仮想通貨のビットコインで誤解していた「第三者が介在しない」のウソ



最近、日経新聞でも仮想通貨やビットコインの記事を目にすることが多くなった。


日本政府も、2014年には「通貨ではない」という政府見解を出していたが、2016年には一転、貨幣として認定するようになった。

ビットコイン「通貨ではない」 初の政府見解

ビットコイン、「貨幣」に認定 法規制案を閣議決定


ビットコイン長者という言葉まで生まれ、「ビットコインがそんなに知名度がなくまだ安かったころに、ある投資家がビットコインに10万円を投資して数年寝かせた結果、なんと2億5,000万円にもなった」という事例もあるらしい。

ビットコインを構成しているブロックチェーンは夢の技術だといった論調もあり、猫も杓子も仮想通貨バンザイ状態。

一方で、その「一般人には良く分からない仕組み」を利用して、仮想通貨詐欺が全世界的に横行しているのもこれまた事実。

ビットコイン詐取容疑 警視庁、男3人逮捕 

中国、香港、台湾でアジア仮想通貨犯罪相次ぐ


総じて、経済誌は技術的な部分の裏付けが不十分な記述で褒めるか貶すかしており、技術的な記事では経済や政治、投資的な視点が抜けていたりで片手落ちなイメージ。

どちらも全体像が見えない中で賞賛するかディスるかといった、かなり偏った記事も多い印象を受ける。

ということで、仮想通貨で一番成功、普及しているビットコインについて、一般的に言われていることを検証する形で、自分自身の整理として現状の認識をまとめておきたい。


第三者が介在しないのウソ


自分が一番疑問に思ったけどよくわかってなかったのが「第三者が介在しないので既存の銀行システムより優れている」といった部分。

「必要なのは、取引相手が信用できるかどうかではない。必要とされているのは、暗号技術に基づいた電子取引システムである。これによって、取引を希望する2者が、第3者機関を介すことなく直接取引をすることができるようになる」

これが実現できれば、第3者機関に支払うコストが不要となって少額決済が可能となり、それが経済の発展に寄与する


「ビットコインは怪しい」と思う日本人が知るべき仮想通貨の未来=俣野成敏


東洋経済の記事ではブロックチェーンの説明がされているが、これも概念的なもので、その実態を知るには不十分である。

ブロックチェーン・ネットワークの参加者は、カネやモノの取引をすると、それらの取引データをブロックにして、各参加者のパソコンなどで保管する。各参加者が保管するデータは同じでなければならないので、相互にブロックのデータが同じであることに合意しながら、参加者全員がすべての情報を共有していく。「分散」「合意」「共有」というコンセプトがブロックチェーンの特徴だ。もともとブロックチェーンは、ビットコインを起源とした技術であり、中央集権的な組織や国家に依存せず、誰でも参加できる取引の実現を目指して生まれたものなのである。

そのメリットは、①過去の情報からのデータを要約し、新しいデータを加えながらブロックをつなぐため、データの改ざんが難しい、②分散型ネットワークなので、ある人のパソコンが壊れても、他の人が同じ帳簿を持っているので障害に強い、③個人と個人が直接結びついて取引ができ、銀行や仲介会社を介さずに送金などができるため、仲介コストが省け迅速に取引できる、といったものだ。


「ブロックチェーン」は世界をこう一変させる


この記事では、あたかも参加者全員で情報を共有しているので安全だというような論調だが、例えば自分がスマホで1BTC(BTCはビットコインの通貨単位)の送金をした場合でも、自分のスマホの中に過去の他人の取引履歴も含めて全台帳情報が保存、共有されるわけではない

そんなことをしたらスマホ内のストレージを全部使っても保存できないデータ量になるし、ネットワークのデータ送受信で通信料もとんでもないことになるだろう。


そこで過去との連続性を保証するのが、有効な(0が特定数連続している)ブロックヘッダーのハッシュなわけで、そのハッシュを前後ブロック間で繋ぎ合わせる(Chain)ことで文字通りブロックチェーンとなっている。

自分はプログラム言語で使われる連想配列としてのハッシュ関数くらいしか仕事で使ったことはないが、ハッシュの中身自体は通常のプログラミングでは気にすることすらないランダムの文字列で、意図的に0が頭に連続するハッシュを作ることなど容易ではない。

そしてその有効なハッシュができるための文字列(Nonse)を総当り計算で見つけ出すことで、取引の承認、実行とその正当性の保証(プルーフ・オブ・ワーク)を実現させているのが採掘者(Miner)という処理能力提供者である。

