体重管理というと、ダイエットと結びつき、巷には昨今の健康ブームに乗って雨後の筍の如く様々なダイエット方法が氾濫しており、中には的外れで不健康極まりないダイエット方法まで紹介されているのは、以前「バナナダイエット、りんごダイエットの危険性」で取り上げた通りである。
一方、普遍的な原則は唯1つで、「摂取カロリー - 消費カロリー = 体重増加」である。「摂取カロリー - 消費カロリー」がプラスであれば太るし、マイナスであれば減る。至極簡単な理屈である。
ただ、そんな理屈はわかっているものの、実際に適用するにはわかりにくいし、上記の公式でさえ、カロリーの構成比次第で目指す理想の栄養摂取と大きく乖離してしまうのがカロリー神話の問題点でもあり、カロリーの構成栄養素まで分解して考えないと意味がない。例えば、消費カロリーを2,700kcalとして、摂取カロリーも2,700kcalにしたとしても、その2,700kcalを300gの飽和脂肪酸(脂質)で摂取していたら、間違いなく脂質の過剰摂取となり不健康極まりない。というわけで、その公式をもっと現実的に、有用的にするために、それこそ、パッケージ裏のNutrition Factsや栄養素表示を見て落とし込めるほどブレイクダウンしていきたいと思う。
■摂取カロリーの計算
栄養素のうちカロリーとなるのは、三大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質の3種類のみである。三大栄養素に加えて五大栄養素として挙げられるビタミンやミネラルはカロリーにはならない。そして、炭水化物は1グラムにつき4kcal、タンパク質は1グラムにつき4kcal、脂質は1グラムにつき9kcalを産出する。
以下はアメリカ食品医薬品局(FDA)にて公表されている一日の推奨栄養素摂取量(Recommended Dietary Allowances (RDA))である。
栄養素(英語) | 栄養素(日本語) | 一日の摂取栄養素 |
---|---|---|
Calories | カロリー | 2,000 kcal |
Carbohydrate | 炭水化物 | 300 g |
Protein | タンパク質 | 50 g |
Total Fat | 脂質 | 65 g |
(Saturated Fat) | (内、飽和脂肪酸) | 20 g |
一日のカロリーを2,000kcalとした場合、炭水化物は300g、タンパク質は50g、脂質(脂肪)は65gとしており、上記カロリー計算を行うと、「300g × 4kcal + 50g × 4kcal + 65g × 9kcal = 1985kcal」と、ほぼ三大栄養素の合計が総カロリーになっていることがわかる。
つまり、摂取カロリーは以下の計算式で求められる。
摂取カロリー = 炭水化物摂取量(g) × 4kcal + タンパク質摂取量(g) × 4kcal + 脂肪摂取量(g) × 9kcal
■炭水化物の摂取量
ちなみに、上記の炭水化物に注目していただきたい。炭水化物はグルコース(ブドウ糖)に分解された上でグリコーゲンを生合成し、肝臓と骨格筋(いわゆる筋肉)でそれぞれ肝グリコーゲン、筋グリコーゲンとして貯蔵される。グリコーゲン超回復やカーボローディングは、この筋グリコーゲンの貯蔵を意味しているが、筋グリコーゲンは運動時等による消費に利用されため、非運動時においては大きく変動しない。
一方で、肝グリコーゲンは通常生活において利用され、インスリンと連動して血糖値の調節といった重要な役割も担い、食事と飢餓状態によって常に増減している。そして肝臓におけるグリコーゲンの貯蔵量は約100gであるため、100g以上の炭水化物を摂取しても肝臓に貯蔵することができない。この点、筋グリコーゲンも特に不足しておらず飽和状態であれば、100gを越えた炭水化物は余剰となり、トリグリセリド(中性脂肪)を生合成して蓄えられる(平たく言うと、「太る」)。つまり、以前のエントリで「食い貯め」はできないと記載した通り、通常生活における一食の炭水化物摂取量はトレーニング後の補給を除き(後述)100gを目安にすべきであり、過剰摂取分は炭水化物であっても脂肪になってしまうのである。
