ロードバイクの生化学:基礎代謝とダイエットに関する誤解と嘘とデタラメ

以前取り上げた「超回復の嘘とデタラメ」に続き、まことしやかにそれらしく聞こえるデタラメが信じられてしまい氾濫している状態があるので、当ブログではできるだけ信頼できるソースから正しい情報を発信していければと思う次第である。

というわけで今回取り上げるのは、基礎代謝=ダイエットに重要という間違ったイメージである。

基礎代謝に関するデタラメ


筋肉をつけて基礎代謝を上げること=健康的なダイエットを成功させるコツという誤解があるが、実際のところ筋肉による基礎代謝の影響は限定的で、基礎代謝が増えても減ってもダイエットにはほとんど関係しない

ちなみにネットで「筋肉 基礎代謝 パーセント」などで検索してみると、筋肉が基礎代謝に占める割合が、60%だったり、40%だったりと好き勝手に書かれており、概して「筋肉は基礎代謝の多くを占めるので筋肉を付けるのがダイエットに重要」という論調であることがわかる。

研究機関による発表内容


この点、ロンドン大学の自然人類学者であるLeslie C. Aiello教授らによる論文「The Expensive-Tissue Hypothesis: The Brain and the Digestive System in Human and Primate Evolution」より以下引用する。ちなみにこの表の根拠となっている元の論文は、1971年にドイツのミュンヘンで発表された「Energiehaushalt und Temperaturregulation」からである。

Organが器官(臓器)で、一番右の列の「% Total Body BMR」が、その器官の基礎代謝(BMR。Basal Metabolic Rate)全体に占める割合を表している。



上記表を見ていただくとわかるが、基礎代謝を構成している大部分は筋肉※以外の臓器であり、基礎代謝のうち、筋肉が消費するのは15%に満たないことがわかる。

※ちなみにここで言う「筋肉」とは骨格筋(Skeletal Muscle)のことを表している。筋肉には、骨格筋と心筋、内臓筋があるが、運動や筋肉トレーニングで鍛える筋肉とは骨格筋のことであり、そもそも心筋と内臓筋は不随意筋(意識して動かせない筋肉)であるので、ここでは骨格筋のことを「筋肉」と表現する。

この基礎代謝の事実は、基礎代謝を上げる目的で筋肉をつけてもダイエットには役立たないことを表している。

筋肉が基礎代謝に及ぼす具体例


例えば、一般的な成人男性の基礎代謝とされる1,500kcalで考える場合、もし筋肉が一割増えたとしても基礎代謝の増加は22kcalほど(1,500kcal×14.9%(筋肉全体の基礎代謝割合)×10%)である。マクドナルドのチキンマックナゲットが4個で190kcalなので、チキンマックナゲット一個の半分にも満たないことになる。







実際に体組成系で計測したことがある方はわかると思うが、筋肉なんて一割(10%)増やすのだって至難の業なので、筋肉の基礎代謝アップによるカロリー消費増加はまったく期待できないことがわかる。

実際、(不健康だったときの恥を忍んで公開すると)以下は私の2010年における体重、体脂肪率、筋肉量の推移をグラフ化したものである。体重は体脂肪に比例して下がっており、脂肪を中心に減らすダイエットができていることがわかると思うが、筋肉量に至っては10%どころか2%ほどしか増減していない。秋以降は毎日ペダルを回しており月間走行距離も1,000kmを越えているのにもかかわらず、である。

つまり、筋肉を増やして基礎代謝をアップするというのがどれほど非現実的かがわかっていただけると思う。



Wikipediaの例


ちなみに日本のWikipediaの「基礎代謝」項目(2011年3月30日時点)では、曖昧な記述をすることで上手い書き方(逃げ方?)をしている。曰く、(基礎代謝の)「消費量は骨格筋、肝臓、脳が半分以上を占める。」とのことである。上掲の研究論文によると骨格筋14.9%、肝臓18.9%、脳16.1%で合計49.9%になるので(研究結果や個々人によって誤差があることを考えれば)確かにほぼ半分で間違いではない。

