土井雪広の世界で戦うためのロードバイク・トレーニングのレビュー


やっと土井本を読めたので感想。

一言でいうと、最高の一冊

自分はこれまで英語、日本語とトレーニング本や雑誌を読んできたし、むしろ英語媒体のトレーニング本の方が多く読み込んできた。

が、(日本よりも出版数が多い)それら英語媒体の本と比べても一番良かったといっても過言ではないと思う。


本の構成、全体について


本書で扱われている部分は幅広い。

「世界で戦うための」と謳っているだけあって、ファンの対応やスポンサーに気を配ったりといった、これからヨーロッパでプロとして戦う可能性がある(またはそれを目指す)若者向けに先行者のアドバイスとしての性格を持った内容が載っている。

まあ、プロとして戦う可能性のない適齢期を過ぎた自分にとっては、この部分はトレーニング本というより単にトリビアというか読み物として楽しむ箇所。


全体としては、機材からポジションからトレーニング、豆知識まで幅広くカバーしている感じ。

逆に言うともっとトレーニングに集中して書いて欲しかったというところもある。

豆知識としては、レース中のトイレタイムや、前著で書かれていたカメラに隠れて(合法の)薬を飲むところとかも詳しく触れて欲しかったなぁというのがある。

多分にオブラートに包んでいる部分もあるとは思うが、機材:乗り手は2:8というのはやはり大人の事情を配慮してのものなのかなと思う。

ママチャリとロードバイクなら2割くらいの差があるかもしれないが、少なくともロードバイクでは廉価モデルも最上位モデルでもパフォーマンスに及ぼす影響はごく僅かだと思う。

ファビオ・アルが20万円のロードバイクに乗ってもブエルタを普通に走れるだろうが、ホビーレーサーが100万円のロードバイクに乗っても完走すら不可能であろうことを考えると、機材は乗り手次第でいくらでもその差を埋められるが、エンジンには決して越えられない壁があり、そういった点では機材:乗り手はむしろ0.01:9.99くらいなんじゃないかと思う。


トレーニング内容


本書の真骨頂はトレーニングについての章である。

前著の「敗北のない競技 僕の見たサイクルロードレース」の102ページで書かれていたこの部分、

マライン・ゼーマン。
僕を最も強くした人。同時に、僕を最も苦しめた人。

一番詳しく知りたかったこの部分を深く掘り下げてくれている。


プロ選手相手の専属トレーナーのトレーニング内容は喉から手が出るほど知りたい情報であり、一般人には手の届きにくいものでもある。




例えばミケーレ・フェラーリ。

ランス・アームストロングのEPOや自己血輸血を行った医師として有名だが、その本業はむしろ医者というよりはトレーニングコーチ。

タイラー・ハミルトンはその著書の中で、ランスのトレーニングコーチとして対外的にはカーマイケルということにしていたが、実際に彼のトレーニングを指導していたのはフェラーリ医師だったと語っている。



ランス以外にも、フランチェスコ・モゼール、トニー・ロミンガ―、エフゲニー・ベルツイン、イヴァン・ゴッテイ、リシャール・ヴイランク、マッシモ・ガンダリー二、タイラー・ハミルトン、ジョージ・ヒンカビー、フィリッポ・シメオーニ、パオロ・サルヴァデッリ、ジョルジョ・フーラン、デイヴイッド・ミラーと錚々たるプロレーサーたちを指導してきている。

ミケーレ・フェラーリは53x12という名のトレーニングサービスを提供しており、実際に当時そのトレーニングキャンプに参加した人の記事も見かけることができる。1分間テストやヒルリピートテストでは、実際にツール出場のプロ選手と一緒に同じ内容のテストをしたとあって興奮した様子が綴られている。ただ記事を見ていただくと分かるとおり、ランザトーレ島でのトレーニングキャンプということもあり、アマチュアの場合はお金と時間に余裕のある富裕層相手のプライベートバンキングのようなビジネス形態で、一般サイクリストが気軽に利用できるようなサービスではない。

Training with 53x12.com's Dr. Michele Ferrari


一方でフェラーリよりも二回り以上若く、現役バリバリでプロチームのコーチを務めているゼーマンについてはアマチュア向けに門戸が開放されておらず、そのトレーニングコーチを一般ホビーレーサーが受けることは難しい。

このゼーマンから受けたトレーニング内容を土井流の解釈で翻訳した上で、ミクロ、マクロに渡って解説してくれているのは、ヨーロッパのトップコーチングのトレーニング方法、方針を公開してくれているという点で非常に参考になり、むしろゼーマンから掲載許可もらってるのかなぁと心配してしまうほどである。

そういう意味では、ある種、ゼーマンのトレーニング内容暴露本といってもいいかもしれない。そして自分が経験してきたことと、経験していないことの前提をはっきり置いた上で解説してくれている土井氏の真摯な書きぶりに好感が持てる。

そしてプロとアマとの違いも当を得ていてまさしくサイクリストとしての在り方を考えさせられた。

内容としては、何の特別な秘密があるわけではなく、基本的なことの積み重ねの先にあるというのも自分が考察していたこと、かつ知りたかったことと相まって咀嚼することができ、そのことが確認できただけでも日々のトレーニングの自信と改良に繋がり、とても貴重な内容であった。

本気でトレーニングをしたい人にはぜひともお勧めの一冊である。


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