つまり、ビットコインの取引処理というのは、採掘者という第三者の存在によって担保されているわけである。

ちなみにこちらのサイトで、実際に最近作成されたブロックとそのハッシュ(BlockHashの箇所、0が連続しているのがわかる)、最新のトランザクションがリアルタイムでどんどん生成されているのを見ることができる。




よって、上記引用内で書かれている「③個人と個人が直接結びついて取引ができ、銀行や仲介会社を介さずに送金などができるため、仲介コストが省け迅速に取引できる」というのは、結局は採掘者という第三者の処理コストを介して送金をしているわけで、決して取引当事者の二者間だけで全ての処理が完了しているわけではない

そして採掘者は、処理能力を提供した見返りとして、ビットコインという手数料を受け取っており、その手数料として得られるビットコイン(正確に言えば、有効なハッシュになるためのNonseを総当りで見つける処理作業)を指して「採掘」と呼ばれているわけである。

ということは、最初に引用した「第3者機関に支払うコストが不要となって少額決済が可能となり」というのは限りになくウソに近く、今現在は手数料が他の決済手段に比べて少ないものの、決してコストが不要になっているわけではない


それどころか、採掘のことを調べれば調べるほど膨大なコストと問題が噴出していることがわかる・・・



採掘の現場


採掘というのは「取引承認のための処理能力の提供」で、コンピュータを使って処理能力を提供すればその見返りとしてビットコインがもらえる・・・。


ビットコインの取引処理(=採掘)の概念がわかったところで、では実際にはどのように採掘しているのか。


そこで参考になるのが、実際に採掘をしてみたというこちらの記事である。

結論から言うと、家庭用パソコンでは全く採算が取れず、電気代はかかるし熱くて触れないほど発熱する。

USBの発する熱が想定以上だった。マイニングを始める前から知ってはいたものの、冬の間なら暖房代わりになるから逆にコスト削減になるのではないかという甘い考えが一瞬にして覆された。ピンポイントでUSBだけが高熱になり、引き抜く際も熱くてやけどに気をつけなければならない。また、マイニングできていなくても、パソコンに差しているだけで熱くなる。マイニング挑戦者の方は扇風機を用意しておくべきだろう。

結論:扇風機は不可欠、報酬はほぼゼロ

さらに、USBのマイナーを使ってマイニングした場合にどれだけのビットコイン報酬がもらえるのか、無料のサイト(Bitcoin Mining Calculator)を使って計算した結果がこちらだ。

一日で稼げる額:0.00000231btc =約0円
1週間稼げる額:0.00001619btc=約1円
1か月で稼げる額:0.00007039btc =約2円


編集部コラム:マイニングに挑戦!


なんと家庭用ノートパソコンの性能では1ヶ月で約2円・・・。

自販機の釣り銭でも探してた方がよっぽど儲かる気がする。

昔はまだ家庭用パソコンでもそれなりのビットコイン(手数料)がもらえたものの、今や(といっても記事は2015年12月時点)家庭用パソコンでは電気代すらまかなえなくなっている。

そのため、ASICと呼ばれる、採掘に必要な処理能力に特化した専用マシンを使って採掘するのが一般的らしい。


そうしてASICを使って採掘してみたというのがこちらの記事。

一般的な日本人の感覚で採掘をするとどういうことになるかが赤裸々とレポートされている。

ヤフーオークションで手頃な価格?なマシンを購入したものの、
お値段¥80,000円。これで先月と合わせて、
11万円以上も設備投資してるぞ???
妻に内緒のヘソクリも底をつきそうだ!

そしてすごい熱風だ!ファンの音で家族が騒然!

お父さん、タイムマシン 作ってるの???

家族が父部屋を覗き込んでは、何が起きたの??と聞いてくる。
ファンの音が鳴り響く中、部屋のあちこちで緑色のLEDがめぐるましく高速点滅!
採掘機の廃熱で室温30℃。この部屋、クーラーないんだが。



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先月の採掘電気代2万円!!

1万円の納入で妻に許してもらいました。
(通常、我が家の1ヶ月の電気代は5千円くらい。。)
800wを24時間30日使うとこうなります。

マシンを売却!最新型を個人輸入し計算パワーをUP!

