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アメリカでのナイトラン用自転車ライト比較 ~光の単位は誰のもの~
基本的にニューヨーク市郊外に行くと街灯がないので、真っ暗な道を走る前提で考える。
ちなみにアメリカでのナイトライドの洗礼はすでに経験済み。
■闇夜のMontauk Highway
あれは忘れもしない1月4日、ロングアイランド一周ライドの一日目。
マイナス6度の中、空は雲が覆っていて文字通り真っ暗闇と化したMontauk Highway(ハイウェイといってもいわゆる自転車禁止の「高速道路」ではない)を走っていた。真冬の当日は午後4時半ごろで日没。ホテルまでは218kmあり、200km手前ですでに真っ暗に。持ってるライトといえば、もともとマンハッタン(街灯あり)で対自動車のドライバー認識用に装着していたちっちゃいLEDライトのみ。
街灯がなく、手持ちのライトもまったく道路に届かない中、路肩に散乱する氷に脅えながら走ったあの日。
時折通り過ぎる車のライトを頼りに加速し、真っ暗闇ではまた速度を落とす。車もライトを照らしてくれるのはいいが、ぶつけられないかという恐怖も常に付きまとっていた。氷で転倒するか、破片でパンクするか、自動車に撥ねられるか。
手や足の感覚がなくなりつつも、無事ロッジに辿りついたときはそのまま倒れこんでしまいたかった。幸い事故は起きなかったものの、ナイトライドとしては完璧な準備不足、大敗北だった。
これからナイトライドもするのであれば、あの失敗の二の舞だけは避けなければならない。
■参考サイト
まずは今回いろいろ調べた上で、この記事を書くのにもかなり参考にさせていただいているサイトを紹介。
2008年ブルベの装備についてのまとめ:その1、ライトについて
いろんなライト比較サイトがある中、実際にブルベを走られているインプレは素晴らしく参考になりました。
センチュリーラン完走のための装備
オハイオ州でブルベに参加している方。PBPも経験されており自分が目指すところの遙か先を走られている方。
LEDは本当に明るいのか?
アウトドア専門の方のようですが、ルーメン、キャンドルパワー、ルクス、ワットなど明るさスペックの表示単位が統一されていない部分を掘り下げて詳しく考察されております。
Lighting Systems
ハブダイナモをかなり極められてらっしゃる英語サイト。事情を知らない人が見たら、微笑みながら自転車に水をやっている写真はシュール以外のなにものでもないだろう。
4-AA LED Bicycle Lights
こちらもブルベをされている方のライト比較サイト。写真もあってわかりやすい。
Generators and Dynamo Hubs
ハブダイナモ系のライトが多い。自分もいつかここに辿り着くのだろうか。
■光の単位
まずライトを比較する際に一番悩ましいのが、ライトの性能を表す光の単位がバラバラであるということだろう。
光を表す単位には、ルーメン、カンデラ、ルクス、ワット、「キャンドルパワー」など混沌としている。
なぜなら、光というものは、光源の強さだったり、ある範囲にあたる光の強さだったり、光の指向性(一方向にのみあたるか全方向か等)だったり、光を線の束としたときの光束の強さだったりと、用途、見方によって測定方法も使う単位も変わるからだ。
この点、自転車のライトに限れば、ルーメン、ワット、「キャンドルパワー」表示のものがほとんどであるので、この3点だけ見ていく。
●キャンドルパワー
キャンドルパワーを括弧書きにしたのは、単位と呼ぶにはおこがましく、科学的には何の根拠もない数値だからだ。もちろん業界で統一もされておらず、A社の1キャンドルパワー≠B社の1キャンドルパワーだから比較にならないし比較のしようがない。
こちらのビデオによると、キャンドルパワーはメーカーもどんどん誇張して、数千キャンドルライトだとか数万キャンドルライトだとか言い出して意味がない数値になっており、ライトを買うときはルーメン表記の数字のみ信頼しろと説明されている。
