事故の記録その5:湿潤治療

(※今回は傷跡の治療前後の写真があります。お食事中等の方はご注意ください)


ということで、自転車を無事回収して帰宅した後、傷の状態を確認してみる。

病院で診てもらった通り、骨には異常なし

手首の捻挫はハンドルを握るときに違和感が出るし、段差があったときの振動も響くが時間を置くしかないだろう。

右目の眼内出血とまぶたの内出血も同様。人相が変わってしまっている程であるが、やはり時間を置いたら腫れが引いていった。

問題は、右こめかみ、アゴ、右肩、左腕、右膝、臀部にできた擦過傷(擦り傷)である。

特に顔については常に人目に晒される部分だけに、男性といえどもできるだけ傷跡が残らないように治したいものである。

ところが病院が施した治療はガーゼ中心の乾燥治療であり、傷の治りが遅く、跡が残りやすい

その後診てもらった医師とも電話で話したが、骨等の異常もなく通院は必要無いことで合意。

擦過傷については乾燥療法で治されてはたまらないので自分で治すことにした。


■湿潤療法について

湿潤療法とは、従来信じ込まれていた、
 「擦り傷は消毒してガーゼを当てるべし」
 「絆創膏を貼るべし」
 「かさぶたは治りかけている証拠」


といった神話とは逆に、
 「消毒は厳禁」
 「傷口は常に潤いを保ち乾燥させない」
 「かさぶたが作られてしまわないようにする」


といった方法で治す治療法である。

湿潤療法は1962年にイギリスのジョージ・D・ウィンター博士によって発表されており、1963年のNatureに、湿潤に保つことにより、乾燥させるよりも2倍の早さで傷が治ったことが掲載されている。

 Effect of Air Drying and Dressings on the Surface of a Wound(創傷面の乾燥と湿潤の効果(筆者意訳))


日本では、ウィンター博士が湿潤療法を発表してから40年以上後になってから、夏井睦(なついまこと)医師を中心に広まることになり、2003年以降、同医師による各種書籍が発売されている。



また、テレビでも取り上げられることがあって広まってきたが、未だ従来の治療をしている病院も多く、今回私が連れてかれた病院も同様であったわけである。



ということで、湿潤療法の方法等についてはこれらの動画を見ていただければ十分だと思うので、ここでは湿潤療法を施した結果だけ掲載したいと思う。




お見苦しいので恐縮であるが、以下が右こめかみ、アゴの湿潤療法による経過である。アゴは結構皮下の方までえぐれてしまったためまだ完治していないが、こめかみの方はもう湿潤療法も行わなくてよいほど治っているし、傷跡(特にかさぶた後に見られる凸凹)もほとんど残っていないのがわかる。

こめかみアゴ
事故当日
一週間後


湿潤療法では、かさぶたを作らないが、人間の体とは本来自然治癒により傷を治す力があり、かさぶたもその働きの一つであるものの、人間の治癒力はあくまで「怪我を治すこと」であり、傷跡が残るか残らないかといった皮膚の美容(いわゆる「見た目」)まで気にして治しているわけではないので、湿潤療法では傷跡を残したくない場合にも威力を発揮する。

今回自分が使ったのはこちらのセット。食品用ラップとハサミとワセリン、そして顔の擦過傷だったこともあり、ラップをするときに傷口を確認する用の鏡である。というか医療品は一切使っていない。あとは普通にテープで止めてもいいし、ラップを巻いているのを隠したいのであれば、ラップの上からかぶせるようにバンドエイドを貼るのもよい。



傷口の湿潤を保てるものであればラップでなくてもよく、日本の市販品ではジョンソンエンドジョンソンのキズパワーパッドなどが湿潤療法による治療法を採用している。アメリカでもドラッグストアで手に入る。



面白いのは、傷の治りが約2倍早いという売り文句は、50年近く前にウィンター博士が発表した内容と同じということである。つまり、普及の違いはあれ、湿潤療法の基本自体は50年間変わってないということである。