一方、英語版の「Basal metabolic rate」の項目は記述も豊富で、もちろん基礎代謝の詳細も記載されており、筋肉は18%と表示されている。

ためしてガッテンの例


また、基礎代謝の誤解については「ためしてガッテン」の「決定版!こんな簡単にやせちゃいましたSP 太め vs. やせで基礎代謝」の回(2011年1月5日放送)でも取り上げられたことがあるようなので併せて紹介したい。

基本的にいわゆる「健康バラエティー番組」は、あくまでバラエティー番組であって健康番組ではないので信頼性を十分吟味する必要があるのだが、この回では、国立健康・栄養研究所で基礎代謝が測定されており、二重盲検法が求められる試薬投与前後の比較等と違ってプラセボ効果による影響もないためここに紹介する。

ためしてガッテンの調査によれば、基礎代謝の占める割合のうち、脳は19.9%、心臓、肝臓等(つまり脳、筋肉以外の臓器)が58.5%、筋肉が21.6%で、前掲の論文内容と似た比率になっていることがわかる。

ためしてガッテンでは、基礎代謝がダイエットのキーになるわけではなく、基礎代謝より活動代謝の方が大事と結ばれている。

ちなみに、特筆すべきは、ためしてガッテンで今年になって放送された「”基礎代謝UPで太らない”の秘密」の「秘密」が、上掲のようにドイツのミュンヘンでは既に1971年に発表されていたということであろう。

総括


ということで、基礎代謝とダイエット、基礎代謝と筋肉の関連の無さを見てきたわけだが、決して「基礎代謝に筋肉は関係ないので、運動しなくてもいい」といっているわけではないので注意していただきたい。

ロードバイクでレースに出るような場合や、他のスポーツをしている人はもちろんのこと、スポーツをしていない人にとっても運動は必須である。

筋肉は単に基礎代謝による消費カロリーの問題ではなく、運動不足は血中脂質を高め、糖尿病、高血圧症、高脂血症の原因にもなる。生活習慣病の治療方法として運動療法があることからも運動の重要性はわかっていただけると思う

また、基礎代謝ではなく活動代謝を高めるためには体を動かすことが重要であり、基礎代謝に関係はなくても、活動代謝を高めるための運動が、結果として筋肉の維持、増加につながるのである。

つまり、基礎代謝うんぬんにとらわれず、毎日健康的に体を動かすことが大事ということである。

4 件のコメント :

