マイク・シンヤードの手紙と自転車業界裏事情

皆様、2011年は大変お世話になりました。

日本ではもう明けているが、ニューヨークはまだ31日。

せっかくだからゆっくり綴る大晦日のエントリにでもしたいなぁと思っていたが、自転車業界は激動の真っ最中。

折しも今週火曜日の12月27日、マイク・シンヤードから全米のサイクルショップへ注意喚起メールが発信された

ちなみに、マイク・シンヤードについてはS-WORKSやTarmacで知られるSpecialized(Specialized Bicycle Compornents)の社長兼創業者とご紹介すればわかっていただけると思う。


手紙の内容は、Amazonによるスマートフォン向けの新アプリ「Price Check by Amazon」について。

このアプリでは、実際の店舗で商品のバーコードをスキャンすることで、その場でAmazonの金額と比較して注文できる。



ぶっちゃけ、皆さんの中にも、店舗で実物をチェックしたけど、結局後からオンラインで注文したという経験がある方もいらっしゃると思う。それ自体は消費者の賢い購買行動であるし純粋な市場原理によるものであるが、今回のアプリは少なくとも実店舗側から見れば、Amazon自身が積極的にその行為を勧めるアプリを出しているだけにえげつない

自由競争社会である以上、価格競争が起こって安く商品が手に入るのは消費者にとってはありがたいが、このアプリはいわば、「実物を手にとって触ってみてもらう」という手間、コストを実店舗側に押しつけていいとこ取りをする刈田狼藉的な手法に思える。

実店舗としては、実際に手にとって、確かめてから買ってもらえるというメリットを提供しているからこそ、高いコストで土地を確保して店を出し、商品在庫を揃えて陳列しているのである。ところがその利益をAmazonに持って行かれてはやっていけなくなるという問題がこの背景にはある。


現在自転車業界で大きくなっている問題は、実店舗とオンラインショップによる競争である。そして、一部のメーカーは、メーカー自体がAmazonといった巨大オンラインショップに直接卸して中間マージンを抜いて利益を得る構造もできてきている。シンヤードは手紙でこう述べている。

Who loses in this situation? Certainly not Amazon. And - at least in the short term - not the cycling brands selling through bike shops and Amazon. But what about you?


シンヤードによれば、Pearl Izumi、Shimano、Louis Garneau、Giro、Bell、Fizik、Sidi、CatEyeが既にこのAmazonのプログラムに「参加」しているらしい。

その皮肉も込めてか※、Bellのヘルメットを試着しに来た客が店員に隠れてバーコードスキャンしてAmazonで注文するビデオをSpecializedが作成して公開している。(※Specialized Bicycle CompornentsとEaston-Bell Sportsは裁判沙汰もあったりで犬猿の仲)



逆にSpecialized側の狙いとしては、CatEyeやBellのような実店舗軽視型のメーカーとは逆の姿勢を取ることで、実店舗にSpecializedの取り扱いを増やしてもらうことで、オフラインでのメリットを得ることを考えているのであろう。実際、店舗で大きく取り扱われているメーカーは印象にも残るし、そういえばTrekもそのスタンスなのか、オンライン専門ショップではBontragerのホイールを見ることもない(実店舗のウェブサイトでは紹介されているが)。

シンヤードは、Amazonが自転車業界を成長の見込める市場として注目しており、自転車業界から人材を引き抜いていると警告を発している。

これは、先月Specializedを辞めてAmazonに転職した※自転車用品専門のシニア・ベンダー・マネージャーの一件を差していると思われる。(※実際には1月9日からAmazonで仕事を開始)


大晦日だというのにアメリカの自転車業界は荒れている。

まさにオンラインショップ対実店舗ショップの激突が起こっており、各メーカーがそれぞれの陣営に付く形となっている。


1 件のコメント :

  1. 初心者ロードレーサー2012年1月4日 0:42

    コメントありがとうございました。
    ここを訪れて頂いている他の方の参考にもなればと思うので、頂いた内容を公開しない範囲でコメントさせていただければと思います。
    WiggleやProBikeKit、Chain Reaction Cyclesといった大手オンライン専門ショップを見ると、品揃えにも偏りがありますよね。ホイールも、フレームも、出しているところと出さないところがあり、ショップだけでなくメーカー側の姿勢も見えてくる気がします。
    私自身、ネットで買うこともありますが、例えばよく言われるように、自転車本体はポジション出しやメンテナンスなどのアフターサービスが大事なので実店舗で買うべきだなど、どうしてもオンラインショップでは勝てない部分が実店舗にはあると思います。
    購入後の問い合わせにしても、Wiggleとメールの文面だけでやりとりするのと、実際に買った店に行って、ショップ店員とFace to Faceで話すのとは随分違いますし。少なくともエントリ内のビデオのように、サイズだけ確認してAmazonで買うようなことをしていたらショップとの信頼構築は無理だと思います。一消費者の立場としては、そういったアフターサービスを含めた(単に購入時の金額だけではない)トータルコストで考えたいところです。

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