第三部:パワートレーニングツール:iBike Aero導入

各トピックがあるため、一つのエントリに収めるのは難しく(タイトルと内容がばらけてしまう)、以下に分けてエントリをしている。

 第一部:ライド全体
 第二部:さらば我が愛しのセントラルパーク
 第三部:パワートレーニングツール:iBike Aero導入(このエントリ)
 第四部:パワートレーニングの驚異的な成果
 第五部:アミノ酸と疲労回復


パワートレーニングをTacxのローラー台でしている日々が続いているが、実走でもパワーを計測する必要があると感じ、パワーメーター導入に踏み切った。


■各種パワーメーターの比較・検証

既に過去のエントリで触れているが、市場で手に入れられるパワーメーターは、SRM、CinQo、Ergomo、PowerTap、Polar、iBikeといったところ。MetriGearや我らがパイオニアもパワーメーター開発に取り掛かっているが、どちらもまだ発売前。各商品の詳細はググればたくさん出てくるし、比較表もTraining and Racing with a Power Meterに記載されているので詳細は省くとして、大きく分けて、歪み式とそれ以外に分かれている。

この点、歪み式はDFPM(Direct Force Power Meter)とも呼ばれ、直接トルクによる歪みによって読み取るので正確であるといわれている。ただ、デメリットとして価格が高く、SRMでは$2,000~$3,000する上、自転車パーツ(クランクだったり、ハブ(ホイール)だったり、BBだったり)と一体化しているため、選択の幅が限られたり、既存のパーツが使えないといった点もデメリットである。

一方、iBikeといった非歪み式は価格も安く(数百ドル)、重量も軽く、サイクロコンピュータのように既存のロードバイクにセンサーをセットするだけという導入の低さでメリットがある一方で、空気抵抗や傾きを使って演算するため、歪み式に比べて正確な値が出ないのではないかというのが、購入を検討しているが踏み出せない人たちの共通の悩み・不安であると思われる。

で、結論から先に書くと今回はiBike Aeroを購入した。




■iBike Aero GT Wirelessについて

南カリフォルニアのプロチームがiBikeを使っているらしい。とはいえ、スポンサードされていて広告料も入っているのだろうから話半分だが、他のレビューを見てもそれなりに使えるレベルになっていそうだし、単なる大人の事情だけでなく、PowerTap、CinQoと測定比較した検証レポートも掲載されているので、客観的な数値としてもそれなりに信頼できる計測ができるのだと思う。

ちなみに、唯一のパワートレーニング専門書の中でも評価が高い。しかし、著者であるDr. Cogganが共同開発しているトレーニングソフトWKO+が、そもそもiBikeと提携しているようで、もちろんWKO+もiBikeの形式に対応しているし、iBikeのサイトでも(iBike購入者は)割引でWKO+が買えたりするので、この本の中でiBikeの信頼性を落とすようなことを書くわけが無く、まあiBikeを推奨していてもどうしてもビジネス的な裏事情が見えてしまい、鵜呑みにできないところもある。


■iBikeの信頼性

iBikeで一番心配なのはそのパワー値の正確さ、信頼性だろう。ただ、ランスアームストロングがTTで使用したSRMですら異常値を示すことがあるということなので、数十万円出してSRMを手に入れたとしても100%正確な値が取れるわけではない。また、歪み型パワーメーターでも、スロープ値等が正しく設定されていなければ正しい値は出ない。

この点、iBike側も消費者のその不安を重々承知なのか、CinQo、PowerTap、iBikeを同じ自転車に付けて走ったパワー計測比較レポートを公開している。このレポート内を見る限り、全体を通してiBikeはCinQo、PowerTapと近似値を叩き出していることがわかる。一方で、同じ歪み式とはいえ、CinQoとPowerTapの間でも差が出ていることがよくわかる。

ただ、5秒以内といった短いスプリントの場合、iBikeの測定誤差が大きいようである。これはiBikeの測定方法によるものと思われる。iBikeはトルクをかけた結果として出てくる風速やケイデンスの情報を元にいわば逆算してパワーを演算している。そのため、瞬間的なトルクなどは明瞭に風速等に反映されず、パワー値が取れていないのだろう。一方で、歪み式は直接トルクがかかったクランク(iBikeのレポートでは、DFPM(Direct Force Power Meter)と呼ばれている)

