今回は需要があるのかわらかないほどニッチな話ですが、オプション取引におけるシステムトレードの注意点である390オーダー制限について備忘録がてらメモしておきたいと思います。というのも2016年からある制度にも関わらず日本語のサイトで解説されているものが見つからなかったからです。
390ルールとは
一言で言うと、「オプション取引の注文を出しすぎの個人投資家または法人投資家に対してペナルティを課す制度」です。
名目的には、「1か月のうち1日あたり平均で390回以上の注文を出した顧客をマーケットメイカーに準ずるものと定義して、プロ投資家(Professional Trader)としての取り扱いをすること」です。
「プロ投資家」と言うと聞こえはいいですが、実際には高い手数料や注文の執行を後回しにさせられる(リテール投資家を優先される)というデメリットばかりで、ペナルティに近いものになります。
定義について:なぜ「390」なのか
390という数字は北米市場が開いている米国東部時間で午前9時半から午後4時までの6時間半=390分間のことで、平均して1分間に1回注文を出している場合を指しています。
1か月の平均で判断され、例えば2024年1月の場合は平日の取引日が21日間あるので、1月中に8190回(390×21日)オプション注文を出すと該当することになります。
そのため、1月2日に8190回注文を出してそれ以降まったく注文を出さなくても該当することになります。
しかも四半期カレンダーベースで毎月判断され、ひと月でも該当すれば翌四半期の3か月間ずっとプロ投資家の扱いになってしまいます。上の例では、1月で該当すれば、2月、3月と注文を出さなくても、4月~6月の間プロ投資家として扱われてしまいます。
ちなみに先物オプションは該当せず、カバードコールやプロテクティブコール、デルタ調整に使う原資産注文もカウント対象外です。
実際のケース
一例として、マーケットの現在値の変化によってアイアンコンドルの指値注文を変更(キャンセル→再注文)するようなシステムトレードのプログラムを1分ごとに走らせていたら390に届くことになります。
実際には値がほとんど動かないこともあるので5分間隔で実行するとしても、それを5銘柄(たとえばSPY、TSLA、AMD、AAPL、NVDA)で同時並行的に行えば同じく390回に達してしまいます。
この点、オプションは他の取引対象と比べて多次元になるので注文回数が多くなる傾向にあります。
- 例えば現物株は銘柄ごとなので、50銘柄追っていれば「場合の数」(注文のバリエーション)は50種類になります。
- これが信用取引だと売りと買いどちらもできるので、50銘柄x2パターン(ロングとショート)で100種類になります。
- 先物の場合は限月という概念が加わるので、期近と期先の2パターンとしても100種類x2限月で200種類になります。ちなみにSPXやSPYの0DTEのように満期日(オプションの行使期限)が細分化されている場合はさらに増えます。
- オプションはそれに追加してプットとコールの区分、さらにストライクの次元も加わるので10ストライクチェックするとしても200種類x2x10=4000種類になります。
とはいえそんな網羅的に注文を出しまくる機会は稀なのですが、単価の低い利鞘を取ろうとスキャルピングに徹していたり、アイスバーグ注文を自前で実装して小口の注文を多数入れたり、ドルコスト平均法のように底値圏で買おうとして様々な指値の多段注文をしたりすると乗算的に注文数が増えるので、手作業で注文を出している人はまだしも、システムトレードをしている人なら意外と簡単に上限に達しそうになります。
実際、自動取引をプラットフォームに組み込んでいるOption Alphaといったブローカーでは390制限に該当する人が多いのか、顧客向けに説明ページを設けています。
CBOEのドキュメント(PDFリンク)によればブローカーが該当する顧客の注文を流すときには「プロフェッショナル」のコードを付与することになっています。
が、tastytradeといったブローカーによってはそもそもプロフェッショナルトレーダーをサポートしていないため、取引できなくなるという死活問題に直結します。
ということでオプションの自動売買プログラムを書いている人は注文数を制御するようなロジックも入れる必要に迫られるというわけでした。
0 件のコメント :
コメントを投稿