物欲紹介:パイオニアのペダリングモニターもといパワーメーターがアメリカで普及していないワケ
この点、上記のエントリでは海外のネガティブな反応をご紹介したが、自分的にはそれでも以下の点からSGY-PM910Hは買いだと思っている。
■1.ペダリング分析
パイオニアのパワーメーターを他のパワーメーターと差別化させる唯一かつ最大のポイントがペダリング分析機能である。
これまでも左右のペダリングバランスを表示するものといったものはあったが、30度ごとのトルクのベクトルを図示できる機能があるのはパイオニアのSGY-PM910Hのみ。
逆にこれがなかったら、もっと安くて普及していて信頼性の高いパワーメーターが他にもあるのでパイオニアのメリットは少なくなる。
この点、BikeRaderがSGY-PM900で5点満点中2点の評価をつけたのも、このペダリング分析で「彼らのテストでは」問題があったわけで、逆にパワーメーターとして見た場合にSRM※やGarmin Vectorにほぼ満点(4.5点)がつけられているのもパワーメーターとして見た場合の差を表しているのだろう(※パイオニアは誤差±2%に対し、SRMでは誤差±1%、1秒間に4回ものデータをヘッドユニットに送信できるため純粋なパワーメーターとしての機能では他より一歩進んでいる)。
換言すれば、ペダリング分析のニーズがある限り、他のパワーメーターのスペックではそのニーズを満たすことができず、パイオニアのパワーメーターはペダリングモニターとして最有力の候補になる。
■2.ポータビリティ
一方、ペダリング分析だけであれば、シマノのDynamic FitなどパイオニアのSGY-PM910Hよりも詳細な分析ができるものがある。
CompuTrainerのSpinScanもDynamic Fitやパイオニアのペダリングモニターが発表されるずっと前からペダリングのトルク分布を分析する機能がある(自分としてはCompuTrainerについてはその測定方式からはっきりいって信用していないが)。
しかし、ポータビリティ(可搬性)を持つのはSGY-PM910Hのみである。
Dynamic Fitは機能的には群を抜いているのだが、ローカルバイクショップでのみの取り扱いとなるため実店舗まで足を運ばねばならず、自分のスケジュールに合わせていつでもどこでも分析することができない。
CompuTrainerは固定ローラーなので自宅でのインドアトレーニングでは確認できるが、固定ローラーである以上実走では使うことができない。そして前述の通り、CompuTrainerの機能はかなり眉唾※だと思っているので、敢えて歯に衣着せず言うと、そもそも比較対象としては失格に近い。
※パワーセンサーはタイヤに接しているローラー回転部分のみ、ケイデンスセンサーは通常の一箇所のみで明らかに分析の元データとなる物理的な情報量が足りない。それなのに15度ずつのトルク分布などを「解析」できているということは、左右ペダリングや360度の分布などの大半をロジック(予め決められた係数等を使った予測)に頼っていると思われる。パワーメーターでいうなら、ひずみを利用するような直接計測式ではなく、iBikeのようにスピードや風速から予測表示しているようなものである。
■3.室内と実走でのペダリング差異分析
ということで、ポータビリティがあることがSGY-PM910Hをさらにオンリーワンにしている理由なのではあるが、ではなぜポータビリティが重要なのであろうか。
そもそも実走中はモニターをじっくり見ている余裕など無い(危ない上、集団走行であれば他のライダーの迷惑にもなる)ので、室内で分析できれば十分という意見もある。
しかし、実際には、室内トレーニングでのペダリングと実走でのペダリングは一致しない。
ローラーと実走を交互にトレーニングしたことがある方にとっては釈迦に説法になってしまうが、室内と実走ではペダリング感覚が変わる。固定ローラーでも三本ローラーでも、ローラーでは一定の負荷が続き、負荷の調整やギアを変えても一定の幅でデジタル状(階段状)に負荷が変わるに過ぎない。一方で実走では風も傾斜も常に変動しており、それに合わせてペダルにかかる負荷もアナログ状に変化していく。
さらに大きく変わるファクターがモメンタム。いわゆるモメンタムを利用した「リズムに乗った」状態や、斜面での重力や回転体が及ぼす車体、ペダリングへの影響などは実走ならではのものである。
■4.レースでのペダリング差異分析
ローラーと実走でのペダリングの違いは前段の通りだが、さらに実走でも特に分析をしたいものがレースである。
ローラーと実走でペダリングが違うように、実走でもトレーニングライドとレースでは意識も環境もシチュエーションも変わってくる。
実際にレースを走った経験がある人ならわかると思うが、レースのログとトレーニングのログを比べると、心拍やケイデンス、パワー出力なども普段と違う傾向になることが多い。
この点、間違えてはならないのは、ペダリング分析をするのは、室内ローラーでのペダリング効率を高めるためではなく、実走の、しかもレースでのペダリング効率を高めるためである。
レースなど他者と競争しながら本当に追い込んでいるとき(=ペダリングよりライバルやコースに意識が注がれているとき)にどの程度効率の高いペダリングができているかを分析するためには、据え置き型のものではなく、実走でのログ取得が可能なSGY-PM910Hでなくてはいけない。