例えばレポート内で紹介されている誤差として以下のようなものがある。iBikeは瞬間的なパワーが出にくい傾向があるようだが、CinQoとPowerTapでもそれなりに差が出ていることがわかる。

iBikeCinQoPowerTap
471590691
400590650



■iBikeの拡張性

また、将来的に歪み型のパワーメーターを手に入れた場合にも、それらのANT+対応型パワーメーターがあれば、iBikeで空気抵抗値をリアルタイムで表示できるようになり、あたかも風洞実験をしているような効果を得られるとのこと。ということは、SRMやPowerTap、今後出てくるであろうペダル軸型のMetriGearや期待の星のパナソニックパワーメーターなどを手に入れたあとも、機能が被ってお役御免になることもなく、iBikeはiBikeで空気抵抗値測定用としての用途に使えるということで無駄がない。


■iBikeの汎用性

iBikeにした決定的な理由のひとつは、「ローラー台含め、複数の自転車で共通して使える」からである。

まず、ブロンプトンでパワー計測ができるパワーメーターはiBikeしかない。小径車のブロンプトンでは700Cのホイールも、ロードバイクのクランクも付けれないので、それらの歪みを使うパワーメーターはそもそも使用ができない。この点、iBikeは総重量やタイヤ周長、勾配、風速などから演算でパワーを測定するため、ブロンプトンでも測定可能となるわけである。さらに固定ローラー台でもパワー計測ができるため、通勤ライドのブロンプトン、週末のTrek Madone 6.9 Pro、インドアのSpecialized Tarmac Eliteのそれぞれで一台のiBikeを使ってパワー測定することができる※1。自転車ごとのプロファイルを複数登録できるため、マウントユニットさえ複数用意すれば、複数の自転車で共有して利用できるのである※2。

※1
しかし。しかしである。インドアの測定は、各固定ローラー台ごとの負荷抵抗値などを選択して、各種ローラー台の負荷を計算に入れてパワーを算出する仕組みらしい。ということは、そもそも負荷が自動で変化していくTacxのFortius、Bushidoといったトレーナーでは利用できないのではない。実際にiBikeには各種固定ローラー台のプロファイル(ローラー台ごとの速度と負荷の比率)が用意されているのだが、可変速型のPC連動トレーナーは対象外となっている。負荷自動変化というPC連動トレーナーのメリットが、iBikeのパワー測定という点ではデメリットになってしまう。

※2
さらに、このマウントユニットが曲者で、Garminのように単なる台座なのではなく、電池ユニット部を含んだものになっている。そのため、スピード・ケイデンス・ハートレートセンサーを除いて台座だけ買う場合でも$100以上かかる。

とりあえず標準のハンドルバーマウントで試してみて、追加セットを買うしかないようであれば追加で用意するようにしたい。

開けると中はこんな感じ。本体とマウントがついている。




■実走の前に

というわけで実走であるが、実走の前にあらかじめ身長、体重、総重量を調べておかなければならない。

身長と体重は他のサイクロコンピュータでも入力すると思うが、総重量とは、自分の体重に加え、ウェア、ヘルメット、自転車、サドルバッグ、工具、ボトル(+中のドリンク)を合わせた重量のことである。

さらにライディングポジションということで、通常の自分のポジションが、フードを持つスタイルか、下ハンドルか、TTバイクのエアロ(DH)バーかなどを選択して、前面投影面積ならぬ空気抵抗の計算に使っているらしい。

ここがまた疑惑が出てしまうところで、重さなんて汗もかくし、ドリンクも飲むしで、常に変動するものである。さらにライディングスタイルも、場合によってフードだったり、下ハンを持ったりで常に一定ではない


こちらは説明書が入ったCD。が、うまく読み取れず、結局必要なデータは、ソフトウェアとドライバ含めてすべて公式サイトからダウンロードした。




■実走開始

そして走り始める。

が、iBikeにはCalibration Rideという設定があり、傾斜テスト、風テスト、滑走テスト、1マイル往復走行テストという一連のテストを行わないといけない。

そのためまずは1マイル(信号等に邪魔されずに)往復できるような場所、つまりマンハッタンのウェストサイドのサイクリングロードまではスタートさせずに、Garmin Edge 500とのリンクも行わずに走っていく。

しかし、実は後でGarmin Edge 500のログをPCで見たところ、すでにこのときからパワーが記録されていた。ANT+のカップリングすらしていなかったのに。不思議だ。


