロリー摂取量が赤字だったり、45分もジョギングしたりすれば、体は筋肉を燃料に使い出す。「中強度のエクササイズは、ほぼ確実に筋肉の喪失に繋がる」 とクレイトン。
脂肪の代わりに筋肉を失ってしまう6つの習慣
そしてこの「追い込みすぎ」はおそらく大半の人が認識している「追い込む」よりも遥かに強度としては低く、普通に実走ライドをしていたらもうアウトと思ってもらっていいくらいの強度である。
有酸素運動には筋肉分解と筋肉合成促進の二つの相反する機能があります。
原理的に筋肉分解は運動に必要なエネルギー補給ですから、有酸素運動の量を増やせば増やすほど筋肉分解の量は増えます。それどころか一定以上のカロリー不足を作り出すようになると筋肉分解は加速します。
他方、血流促進とインスリン感受性向上は、有酸素運動をしたことによる効果であり、運動時間を2倍にすると効果も2倍になるというものではありません。
つまり、有酸素運動の量を増やしても筋肉合成促進の量はそれほど増えません。スポーツの効果(体の成長)には限界があり、練習すればするほど体が成長するわけではありません。
トータルベースで見た場合、適度な有酸素運動は、しない場合に比べて筋肉成長に有効ですが、どこかのポイントを超えると、すればするほど逆効果になってきます。
かなりざっくりですが、絵にすると下記のような感じでしょうか。
有酸素運動は筋肉を分解するというのは嘘か本当か
端的に言えば、追い込みすぎたら逆効果、強度を落とした方が脂肪燃焼には効果的なのである。
この結果を脂肪燃焼量のみ取り出して折れ線グラフにしたものがこちら(縦軸:1時間あたりの脂肪消費量、横軸:運動強度)。
運動強度60%で単位時間当たりの脂肪燃焼量が最大化する=最も脂肪燃焼効率が良いということがわかる。
では実際にこれをダイエットのために、日常生活の運動に応用するとどうなるのか。
問題は、サイクリストにしろランナーにしろ、今現在の運動強度がVO2Maxの何%かをチェックしながら運動している人はまずいないということである。というのも、サイコンでもランニング用ウォッチでも、VO2Maxの割合をリアルタイムに表示する機能を備えているのは自分が知る限りでは現時点で存在しない※からである(※GarminのConnect IQとかでプログラミングすれば可能なのかもしれないが)。
エントリも長くなってしまったし、トピックも次の段階へ行くので次回エントリではそこを掘り下げてみたい。
為になる記事ありがとうございます。次回のエントリも楽しみにしています。
返信削除コメントありがとうございます。読んでいただいてるのか、響いているのかわからないのでコメントいただけるとエントリのモチベーションになります。
削除個人の感想で終わらないように、客観的な資料を元に役立つ情報をご共有していければと思いますので今後ともよろしくお願いします。