計算難易度が上がりすぎて、1日あたり800円程度まで落ち込む。
もはや消耗戦の様相に。

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約5ヶ月、お小遣い制お父さんが本気で採掘してみた結果、投入費用15万円に対して約9万円分のビットコイン(投入額の60%)を採掘できました。

でも、電気代が収入の半分近くかかっています。したがって、5ヶ月間での回収率は30%というところです。


公開するよ。ビットコイン マイニング(採掘)は儲かるか? 〜暗号通貨5ヶ月採掘体験記〜


これを読んでみてわかるのが、「割に合わない」ということ。

さらに採掘報酬レートも、ビットコイン自体の価値もかなりのボラティリティで動くので、今は採算が出ていてもすぐに採算割れになりかねない。

事業として行うのはもちろん、個人的なお小遣い稼ぎとしてやるのにも適さない。

こういったことを総合すると、日本やアメリカの環境では、採掘というのは全く割に合わない作業だということになる


となると、採掘で利益を出せる場合というのは限られてくる。

つまりは・・・、

  • 電気代がかかる→電気代が安い国
  • 廃熱がひどい→年間を通して気温が低い地域 で大規模な冷却システムを構築
  • ASICの機器等設備投資→機器が安く手に入る、工場等で大規模導入してスケールメリットで経費を抑えられる

上記条件を満たす場所となると、電気代や土地が高い先進国は限られ、必然的に条件に適した場所に採掘工場が集中することになる




採掘者の実態


その結果、今や採掘作業の7割が中国の山奥で行われている

BBCは、チャンドラー・クオ氏というビットコイン起業家のガイドを受けて、最新の施設を見せてもらったそうです。現在、中国政府のビットコインに対する姿勢が不明瞭なため、施設の所在地は明かせないという条件ながらも、酸素ボンベを持参する必要があるような山地だったとのこと。

クオ氏によると、家族が牛を育てる牧場を経営していて、お金が貯まったのでビットコインへの投資を決めたそうです。このとき、1BTCの価値は450ドル(約5万円)で、採掘用マシンを動かし続けることで1日に50BTCが掘り出せます。

クオ氏が事業を始めたのは2014年。その当時、世界のビットコイン採掘のうち中国が占めていたのは40%ほどでしたが、2016年現在は70%にまで増加しており、とても重要な位置を占めているとのこと。クオ氏はすでに2つの施設を所有していますが、現在もう1つ新しい施設を建設しており、そこが完成すれば「世界の3割の採掘を担うことになる」とのこと。


Bitcoin採掘の7割を中国が占め、元開発者が「実験は失敗だった」と表明


最初の設計思想通り、多種多様な採掘者が世界中に散らばっていれば、完全な分散型ネットワークで信頼性も保たれたであろう。

が、市場原理による淘汰の結果、7割の採掘が中国で行われているというのが現実である。

The four warehouses measure around 3,000 square meters each.


さらに、ビットコインの信頼性は、台帳情報が分散された場合の多数決という合意形成による正当性保持なのだが、上記引用の会社が「世界の3割の採掘を担う」ようになれば、51%以上の台帳を確保することで多数決ルールを逆手にとった改竄ができるリスクが高まってしまう。

悪意のあるグループまたは個人により、ネットワーク全体の採掘速度の51%(50%以上)を支配し、不正な取引を行うことです。これにより二重支払いが可能になるため、「二重支払い攻撃」とも言われます。
これは、最も長いブロックチェーン中の取引が正しい取引として認識される、というビットコインの性質によるもので、仮に悪意のある攻撃者が他の世界中の採掘者すべてを上回る速度で採掘を行うと、攻撃者が行った不正な取引(ブロック)が「正しい」ものと認識されてしまいます。
通常、50%以上の採掘速度を確保するのは非常に高コストであるため、現実的には難しいとされていますが、2013年12月には、Ghash.ioというビットコインのマイニングプールの採掘速度が50%を超えそうになり、この51%攻撃が大きな話題となってビットコインの値も下がりました。また、ビットコイン以外の参加者が少ない暗号通貨では、全体の採掘速度が小さいため、より51%攻撃の危険性が高いということが言えます。

51%攻撃 / 51% attack



ビットコインの取引処理は契約義務のないアウトソースでしかない


こうした一極集中の採掘現場を見てわかることは、結局、ビットコインのブロックチェーンによる決済処理システムというのは、人件費や設備投資費が安い国への無責任なアウトソースでしかないということである。

中国の採掘工場とは決済処理データセンター以外の何者でもなく、銀行が自前で抱えているシステム設備投資が、ビットコインでは中国の山奥で同様に(見たことも聞いたこともない誰かによって)実現されているだけである。

A view inside the mine at night.


