ロードバイクの生化学:知恵袋の功罪

最近、検索をするとQ&A系のサイトをよく見かけるようになった。

ところが、正しい知識を持っていない人でも回答できる上、専門家による第三者チェックも行われていないので、明らかに間違いだったり、的外れな答えが“ベストアンサー”になってしまっているケースもある。回答が締め切られた後は、その“ベストアンサー”が検索、閲覧され、その内容を信じてしまう人も多いのではないだろうか。ということで、焼け石に水であるかもしれないが、あるQ&Aについて記載したいと思う。

元のページはこちらであるが、質問は以下の通り。

豆乳の成分についての質問です。

牛乳は「ラクトース」という多糖類からできていて、日本人はそれを消化する酵素を持たないので、牛乳を飲みすぎるとおなかの調子が悪くなると聞いたことがあります。

豆乳も同じようにラクトースからできていて、飲みすぎるとお腹をこわしてしまうのでしょうか?

そして“ベストアンサー”がこちら。

豆乳の主成分はたんぱく質。8種類全ての必須アミノ酸を含んでいます。おなかはこわしません。(抜粋)



■的外れと誤りを含む“ベストアンサー”

まず、質問者は炭水化物の種類(牛乳の場合、ラクトース)について質問しているのに、回答者は豆乳の炭水化物ではなく、豆乳のタンパク質にしか言及していない。つまり全体的に回答は的外れである。例えて言うなら、「醤油ラーメンと豚骨ラーメンでは、どちらが塩分が多いですか?」と質問されて、「豚骨の方が脂っこいです。」と回答しているようなものである。

ちなみに文部科学省の日本食品標準成分表2010で公表されている、可食部100gあたりの成分表では、豆乳100gのうち、9割以上の90.8gは水分である。水分以外ではタンパク質が3.2~3.6g、炭水化物が3.1g、脂質が2.0gである。水分を除くと、タンパク質は全体の35%ほどなので主成分と言い切れるかどうかは微妙であるが、とりあえず一番多い栄養素ではある。

「おなかはこわしません」とあるが、豆乳でお腹をこわす人も多い。それはラクトースの消化酵素であるラクターゼ不足に起因する牛乳の乳糖不耐症とは違い、マグネシウムの過剰摂取によるものと、豊富な食物繊維によるものである。原因は違えど「おなかはこわしません」と言い切るのは誤りであり、少なくともお腹をこわす可能性のある前述した要因を記載すべきであろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%B3%E7%B3%96%E4%B8%8D%E8%80%90%E7%97%87

後掲するが、牛乳と豆乳は、タンパク質の種類は違えど、タンパク質の量はほぼ一緒であり、どちらも必須アミノ酸を全て含み、アミノ酸スコアも100である。よって「8種類全ての必須アミノ酸を含んでいます。」云々の記載も、牛乳との比較として豆乳の優位性を示す根拠にはならない。ちなみにタンパク質(Protein)の成分比較をするのであれば、牛乳はカゼインプロテインとホエイプロテイン、豆乳はソイプロテインであり、どちらもアミノ酸スコアは100であるが消化吸収効率に差がある。


■では正しいベストアンサーは…

以下が質問者の質問に回答する上での牛乳と豆乳の比較の表である。100gあたりの栄養素量は上記と同じく文部科学省の「日本食品標準成分表2010」から引用している。

項目牛乳豆乳
炭水化物種別ラクトーススクロース
腹痛の原因ラクターゼ不足マグネシウム、食物繊維の過剰摂取
タンパク質ホエイ、カゼインソイ
100gあたりのタンパク質量※3.2~3.6g3.2~3.6g
アミノ酸スコア100100
100gあたりの食物繊維量※0g0.4~0.6g
100gあたりのマグネシウム量※10~13mg19~25mg
※生乳、普通牛乳、豆乳、調整豆乳等でばらつきがある。

そして、「豆乳も同じようにラクトースからできていて、飲みすぎるとお腹をこわしてしまうのでしょうか?」の質問に対する直接の回答はこう記載すべきである。

豆乳の炭水化物を構成している多糖類(正確には二糖類)はスクロースであって、一般的に日本人はスクロースを分解する消化酵素であるスクラーゼを持っているので、スクロースを摂取することによってお腹をこわす可能性は低いです。一方で、豆乳はマグネシウム、食物繊維を多く含むため、それらの過剰摂取によってお腹をこわすことがあります。お腹をこわすこわさないは体質によって異なるので、まずは豆乳がご自分の体に合うか試してみることをおすすめします。」

ということで久々に生化学分野のエントリであったが、玉石混交の情報が氾濫するネットの功罪を垣間見た内容であった。


0 件のコメント :

コメントを投稿