指用や足用など、種類もそれなりに多い。ラップは汗も溜まるためかぶれやすく、何度も張り替えをしたが、専用素材であれば汗だけ吸収するようなものもあって効率的かもしれない。



ちなみに、2年前のセンチュリーライド(NYC Century Bike Tour)で転倒したときは、乾燥療法で治してしまったために、未だに消えない傷跡が右肘に残ってしまっている。あのときから湿潤療法を実践していればよかったと悔やまれる

サイクリストにとって擦過傷は日常茶飯事だと思うので、早く治せて、傷跡が残らない治療法を知っていると役に立つことが多い

ただ、もっと役に立つのは落車した経験だと思う。今回の経験を活かして今後できるだけ落車を未然に防ぐようにできればと思う。落車も様々で打ち所によっては悲しい事故にもなりかねない。実際過去に落車で命を落とした選手もいるし、漫画の中の世界のようにはいかないのだから。




6 件のコメント :

  1. アウトサイダー2011年7月12日 6:33

    見るなと言われると見ちゃいますねw
    でも、骨に異常がないようなので安心しました。
    昨日のツール・ド・フランスでも多くの落車があってリタイヤした有力選手がいましたが、
    あんな映像を見ると、いつかは自分も…と思ってしまいます。
    アメリカではツール・ド・フランスは盛り上がっているのでしょうか?

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  2. 湿潤療法はホント効果ありますよねー。
    自分も去年落車して左膝付近にかなり広範囲の擦過傷を負いましたが、主さんと同じく食品ラップでの湿潤療法で綺麗に治癒しました。
    今では傷跡もほとんど確認出来ません。
    ただ夏場だったので痒みがキツかった(;´Д`)

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  3. 初めまして、静かな固定ローラーが欲しく、検索していたら辿りつきました。
    1up usaの固定ローラーを購入したくて色々な通販サイトを探したのですが、どうやら日本では取り扱ってなさそうですね…
    記事と関係ないコメントで申し訳ないです。
    興味深い記事が多かったので、勝手ながらリンクさせて頂きました。

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  4. ありがとうございます。こちらからもリンク貼らせていただきました。
    1up USAは静かな方だと思います。PC連動云々を求めないのであればかなり良い選択肢ではないでしょうか。
    今使っていない1up USAが一台あるのでお譲りすることも可能なのですが、かなり重いので個人で発送するには難しいかもしれません。
    と思ったら公式サイトの購入ページで発送先に日本が選べるようなので、公式サイトで海外発送してくれるみたいです。
    http://www.1upusa.com/index.html

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  5. 今回のツールでは中継車が選手を轢いてしまう事故もあったので肝を冷やしました。自転車に乗っている限り事故る確率はゼロにはなり得ないので私も同じような心境になることがあります…。
    ちなみにアメリカではツールは…人気があるのかどうかわかりません(笑)。
    チーム内ではもちろん話しに出ますが、自分がそういう環境にあるせいで、他の(一般の)人から見てどの程度興味があるのかというのは微妙ですね。
    こちらではケーブルテレビが多く、スペイン語チャンネルや、ニューヨーク州のチャンネル等、コミュニティーや地域で多種多様化していて全体的なイメージが掴みにくい感じです。
    書店ではそれなりに特集誌や自転車雑誌も多いですが、それでも野球、バスケ、アメフト等に比べるとマイナー感は否めないと思います。

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  6. 湿潤療法は治りが早いのが嬉しいところですね。おかげさまでブランクをほとんど開けることなくトレーニングが再開できたのでよかったです。
    ちなみに私も夏場だったのでかなり痒みがきました。外気に触れている顔はまだいいのですが、服の中にある右肩の部分はつらかったです。
    今日は(ラップを会社に持ってくのを忘れたので)湿潤療法用のバンドエイドを使ってますが、これは汗を吸収してくれるので痒みはなくて良い感じです。

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