■ウェストサイドで設定開始するもTiltエラー

走行中はすでにGarmin Edge 500でパワーログが取れてるなんてことは知る由もなく、ウェストサイドに到着してCalibration Rideを開始する。

この点、まだTilt(傾斜)の設定を行えていない場合、Calibration Rideの開始時にはTiltテストをしなければならない。これは、iBikeの指示に合わせて自転車を動かさないように固定し、現在の斜度が出たら、「Turn 180(逆向きにしろ)」と指示が出るので逆向きにして反対向きの斜度をチェック、最後に再度逆向き(つまり最初の位置に戻る)にして斜度の微調整を行うものである。

が、何度やっても「Bad Tilt」の文字が出て先へ進まない。しょうがないので結局その日はCalibration RideをしないままGarmin Edge 500とペアリングして使ったのであった。

ちなみにネットで検索すると、同じ症状が結構出ており問題となっていることがわかった。


■使用感

使用感といっても、一旦ペアリングしてしまえばGarmin Edge 500の画面で見ることができるので、それが終われば単に「Garminの画面に表示できるパラメータが増えた」状態である。これまでGarmin Edge 500の画面を使ってきたのであればインタフェースは一緒なので戸惑うことはない。

iBike接続時の走行風景




一方で、iBikeの表示は激しく見にくい。これは電卓と同じ表示域でアルファベットを無理矢理表示しているからだが、詳しくは後述のデメリット部分で述べたい。
ちなみにiBike固有の機能として、TSSやIF、NPといったTraining and Racing with a Power Meterで用いられているパラメータをリアルタイムで表示できるというものがある。例えばトレーニング目標をTSS100などにしている場合、TSSのパラメータを見ながらトレーニングできるという利点がある。




■メリット

総評の前に、実際に使ってみたメリットとデメリットを箇条書きにしておく。まずはメリットから。


・パワーが計測できる

というかこれに尽きると思う。そもそもパワー計測用でなければiBikeを買うことはないだろう。


・他のパワーメーターよりも手軽に利用できる

これがiBikeが他のパワーメーターに勝っている唯一の点だと思う。それこそANT+でGarmin Edge 500のセンサーをそのまま利用できる。さらに(他のANT+対応パワーメーターでも可能だが)ペアリングしてGarmin Edge 500の画面でパワーを表示&パワーログが取れるのも嬉しい。さらにマウントさえあれば複数台(ロードバイクに限らず)に取り付けることができる。これが他の歪み形パワーメーターだと既存のクランクセットやホイールがそのまま使えなかったりするので、例えばロードバイクを複数台、ホイールを何個も持っている人にとってはかなり使いにくいものになってしまう。


■デメリット

・設定がめんどくさい

いや、自分も「設定なんて始めのうちだけじゃないか」「慣れてしまえばたいした問題じゃない」と思っていたが、実際に使おうとするとけっこうめんどくさいものである。特に走行テストや、そもそも傾斜テストでエラーが出て先に進めないとか。


・数値が信頼できない

たとえば上述した、総重量やライディングスタイルなど、ライド中に必ず変わっていく値も固定値で入っており、その変動が捕捉できないため、「100%正確な値は出ていない」ということを100%信じられる状態である。つまり、ある程度の誤差は当然で参考程度という割り切りが必要である。


・電池が悪い

電池の持ちが悪い。しかも台座と本体で二つ必要になる。iBikeよりよっぽど小型なGarmin Edge 500などのように充電池にしてくれればいいものをと思う。他の所有者のブログを見ると、1週間ごとに交換しているとかもある。ちなみに公式ホームページでも電池パック20個セットなどを売っている始末である。

裏はこんな感じになっている。電池を入れるようになっている。




・画面が見にくい

画面が激しく見にくい。というのも、電卓と同じ表示域(数字しか表示できない)で、アルファベットを表示しているからである。まるで一昔前(?)の女子高生のギャル文字のようである。こんなところでiBikeの拙さを感じてしまう。洗練されていないというかなんというか。Garmin Edge 500などのようにドット表示で可読性のあるアルファベットにして欲しい。


■総評

元々そこまで正確な値を厳密に求めていないし、一番重要な日々のトレーニングはインドアなので、そもそも期待をそこまでしてないという部分があり、そういう点では、まあ期待をそこまで裏切らないツールではあると思う。

なんとも歯切れの悪い言い方になってしまったが、私のような、他のパワーメーターを揃えるまでの一時しのぎ的にとりあえずパワーのログが欲しいという人には良いのではないだろうか。


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