この点、アメリカ食品医薬品局の炭水化物の推奨摂取量がちょうど一日で300gとなっているのが興味深い。一日三食として3分の1にすると、ちょうど肝グリコーゲンの貯蔵限界目安である100gとなるのである。つまり、上掲の推奨摂取量は、生化学的にも非常に合理的な値となっていることがわかる。
■飽和脂肪酸
また、脂質の内数である飽和脂肪酸についてわざわざ赤字で記載したのには理由があり、同じ脂質でも飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸は全く異なる働きをする。飽和脂肪酸は血清総コレステロール濃度を上昇させ、悪玉コレステロールの増加、ひいては高血圧、高脂血症、動脈硬化、虚血性心疾患の原因ともなる。一方で不飽和脂肪酸はコレステロールや中性脂肪を抑制する働きをする。
ただ、不飽和脂肪酸でもマーガリン等に使われているトランス脂肪酸は例外で、飽和脂肪酸と同じく心臓疾患の危険性を高める脂質であり、欧米諸国では法律で規制されているほどである。
アメリカ心臓協会でも、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を含む食物を、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸を含む食物に替えることを推奨しており、アメリカにおいては食品、スナック菓子等の至るところで、トランス脂肪酸を含んでいないことを明記している。
クリスピークリームドーナッツの箱
ポテトチップスの箱
一方、例外の例外として、トランス脂肪酸の中でも共役リノール酸(CLA: Conjugated linoleic acid)は全く逆の働きをし、アメリカでも規制の対象から外されている。
ちなみに共役リノール酸は肥満対策サプリメントとしても広く販売されており、脂肪の蓄積を抑制し、脂肪分解酵素であるホルモン感受性リパーゼの活性化によって脂肪燃焼を促進する働きがある。(「共役リノール酸(CLA)がエネルギー消費量および体脂肪率に及ぼす影響(代謝)」順天堂大学 スポーツ健康科学部 運動生理学研究室 2002)
��「共役リノール酸の抗肥満・抗高脂血症作用とその機序」佐賀大学農学部応用生物科学科 2003)
また、人間が生合成できない必須脂肪酸(狭義にはリノール酸およびα-リノレン酸)は、どちらも多価不飽和脂肪酸である。γ-リノレン酸(GLA)、α-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸 (EPA)、ドコサヘキサエン酸 (DHA)といったオメガ系の多価不飽和脂肪酸は意識的に不足しないように摂取していく必要がある。
一方で、魚肉を除く肉類全般、牛乳をはじめとする乳製品、スナック菓子といった動物性脂肪の大半が飽和脂肪酸であり、「牛乳は体に悪い」と言われる原因のうちの一つにもなっている。ちなみにビックマック1個で飽和脂肪酸は一日の摂取量の50%、モカコーヒーのスモールサイズで32%(アメリカのマクドナルドのメニューを基準)である。油断していると、一日どころか一食だけで一日の摂取量を簡単に越えてしまう。日常生活において、飽和脂肪酸を過剰摂取しやすいことの危険性がわかる。
ハーゲンダッツのバニラ。明治のスーパーカップ一個と同じ量(200ml)を食べると飽和脂肪酸の摂取量がほぼ100%に達する。一日ハーゲンダッツ200mlだけで過ごすわけでもないので、その日は既に大幅な脂肪摂取過多となってしまう。
ということで、今後も身近に迫る飽和脂肪酸の恐怖を紹介していきたいと思う。
■消費カロリーの計算
消費カロリーについての式は以下になる。
消費カロリー = 総エネルギー消費(熱産生) = NEAT + EAT + DIT = 基礎代謝 + 生活活動代謝 + 食事誘導性熱産生
まずNEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis)は活動に拠らない熱産生であり、日本語では基礎代謝に相当する。つまりは横になっていても生きているだけで消費するカロリーである。基礎代謝は体組成計があれば簡単に計ることができる。
体組成計がなくても、大まかな数値であれば、ハリス・ベネディクト方程式という公式によって概算することができる。ちなみに筋肉の増減が基礎代謝にほとんど影響を与えないことは以前のエントリで詳しく紹介した通りである。
男性の基礎代謝量 = 66.5 + 13.75 × 体重(kg) + 5.003 × 身長(cm) - 6.775 × 年齢
女性の基礎代謝量 = 655.1 + 9.563 × 体重(kg) + 1.850 × 身長(cm) - 4.676 × 年齢
次に、EATはExercise-Associated Thermogenesisの略で、いわゆる生活活動代謝である。生活活動代謝については、活動量計といった、活動代謝によるカロリー消費量を出してくれる機械も発売されているが、あくまで胸部等に取り付けて計測するため、商品説明にも、「自転車などでは正しい値が出ない」旨が注意書きされていたりする。自転車乗りにとっては自転車のカロリー消費が正しく出ないのは致命的である。それならむしろGarminやPolarのように、心拍数や運動強度から消費カロリーを計算してくれるものを利用した方が良いと思われる。
生活活動代謝は、3種類の熱産生の中で最もコントロール可能なものであり、運動次第で意識的に増減させることが可能である。総消費カロリーの全体の比では、基礎代謝が7割、生活活動代謝が2割、食事誘導性熱産生が1割とされているが、もちろん運動習慣によっても変わるし(ハリス・ベネディクト方程式の後掲の表を参考)、意識的に運動を行うことで大きく引き上げることができるため、ダイエットや体重管理にとっては最も重要な消費エネルギーであるといえる。
ちなみに200kmのブルベを走った際は、総走行時間は13時間17分であったが、そのときの消費カロリーは7,303kcalであった。また、2010年の新春にロングアイランドを一周したときは三日間の消費カロリーが16,641kcalに達した。筋肉量が1割増えても22kcal程度しか増えない基礎代謝とは対照的である。
最後に、DITとはDiet-induced Thermogenesisの略で、食事誘導性熱産生。つまりは食事による体内の消化活動によって消費されるカロリーである。温かい食べ物や香辛料等で消化活動を活発化させることでDITのカロリー消費を増やすことができる。
また、前掲のハリス・ベネディクト方程式で一日の総エネルギー消費を計算することができる。
目安 | 一日の消費カロリー = |
---|---|
運動なし | 基礎代謝 × 1.2 |
軽い運動(週1日~3日の運動) | 基礎代謝 × 1.375 |
中負荷の運動(週3日~5日の運動) | 基礎代謝 × 1.55 |
高負荷の運動(週6日~7日の運動) | 基礎代謝 × 1.725 |
非常に高負荷な運動(1日2回) | 基礎代謝 × 1.9 |
■摂取カロリーを逆算する
ということで、摂取カロリーの計算と、消費カロリーの計算ができるようになったわけだが、消費カロリーに合わせて自分にとっての一日の推奨摂取カロリーを計算し、把握しないといけない。なぜなら上掲したアメリカ食品医薬品局の推奨量は、あくまで一日に必要なカロリーを2,000kcalとした場合。つまり総消費カロリーが2,000kcalの人を対象としているからである。
例えば、総消費カロリーが3,000kcalの人が同じ身体状態(太りもせず、痩せもせず)を維持しようと思ったら、上掲の2,000kcalの基準を1.5倍してやる必要がある。前述した通り、カロリーは炭水化物、タンパク質、脂質から計算されるので、つまりはそれら三大栄養素の摂取量を自分の総消費カロリーに合わせて調整してやる必要がある。