たとえばCatEye製品はキャンドルパワーで表記されており、HL-EL530は1500、HL-EL610は3000とされているが、それは単に同社内での比較しかできず、HL-EL610はHL-EL530の2倍の明るさなんだなぁというイメージはできるが他社製品との比較はできない。
正しくはキャンドルライトは、乱用された結果の標準化の動きとして、1キャンドルライト=1カンデラとして置かれたのだが、3000キャンドルライトを正しい単位として計算するととんでもない値になる。
このサイトによると、元々、1キャンドルパワー=12.57ルーメン(1ルーメン=0.07958キャンドルパワー)だそうだが、それで計算すると以下のようになる。(表は実際の明るさが強い順)
ライト | キャンドルパワー | ルーメン(lm, lumens) |
X7 Ultimate | - | 1450 |
Fenix L2D | - | 100※ |
HL-EL610RC | 3000 | 37710(換算値) |
HL-EL530 | 1500 | 18855(換算値) |
��※高出力モードでの使用。Fenix L2Dには、11 lumens (55時間)、50 lumens (10.5時間)、100 lumens (4時間)に加え、ターボモードして175 lumens (2.4時間)の出力がある。)
冒頭で紹介したサイトでは、HL-EL530よりもFenix L2Dはダントツに明るく、昼間になったような明るさとのことだが、単純計算すると、表記の上ではHL-EL530の方がFenix L2Dのより190倍近くも光が強いことになってしまう。これを見る限り、いかにキャンドルパワーという表示があてにならないかがよくわかる。
●ワット
次にワットも要注意単位。パワーメーターや家電製品でもワットが使われるように、ワットは仕事率や消費電力の単位であり、光の単位ではない。発光効率がわかって初めてルーメンがわかる。発光効率とは字の如く、どれだけエネルギーを光に効率よく変換できているかの値で、ルーメン毎ワット(lm/W)でも表記される。
つまり、発光効率が10%だったら100ワットあっても、光になるのは10ワット分で、あとは発熱なり他のエネルギーに使われてしまう。逆にいえば、同じワット数でも、発光効率が10%のものと、30%のものがあれば3倍の差がでるということだ。だからワット数も発光効率がわかってルーメンに換算できないとあてにならない。
ちなみにHL-EL610はHL-EL530に比べて「キャンドルパワー」の数値では2倍になっているが、ワット数は1ワットで同じ。つまりHL-EL610はHL-EL530の2倍の発光効率を持っているということだろう。
●そしてルーメン
ルーメン(Lumen)は、Wikipediaの説明によると、「全ての方向に対して1カンデラの光度を持つ標準の点光源が1ステラジアンの立体角内に放出する光束」とのこと。
まあぶっちゃけイメージがつきにくいが、大事な点は、単位が標準化されており、ルーメン表記であれば他社とのスペック比較ができるということである。
つまり結論は上掲ビデオと一緒になるが、ライト購入を検討するときはルーメンの数字で比較しろということになる。
というわけで、以下ライトの種類別にチェックして行きたいと思う。
■ヘッドライト(前照灯)
他サイトを参考にした結論から書くと、HL-EL530×2灯では不十分、CREE社などの高輝度LEDライトが必須という結果となる。
通常のLEDライトと高輝度LEDライトを両方装備する人も多いようで、高輝度LEDには、電池消耗が早く、持続時間が短いという欠点がある。
一方、遠くの路面状態を見る必要があるダウンヒルでは高輝度LEDが必須。逆に速度が出ず、遠くの路面状況まで知らなくてもなんとかなるヒルクライムでは高輝度LEDは休ませて、長時間使用可能な通常LEDライトだけで走ってもなんとかなるということだ。
というわけで、候補を以下挙げる。
ちなみに真っ暗な道の長時間ライド用に検討するので、被視認用のライトや街灯を前提とした通勤用ライト的なものは、そもそもの比較する対象から除外しておく。
