日本では今月31日から順次公開されるとのことなので、ここではストーリーの内容には詳しく触れずにご紹介したいと思う。
まず原題はフランス語。
作中でもフランス語でやり取りが行われている。
ということはベルギーはベルギーでもフランダース地域ではなくワロン地域かと思って見ていると…。
ワロン地域で運行されているTECのバスが。
それもそのはず、監督のダルデンヌ兄弟はリエージュ州出身で、住民の8割が解雇されたという経済危機時代の経験が作品にも反映されているらしい。ということでワロン地域さもありなんといったところである。
ちなみにベルギーではオランダ語(フラマン語)のフランダース地域とフランス語(ワロン語)のワロン地域に分かれており、ぶっちゃけワロン地域の方が経済環境が悪く社会問題も多い。そういえば、昨年末に起こったベルギーの無差別テロもワロン地域のリエージュであった。
内容としては、親に捨てられた少年シリルと週末だけの里親サマンサとの絆を描いた人間ドラマ。
そのサマンサとシリルを最初に結びつけたのが自転車であった。
といってもタイトルとはうって変わって、本編での自転車はあくまで脇役。
この点、全編に渡って自転車を中心に話が進んでいく十七歲的單車(Beijing Bicycle。邦題は「北京の自転車」)とは趣を異にする。
ストーリーも起承転結があるようでなく、以前ご紹介したベルヴィル・ランデブーと比べると盛り上がり感に欠ける。が、ダルデンヌ監督は社会ドキュメンタリーを撮ってきたこともあり、盛り上がりを求める映画ではなく、「現実にあるストーリーを切り取ったもの」として観れば違和感はない。
とはいえ、冒頭で触れたとおり、監督の故郷であるリエージュ州のセランでは8割が解雇された経済危機を乗り越えており、映画を地で行くような、もっと悲惨なストーリーやもっと愛溢れたストーリーが現実にはいくらでもありそうである。
なにはともあれ、自転車というタイトルに気を止めて観る人(自分くらいか?)は要注意である。自転車は一所にじっとしていられない情緒不安定なシリルの心を反映したメタファーでしかない。
映画の主題を一言で言えば、「情緒不安定な少年と忍耐強く優しく包み込む里親との絆構築物語」であり、自転車が本編にほとんど関係ないため、むしろ「少年と里親」というタイトルの方がピッタリとくる。
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