ロードバイクにハマる人たち

自分の周りで、他人の言動に影響を受けやすい人がいる。

相手に悪気がなくても何か皮肉的なことを言われると過剰に反応して言い返してしまうのである。

自分としてはこれはすごく受動的な反応であると思う。嫌なことが起こっても、それで嫌な気分になるか、気にしないかはその人の自由意志だからである。

例えば、朝出掛ける直前に土砂降りの雨が降り出したとする。

ある人は、「自分が出掛けるのを見計らったように降ってきやがって、嫌な雨だなぁ」と思う。

別のある人は、「出掛ける前に降り出してくれて良かった。傘も持たずに出て途中で降られたら大変だった。ついてるなぁ」と思う。

前者は嫌な気分で一日が始まり、後者は「ついてる」という気分で一日が始まる。

まあいわゆるポジティブシンキングであるわけだが、一見、誰もが嫌に思うような事象でも、それをどう受け止め、どう思うかはその人次第なのである。嫌な事柄をそのまま受け止めて嫌に感じるのは誰でもできるし、それは主体性のない、周りに感化されやすい受動的な人である。

つまり、これは換言すれば、受動的な人と、主体的な人の違いである。


■宮崎駿監督の苦言

ここで記憶に新しいのは、宮崎駿監督のiPadを評した言葉である。

「あなたが手にしている、そのゲーム機のようなものと、妙な手つきでさすっている仕草は気色わるいだけで、ぼくには何の感心も感動もありません。嫌悪感ならあります。その内に電車の中でその妙な手つきで自慰行為のようにさすっている人間が増えるんでしょうね。電車の中がマンガを読む人間だらけだった時も、ケイタイだらけになった時も、ウンザリして来ました。」


そして最後にこう結んでいる。

「あなたは消費者になってはいけない。生産する者になりなさい。」


誤解してはいけないのは、宮崎監督が批判しているのは、iPadではなく、その価値を受動的に享受するだけの消費者だということである。

単に価値を享受するのではなく、自分で価値を生み出す創造者であれとの想いが見える。

iPadを自慢する人もいるかもしれないが、すごいのはiPadを持っている人ではなく、iPadを造った人なのである。


■虎の威を借る狐症候群

上記のような、iPadを自慢する人たちは、言わば虎の威を借る狐症候群である。

こどものときに、やたらと知り合いの自慢をするこどもがいたと思う。

「俺の友達の友達は~なんだぜ」、「うちのとうちゃんは~なんだぜ」。

これを聞いて思っていたのは、「で、君は?」である。

そして自分が返す答えといえば、「うちのとうちゃんはサラリーマンなんだぜ」である。



こんなしょうもないことを言うのは小学生くらいかと思っていたら、先週末に一緒に夕食をした知り合いの華僑も同じようなことを言っていた。

「私の働いている会社はこの業界で全世界で3番目に大きいのよ」と。

ここでもやはり、すごいのはその会社を興した創業者であり、経営者である。彼らが創造する者であり、華僑の彼女は単なる従業員でしかなく、知り合いの自慢をしている小学生のこどもと変わらない。

友達や会社の権威を借りて自分のことを大きく見せようとする様は、古代中国の宦官を想起させる。

結局は、iPadの話しと同じく、(友達なり会社の)価値をただ享受するだけの受身的な人間になるなということである。むしろこの場合は、その価値が自分のことであるかのように錯覚しており、本人に自覚症状がない分重症かもしれない。


■楽を求める脳と快楽を求める脳、そしてロード乗りの脳

オメガトライブという漫画に、楽を求める脳と快楽を求める脳について書かれている。

楽を求める脳は受動的な人、楽な方、楽な方に流れていく。他人が造った価値を享受するだけの人であり、堕落する脳である。

快楽を求める脳は能動的な人、快楽を得るためには苦労を惜しまず、努力して行動して快楽を得る、進化する脳である。

ではロードバイクにハマる人たちはどうだろうか。

先に引用したオメガトライブの著者、玉井雪雄は、現在は「かもめ☆チャンス」という自転車漫画を執筆している。

この漫画はスターシステムを採用しており、オメガトライブの登場キャラがかもめ☆チャンスにも登場するのだが、その中でもこんな話しがされている。



食事も節制し、食べたいものも我慢する。眠い早朝も、「このまま布団に入って二度寝すればなんて楽なことだろうか」と思いつつも自分に鞭打ってトレーニングに出掛ける。

別にきついトレーニングなんてしなくても誰からも怒られないし、炎天下の下、汗だくでペダルを回さなくても、クーラーの効いた部屋の中で映画でも見ながら寝っころがってポテチをかじっててもいいのである。

自転車に興味がない人から言わせれば、「いい年した大人が何を好き好んでこのクソ暑い中、山なんて自転車で上ってるの?バカ?バカなの?!」と思われるかもしれない。

幸い自分の周りには自転車バカが多い。うちのチームメンバーは40代の人が多いが、毎朝活動的で、20代や30代のレーサーよりよっぽど速かったりする。日本人のライド仲間やブログ上での知り合いの方など、自転車バカばっかである。

ロード乗りの行動のそれは、達成感や爽快感を求めるために乗り換える苦労であり、まさしく快楽を求める脳そのものである。或いはそれは肉体的にも精神的にも強い自分になるための自己研鑽かもしれない。

怠惰な心に鞭打って、自ら苦しみに向かっていくその姿は、自己を律する心であり、自己に打ち克つ意思、克己精神に他ならない。

つまりロード乗りは、主体的で活動的な、自ら苦労して価値を求めるタイプの人が多いと思う。

というわけで、自分はそんな自転車バカが大好きである。

みんな、馬鹿でありがとう。




4 件のコメント :

  1. 自転車バカと呼ばれることに何だか喜びを感じる今日この頃(・∀・)
    それはそれとして今日落車しました。
    走ってる途中で突然の豪雨、そして道路の白線で滑って落車したんですが(;´д`)
    ��あ、傷の方は大した事ありません。肘肩腰の打ち身と擦過傷を少々と、リアディレイラーがちょっと削れただけです)
    しかし落車している瞬間とその後、自分の身体よりもロードの方を心配&確認した自分は確かに自転車バカだと思います(笑)

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  2. なんと、落車大丈夫でしょうか…。私も最近あっただけに人ごとではないです。
    それにしても、後ろから他の自転車や車が来てなくてよかったです。
    私も自転車をかばってしまうので人のこと言えませんが、やはりいざというときは自分の体を最優先にしたいものですね。
    命に別状はなくても足に別状があったりしたら大変なので。自転車は買い替えれますけど、鍛え上げた自分の脚は替えが効きませんから…。

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  3. 自転車バカの一人です。
    レースに向けて装備も整え、調整も終わり少しづつ気持ちも高ぶってきました。
    毎週レースやっている方から見れば、かわいいもんでしょうが。

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  4. わかります。レースが近づくとアドレナリンが出てくるというか気合いが入ってきますよね。
    レースペースは人いろいろなのでご自分のペースで進めればいいと思いますよ。実際チームメンバーでも年に数回しかレースを走らない(でも速い)人もいますし。
    私は今から雨の中レースに行ってきます。

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