この点、一般人(というと語弊があるかもしれないが、つまりは日常的に運動をしない人)は、単に自分の総消費カロリー÷2,000kcalの比率に合わせて、各栄養素の必要量を計算すればいいだろうが、アスリートの場合では特にセンシティブに計算してやる必要がある。
つまり、アスリートの総消費カロリーの構成は、一般人と違って(特に運動における)生活活動代謝が占める割合が大きくなる。つまりは筋グリコーゲンや筋タンパクの消費が激しいため、栄養素もそれに対応した構成での摂取が必要となる。さらに、基本的にアスリートは骨格筋量を増やし、脂肪を減らすことでパフォーマンスを向上させるため、その目的に適合した栄養素摂取をしなければならない。
骨格筋は主にタンパク質で構成されている一方で、運動のエネルギー源は糖(炭水化物)である。また、筋グリコーゲンによる枯渇を速やかに補い、糖不足による筋タンパクの分解(糖新生)を抑制するためにも十分な炭水化物が必要である。さらに、トレーニング後に炭水化物とタンパク質(プロテイン)を併せて採ることで、炭水化物のみ、タンパク質のみを摂取するよりも筋グリコーゲンの貯蓄、筋タンパクの合成も促進されることがわかっている。
��"Carbohydrate-protein complex increases the rate of muscle glycogen storage after exercise" テキサス大学 1991)
ということで、まずはタンパク質を最優先にし、トレーニング後と併せて上限を超えない範囲で炭水化物を考えることになる。
タンパク質の摂取量は、アスリートであれば除脂肪体重 × 2が目安となるので、例えば体組成計で体重64.71kg、体脂肪率が15%であった場合は、64.71 × 85% × 2 = 110で、タンパク質摂取量の目安は110gということになる。この人の総摂取カロリー目安が3,000kcalであれば、タンパク質によって110g × 4kcal = 440kcalが占められるため、残りの2,560kcalを、炭水化物と脂肪で補うこととなる。
この点、1グラムあたりのカロリーが9kcalと高い脂肪は、摂取してしまいやすい栄養素である一方で、一般的に言われるダイエットの目的が脂肪を落とすことにあること、ツール・ド・フランスに出場するプロロードレーサーの体脂肪率は4%~6%であることからも、脂肪をいかにコントロールするかが重要であることがわかる。
一方で、高血圧を防ぎ高脂血症を予防する働きを持つ、必須脂肪酸に代表される不飽和脂肪酸は必要量を積極的に摂取するべきである。つまり、上記でも項目を設けて詳しく述べたが、脂肪の中でも要注意なのが飽和脂肪酸ということになる。
とはいえ、全てにおいて注意しなければならない絶対防衛ラインは「総摂取カロリーのコントロール」である。脂肪を全く摂取しなかったとしても、炭水化物とタンパク質の合計カロリーが総消費カロリーを越えてしまっては意味がない。炭水化物であろうと、タンパク質であろうと、余剰分は最終的にはトリグリセリド(中性脂肪)に生合成されて貯えられてしまうということを忘れてはならない。
ちなみに、炭水化物はトレーニング後の摂取で骨格筋の合成促進、筋グリコーゲンの貯蓄を促してくれる重要栄養素である一方で、体内の炭水化物貯蔵量には限界があり、それ以上の過剰摂取は脂肪となる。この点、カロリーを構成する三大栄養素で摂取量が最も多いのは炭水化物であるため、油断していると脂質同様簡単に上限を超えて脂肪になってしまう。
炭水化物は主食を構成する栄養素だけあって基本的に摂取量が多い。冒頭の一日の摂取栄養素を見て頂くとわかるが、三大栄養素といいつつ、炭水化物だけで一日の摂取カロリー目安の60%を占めている。一日普通に生活してても脂肪178g(=1,600kcal)、タンパク質400g(=1,600kcal)を摂取することはまずないであろうが、炭水化物400g(=1,600kcal)は簡単に超えてしまう量である。ラーメンライスやお好み焼きにご飯など、炭水化物過剰摂取の危険性を認識しておく必要があるといえよう。
0 件のコメント :
コメントを投稿