IBMのAS400といった旧基幹業務処理システムの変わりにASICというサーバーが使われ、日本にデータセンターを作る代わりに、中国の山奥で決済処理センターが作られている。

一番の違いは、自前のデータセンターであれば自家発電システム等々のバックアップ体制や、最終的にはその銀行が責任を負うという責任の所在があるが、中国の山奥の場合はそもそも契約自体が存在せず、彼らは何の義務も負っていないということである。

一方で、7割もの処理を担当している企業は、株式会社の大株主のようにビットコインの仕様に対する発言権を得ることになり、上記51%攻撃のようなリスクも顕在化する。

そして一番の問題は、その中心が中国であるということで、今や決済処理だけでなく取引も9割を中国が占め、ビットコインの開発者の1人もそれに対して失敗との表明をしている

ビットコイン取引最高、11月15兆円超 9割が中国

「ビットコインは実験として行っている」と常々語ってきたハーン氏は、ビットコインがはじめから失敗するかもしれないことは分かっていたものの、こうして失敗が不可避の状況となったことを悲しんでいます。

「失敗が不可避」となった理由としてハーン氏が挙げたのは「コミュニティの失敗」。システムは一握りの人間によってコントロールされた状態となっていて、さらに悪いことに、ネットワークが技術的な崩壊の瀬戸際にあるとのこと。

ハーン氏は
・持っているお金を移動させられない
・高額な手数料はあっという間にさらに値上がりして予測不可能
・買い手がお店から出てから、ボタン1つで決済を取り消せる
・大量の『未処理』と、決済のドタキャンがある
・これが中国のコントロール下にある
・会社、そして関わる人々が『内戦状態」にある
……という、こんな決済ネットワークを誰が使いたいのかと痛烈に批判しました。特に、中国のマイナーたちがマイニングの70%を握っている現状は、まるで「安いホテルのWi-Fi」で全世界を接続しているように速度が遅くなっていると表現。


Bitcoin採掘の7割を中国が占め、元開発者が「実験は失敗だった」と表明


そして、この「コミュニティの失敗」については、こちらの仕様変更について混乱している記事でその内情を知ることができる(記事内の「マイナー」とは採掘者(Miner)のこと)。

この香港合意はあくまでマイナーたちを中心としたものだったため、開発者たちが反発。これに対して、世界最大規模のマイニング施設を運営している中国のマイニング企業・Bitmainが、香港合意を尊重した形でハードフォークがリリースされなければSegwitを導入しないと表明し、開発者と対立姿勢を見せました。
また、世界最大級のビットコインのオンラインウォレット・Coinbaseのブライアン・アームストロングCEOは香港合意に反対し、Classic支持を表明しています。
いつまでも先送りにすることはできないのですが、諸々の事情が絡み合って、まだこの問題の結論は出ていません。


Bitcoinが抱え解決が求められている「ブロックサイズ問題」とは


結局、個人で採掘に苦労している人も、企業として採掘工場を経営している人も、明らかにビットコインの取引をする二者以外の「第三者」であり、ビットコインの処理システムとは自動で完結する夢のブラックボックスでもなんでもない


そして恐ろしいのは、実際にビットコインを使っている人でも仕組みをよくわからずに使っている人がいるということ。

調査結果では、Bitcoinを使ったことがある人もシステムを誤解していたり、まったく理解していない事が判明。さらに、Bitcoin利用者は、実際のセキュリティやプライバシー保護機能以上の能力をBitcoinは備えているという勘違いを基に、Bitcoinに対して「信頼」を寄せていることが分かったそうです。

仮想通貨Bitcoinの利用者と非利用者は「仕組みをよく分かっていない」という点で共通していることが判明


そういう自分も調べてみようと思ったつい最近までは、新聞の記事で見かけていただけで、具体的なハッシュのデータ構造や採掘者にインセンティブを与える仕組みを知らなかった。


ただ、これらの問題点はブロックチェーン自体の技術とは切り離して考えなければいけない。

ビットコインの改善版であるビットコイン2.0や、大手金融機関やクリアリングハウスなどが主体となって共同開発が進められているR3など、ブロックチェーンにも様々なアプローチがあるので、「誰か知らない第三者がやってくれる」というビットコインのブロックチェーンとは違った(クローズド型の)仕様であれば、運用を進めてみたら中国企業に基幹処理が握られてしまったといった問題は回避できるであろう。

一方で責任者が管理するとなると、ビットコインの特徴のひとつである自由かつオープンなプラットフォームという特性は失われ、トレードオフの関係になる。

規制か自由かというのは、むしろ現在の資本主義や、金融規制議論の構造にも似ているところがあり、それぞれのメリット、デメリットを補完しつつ、中間点を探して落ち着いていくのであろう。

なんにしろ、日進月歩で変わっていく世界である以上、昨日通用していたことが明日には通用しなくなるかもしれないし、その逆も起こりうるのがこの世界なのかもしれない。





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