  1. 初めまして。僕は関東在住の40代男性です。(現在177cm、75kg。)時々ですが楽しくブログを拝見させていただいています。
    僕は2011年の東日本大震災以来、自転車通勤(片道約14km)を継続中で、2012年にはブルベにも挑戦し、200、300、400、600kmをクリアしてスーパーランドナーにもなれました。(今年からはトライアスロンに挑戦しようと思っています。)
    初心者ロードレーサーさんのブログは科学的情報が多く、大変参考になります。
    僕は大学で有機化学を専攻したため、生化学・栄養学については少し頑張って調べれば大凡の内容が理解でき、楽しませていただいています。
    今日は、同じ自転車乗りとしてダイエットに腐心されている様子を書いたページを初めて拝見し、他人事では無いと思い、コメントさせていただきます。
    最近僕が実践しているダイエット法として、日本でちょっとしたブームとなっている”糖質制限ダイエット”があります。私は成長期を肥満気味で過ごし、失ったものが多く、この年になっても痩せるということに関心を持っているんですが、この方法論はなかなかよさそうだと思っています。
    まずは影響された書籍の紹介です。
    『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』 (光文社新書) [新書]夏井 睦 (著)、
    『腹いっぱい食べて楽々痩せる「満腹ダイエット」 肉を食べても酒を飲んでも運動しなくても確実に痩せる! 』(ソフトバンク新書) [新書]
    江部 康二 (著)、の2冊および江部さんのブログhttp://koujiebe.blog95.fc2.com/
    に影響されました。
    私の最近のダイエット遍歴を紹介しますと、
    1)震災後の年(2011年4月~12月);体脂肪率20%→8%程度。この間のダイエット法はカロリーコントロール(1800kcal/day)と禁酒。
    2)2012年1月~2013年10月;低脂肪食(カロリーコントロール無し)、禁酒、簡単な筋トレ(週3)、水泳(週4)。体脂肪率10%キープ。
    3)2013年11月~現在;糖質制限(3食とも糖質無し、菓子の糖質はどら焼き・大福・羊羹・きんつばなど低脂質のものだけ1日1個くらい、トレーニング直前だけはおにぎり1,2個程度)、カロリーコントロール無し、蒸留酒のみ(週1)、やや厳しい筋トレ(週3)、水泳(週2)、体脂肪率10%キープ
    といったところなのですが、この中で、どうやら3)の糖質制限が非常に体の調子(気分)がいいのです。
    この方法論は米国における糖尿病予防研究から発展しており、脂質では無く糖質の摂取過多こそが肥満の原因であるという医学的根拠に基づいているとされており、僕自身もダイエット法として有用だという点は納得しております。ただスポーツ愛好家がやるべきものなのかどうかが解りかねております。
    ご紹介の著作かブログhttp://koujiebe.blog95.fc2.com/を読まれてみて、アマチュアスポーツ愛好家の糖質制限の是非について、ご意見を頂ければと思います。
    現在の僕の場合、前述3)の通りジムやプールに行く前におにぎりを1、2個食べるのですが、上記の1)、2)の時期は低脂質という理由でおにぎりやドラ焼きなどの和菓子を合計で600kcal/dayくらい食べていました。
    そういうわけで基本的に3)における食生活はそれ以前と比べて随分と高脂質・低糖質になっています。
    初心者ロードレーサーさんの文章を読んでいるかぎり、糖質をケアして脂肪を抑えるという発想がないという印象を受けております。バランスのよい糖質制限を実行すると、さらに体重を抑えられて自転車競技に寄与するところがあるかと思いコメントさせていただきました。勘違いでしたらお許しください。

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  2. 初心者ロードレーサー2014年2月11日 3:45

    初めまして。コメントありがとうございます。
    せっかく素晴らしい提案をしていただきましたので、一通りまとめてからブログの本エントリにて取り上げさせていただこうと思います。
    詳細はそちらで取り上げさせていただくとして、ダイエットについて簡単に言いますと、
     ・カロリー制限は必須
     ・カロリー制限とはすなわち炭水化物制限に他ならない
     ・よって炭水化物制限は必須
    です。
    ちなみに藤枝梅安さんのダイエット法を見ますと、(1)が体脂肪率20%→8%程度、(2)が体脂肪率10%のまま変化なし、(3)が体脂肪率10%のまま変化なしということで、数値結果では(1)のカロリー制限と禁酒が最も効果が出ていたのかと思います。
    もちろん食事以外にも運動や日常生活にも左右される上、減量効果は低減していくものなので一概には言えませんが、177cmかつ75kgということはBMIでは23.9で標準範囲の上限ギリギリですのでもっと絞ることも可能かと思います。一方で、体脂肪率は10%で標準範囲を逸脱してますのでかなり筋肉質な方なのだと思います。
    上記で「逸脱」という言葉を敢えて使わせていただいた理由は、アマチュアスポーツ愛好家にとっては「どこを目指すか」によって目標とするもの、適するものは異なるので、ある人にとっての「理想」が、別の人にとっては「異常」になるからです。レースで上位入賞するために健康や食事を犠牲にするのをコミットしている場合はそれこそヒルクライムでいえば4~6%くらいの体脂肪率が理想ですが、スポーツのやり過ぎは不健康以外のなにものでもないので、健康が一番の目的でダイエット&スポーツをやっているのであればむしろ体脂肪率は40代なら標準値の18~22%あたりでキープするのを目指すべきだと思います。
    ということでコメント欄で簡単に済ませるには勿体ないトピックですので、詳しくは別途掲載させていただきますエントリをお待ちいただければと思います。