●CatEye HL-EL530
●CatEye HL-EL610
CatEyeの「キャンドルライト」数値によるとHL-EL530の2倍の明るさなのだが、自転車用ライトの重要検討項目の一つである持続時間という点では電池の消耗も激しいようで、持続時間を考えるとHL-EL530の方がいいかもしれない。
●GENTOS 閃(セン) SG-305
100ルーメンでHL-EL530より明るく、実用点灯10時間とのことだが、Amazonのレビューを見る限り3時間ですでに暗くなっていくらしいので予備電池必須。
電池は単4×3本。市販の単4が使えて値段も安いということでコストパフォーマンスは高い。
が、そもそも日本でしか取り扱っていないらしく、Amazon.comにもEbay.comにもない。
日本の知り合いが来るときに頼むという手もあるが、それなら次のL2Dを買った方がいいと思う。
●Fenix L2D CE Premium Q5 L2D(Q5)
発光量を4段階(ターボモード含む)で設定できるのは上記キャンドルパワーの説明のところで書いたとおり。
ターボモードは170ルーメンとのことでかなり心強い。街灯が無い峠道では必需品とのこと。
電池は単3×2本。こちらも市販の単3乾電池が使えるのは心強い。
Fenix L2Dの紹介サイトでは、ターボモード(175ルーメン)で使用すると一気に温度が上がり電池消耗も激しいので、10分間以上の連続点灯はしないようにとの注意書きがあった。一日中、夜通り走り続けるブルベにとって10分間というのは短すぎだが、要は
●SUPERNOVA M33
●X7 ULTIMATE
ダイナモ系のライトを見ててたまたま見つけたこれらのライト。
M33(Supernovaだけに星雲の名前をイメージしてるのか)は800ルーメン。GENTOS 305の8倍。
そしてX7はなんと1450ルーメン。GENTOS 305の14.5倍というのはおそろしいスペックだ。
ウェブサイトの説明では100m先まで照らせて速度が出るダウンヒルに最適らしい。
しかもこんな表記まで・・・
The use of this lamp on German roads is illegal.
ドイツでは法律違反になるようです。まさに法定光量を超える光!
しかもX7ってHIDリフレクタを使ってるんですよ、奥さん!(誰?)
HIDランプ、別名、高輝度放電ランプは自動車や鉄道車両、高天井の体育館や駐車場に使われている照明。
これは光源はLEDなのだがHIDの技術もつぎ込んでいるらしく、一台の自転車につけるレベルを超えているランプだ。
ただめちゃくちゃ高い。
M33が625ユーロ、X7が999ユーロ。
ロードバイクが買えてしまうではないか・・・。
それにバッテリーは別売りで別途携帯する必要がある。
まあ物足りなくなったときの「次の一手」としてとっておく程度で、まずはこれにしなくてもいいか。
これを買う金があったらクランクをSRAMのREDにでもしよう。
ちなみにハンドルバーへの取り付けはこんなのを使うことになるだろう。
■テールライト(尾灯)
テールライトの役割は、何かを照らして視認するためのものではなく、ドライバーなり後続のチャリなりの被視認性を高めるためのものでしかない。
というわけでヘッドライトほどの考察は必要ではなく、後ろからみてハッキリわかるものであれば良い。
ブルベであれば体や他の場所にもリフレクターをつけてるし、そこまで大袈裟にしたり高価なものを買う必要はないと思う。
まあ↓のようなところだろうか。
●CatEye TL-LD610-R
LEDが5個付いていて、テールライトとしては十分だと思う。重さは60グラム。単四×2本。点灯時間は30時間。
●CatEye TL-LD1100
TL-LD610-Rの上位バージョン。10個のLEDを搭載するが、重さは116グラム。単三×2本。点灯時間は50時間。
安全を買うなら重さくらい。などと思うが、レビューを見ると、まぶしすぎて逆にドライバーへの目つぶしになったり、重いので外れて壊れたり紛失したりということもあるらしい。