■5.ペダリング効率
最後に、前回大きく取り上げた通り、そもそもペダリング効率という指標自体がトータルな効率を表していないという問題点がある。
重複してしまうが、重要なところであるので再度前回記載した内容を以下掲載したい。
米国内のレビューや感想を見ると、そもそもパイオニアのパワーメーターが売りにしている「ペダリング効率」について疑問が呈されている。
これについては自分も同意するところで、あくまでも目的は速く走ることであって、ペダリング効率を高くすることではない。
ではペダリング効率を高くすることが、速く走る目的のための手段となるかというと、必ずしもそうとはいえない。
ペダリング効率とはあくまでクランクにかかるトルクのベクトルから割り出している機械的な効率だけであって、人間の体の使い方についての効率ではないからである。
たとえばエアロポジション。
空気抵抗的に最も効率的なポジションでは、オブリーがやっていたように、腕をできるだけ畳むか真っ直ぐに伸ばし、背筋はまっすぐ、できるだけ前面投影面積を小さくするようにする。
一方で、空気抵抗削減を追及しすぎると、逆に不安定な体勢となってペダリングがしにくくなり、肝心のエンジンの性能を下げてしまう。これが「空気抵抗的に最も効率的なポジション」=「速く走る上での最も効率的なポジション」にならないポイントである。
前者が物理的な効率だとすれば、後者は人間工学も含めた最終的な効率であり、パイオニアのパワーメーターがカバーしているのは前者のみである。
そして世の中に楕円チェーンリングなるものがあるのも、前者の効率が後者の効率とは似て非なるものであるからに他ならない。
手段と目的を履き違えてはならず、決してペダリング効率の数値を上げることが目的になってはならない。
ペダリング効率を高めた結果、力を出しにくいフォームになってトータル出力が落ちては意味が無い。
ペダリング効率改善を通してより速くゴールまで辿り着くことが目的であり、すなわち、より高い出力をより少ない労力で出せるようになることである。
一方で、ペダリング効率の数字だけを頼りにするのは危険だが、ペダリング効率が物理的な効率でしかなく、エンジンも含めたトータル効率ではないことを理解した上で利用する分には大いに役立つ。
情報に惑わされず、必要なデータを整理して分析できるという前提の限りにおいては、定量的に分析できる指標は多ければ多いよい。
ということで、上記の要件を満たすには、現状手に入るパワーメーターの中ではパイオニアのSGY-PM910Hしかないのであった。
これは買っちゃうパターンですな。
返信削除さすがこのブログのパターンを熟知しておりますな(笑)
返信削除最初の方までさかのぼってほとんど全部の記事に目を通しましたから(。`・ω・´。)
返信削除ペダリングモニター、それはサイクリスト永遠の課題とも思われた、ペダリングの論争に終止符を打つアイテム。円周率が割り切れたような衝撃。
返信削除…ですが、ちょっと気になることもあるのです。
第一に、この機材が考えるペダリング効率は、本当に正しいのか。
ブログ等で高い効率のペダリング画像を見ると、12時~13時にかけてBB方向にベクトルが出ているものが多い。例えばこれと接線方向に伸びるベクトル、つまり回すペダリングと比較して、真に正しいのはどちらか。メーターが示すパーセンテージが高くても実際には…という事態にならないか。
第二に、エントリ内容にもありましたエアロ面。
そして第三に、使う筋肉の問題。効率を追い求めるあまりに短時間で脚が売り切れるペダリングでは、長時間のレースでは逆効果になりかねない。
…と散々文句を言ってきましたが、初心者ロードレーサー様が言われるように、分析する指標の一つとしては非常に有効ですよね。
ああ私も欲しい。持ち腐れと言われようが構わない超欲しい!w
おお、ありがとうございます。おそらくご想像の通りの展開になっていきますのでお楽しみに(笑)
返信削除「円周率が割り切れたような衝撃」とは、ペダリングモニターも随分偉くなったものです(笑)
返信削除「第一」は、たしかにこのモニターが出す効率の数字というのは実際に試してみてその信憑性を検証していく感じでしょうか。やはりあくまで目的は速く走ることなので、それに繋がらない数字がいくらでても全く意味がないんですよね。効率の数字が信用ならないものであればベクトルを見て判断していくしかないのかなぁと思います。(そのベクトルすら信用ならないとなるとそもそもペダリングモニター失格ですが・・・)
第三はまさしく私も触れた通り、「ペダリング効率=エンジンも含めたトータルの効率ではない」というところだと思います。ある意味ペダリングモニターはペダルに表れた部分だけで、そこに到達するまでの筋肉の収縮部位について分析をしてくれるわけではないので悪い言い方をすれば「片手落ち」であります。一方でそもそも「両手落ち」で何にもそういった情報がないことを考えれば、いかにその片手落ちの情報を使ってもう一つの見えないエンジンという変数の参考にするかという使い方もできるのかなあと期待しています。
とまあ冷静に語ってしまいましたが、私もまだ手に入ってませんが超欲しいっす!