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  3. 初心者ロードレーサーさん
    何が目的の食事制限かというのは非常に重要ですね。今の僕の場合は、
    1.健康
    2.完走のみを目指す長距離競技(マラソン、オープンウォータースイミング、トライアスロン)
    3.フリースタイルフットボール
    です。
    糖質制限はカロリー制限よりも多少減量効果が落ちるかの様に受け取っておられるかと思いますが、お伝えしようとしたニュアンスは全く逆で、好きな物(平たく言えば脂質を多く含むもの)をたくさん食べ、時々飲酒(蒸留酒)しながらもこれほどの大きな効果があるということなんです。(僕自身は会社の飲み会以外は禁酒ですが・・・・)
    要するに心理的負担の小さい割には効果が大きいのでお勧めできるという次第です。
    自転車通勤をする前は体脂肪率は20%で健康診断では高脂血漿、高コレステロールなど散々なもので、医者からは脂肪率を下げる様に勧められ、健康上の不安を抱える毎日でした。
    現在の糖質制限はカロリー制限よりも遥かに気分的に身体的に楽ですので、なかなかよいかと思います。
    人類が生物分岐した700万年前から農業開始の1万2千年前までは、人類は穀類(ブドウ糖)は殆ど食べていなかったことや
    血管を傷つけるブドウ糖からの防御機能としてインスリン分泌しか持たないという点も、健康上考慮すべき点かと思います。
    http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-category-20.html
    (引用始)
    さて、次にインスリンは二重三重の肥満ホルモンということを説明します。
    脂肪細胞の周囲の毛細血管壁にあるLPL(リポタンパクリパーゼ)が活発になると、血中の中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセロールに分解して、遊離脂肪酸を脂肪細胞内に取り込み中性脂肪に合成して蓄え太っていきます。
    インスリンは脂肪細胞の周囲の毛細血管壁にあるLPLを活性化させるので、脂肪細胞内に中性脂肪を蓄える方向に働きます。
    これに対してHSL(ホルモン感受性リパーゼ)は脂肪細胞内にあって、中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセロールに分解して血中に放出させる作用があります。
    まとめると、脂肪細胞の周囲の毛細血管壁にあるLPLは内部に中性脂肪を蓄えて太らせる働きがあり、脂肪細胞内のHSLは逆に内部の中性脂肪を分解して血中に放出させ、やせさせる働きがあります。
    インスリンはLPLを活性化させ、HSLを抑制するので、インスリンが分泌されると太りやすいのです。
    さらにインスリンは、GLUT4を介して余剰の血糖を脂肪細胞内に取り込み、中性脂肪に合成して蓄えます。
    このように二重三重の肥満ホルモンがインスリンなのです。
    インスリン注射をしている糖尿病患者はしばしば太ります。
    『ジョスリン糖尿病学』には
    「食物摂取とは無関係の、インスリンの脂肪組織への直接的な脂肪生成効果」
    と説明されています。
    ハーバード大学医学部元教授、ジョージ・ケーヒルは
    「脂肪を操るインスリンを、炭水化物(糖質)が操る」
    と述べています。
    肥満のメカニズムは、インスリンによる脂肪蓄積であり、その血中濃度と総量が関係します。
    そしてインスリンを大量に分泌させるのは糖質のみです。
    基礎代謝が高い人とインスリンの効きが非常にいい人を例外として、結局、糖質の頻回・過剰摂取とそれによるインスリンの頻回・過剰分泌が肥満の元凶と思います。
    (引用終)
    以下は何を持って逸脱とするかの話に該当する部分です。
    1日で3食、米を食べる習慣は日本人の場合、江戸時代の明暦大火の復旧工事に従事した大工等肉体労働者の要求から始まったそうです。その時代の職人ですから機械も無く相当な運動量だったと推測されますので、私の様に会社で1日中椅子に座って仕事をするような人間はよほど運動をしない限りバランスが取れないことになるだろうと思われます。(定量的な説明ができるとよいのですが・・・・)
    原始時代あるいは江戸時代と現代では環境条件が違いますので、人類の長年の営みに沿うばかりがいいとは思いません。しかし、農業の目的が嗜好性(穀類でんぷんの口当たりの甘さ)にあるという仮説があって、これが真ならば現代人は糖質を食べ過ぎているかもしれません。

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