一番注目したのは、まぶしすぎるので下向きにしたり(そもそも重いので普通にしてても下向きになる)、点灯モードで半分しか点灯させなかったりして使ってる人がいること。それなら5個のLEDで軽いTL-LD610-Rを水平に装着した方がいいじゃんと思ってしまう。
点灯時間も30時間あれば90時間制限の1200kmのブルベだってギリギリ持つだろうからTL-LD610-Rで十分だと思う。
■ヘッドランプ
ヘッドライトと紛らわしいが、ヘルメットに装着するヘッドランプも必要だ。
ヘッドランプは、車体に取り付けるヘッドライトを補うものとして以下の特徴がある。
・サイコンを確認する
・Cue Sheetを確認する
・道路の頭上の標識を確認する
・カーブ手前等で車体が向いている(光があたってる)方向以外の路面等を確認する
・その他見たいところを照らす
総括すると、ヘッドライトは車体の方向に照射角度が限定されてしまうのに対して、ヘッドランプは自分の視線の方向を照らせるのが特徴である。
そして気分は川口浩の探検隊である。
ヘッドランプのポイントは、光量、照射時間に加えて、重量が大きなポイントになってくる。重いヘッドランプでは頭(というか首、肩)の疲れに直結するらしい。
というわけで早速ヘッドランプを見てみる。
45ルーメン。78グラム。
60ルーメン。88グラム。
5種類の照射タイプがあり、遠近用にスイッチできる。最大出力では60ルーメンで、60メートル先まで照らすことができる上、80時間の連続照灯が可能。節約モードでは、160時間も照射していられる。さらに被視認性を向上させるための赤色LEDも装備している。
80時間の照灯が可能であれば、90時間制限の1200kmブルベでも余裕で使える。
ちなみにPetzlのホームページでは用途別に検索ができ、自分に最適なヘッドランプを選べるようになっている。
もちろんRoad Bikingという検索項目もあり、そこでヒットするのが上記Tikka XP2である。
■ハブダイナモ
ちなみに先達の傾向を見ていると、最終的にはハブダイナモに行き着くらしい。
アメリカのブルベ統括団体であるRUSAのニュースレターにも、どのダイナモがよいかの記事がある。
ハブダイナモとは文字通りハブが回転することで発電する(ダイナモ)もので、Schmidt(シュミット)やShimanoから発売されている。電池を気にせず走れるのはいいが、高価なうえに装着系の問題が・・・。
ハブダイナモをつけるとなるとハブ周りに手を加えなければならなくなる。
自分の場合、ナイトライドのためだけにシャマルを分解してスポーク貼りなおして・・・ってやるかというと敬遠してしまう。
結局ブルベでは日中のライド時間の方が長いだろうし、睡眠をとるのも夜間だろうしということを考えると、ナイトライドイベント※にでも積極的に参加しない限りそこまでする必要性が今はまだ見えない。将来どういう方向に動くかはわからないが、とりあえずデビュー装備としてはバッテリー系のライトで行ってみようと思う。
��※1月1日になると同時(午前0時)にセントラルパークを出発して夜間でセンチュリーライドするようなイベントがあるらしい。)
■総括
というわけで、とりあえず今シーズンのナイトライドに向けて準備するものは、ヘッドライトはFinex L2Dを2本、ヘッドランプはPeltz Tikka XP2、テールライトはCatEyeのTL-LD610-R。
Finex L2Dは電池の消費が早いが、50ルーメンモードでは10時間半もつということなので、適宜100ルーメンや激坂のダウンヒルでのみ175ルーメンモードを使うなど混ぜつつ走れば一晩はもたせられるだろう。
ぶっちゃけマンハッタンはそんなに自転車パーツが揃っている店が多いわけでもないので、買うとしたらAmazon.comかEbay.comになる。
Finex L2Dはまず一本だけかって様子を見てからもう一本か、他のライトかも検討したいが、まあ3月中には揃えれるようにしよう。
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