スクワット型よりデッドリフト型ペダリングへ

バイシクルクラブの記事に見るペダリング型


ミッドフットクリートについてはバイシクルクラブの2017年5月号、同7月号にて特集が組まれていた。

5月号は導入記事のようなもので、ミッドフットクリートの紹介とヒルクライムでの試走結果。



ヒルクライムといっても2分ほどという短い距離なので、VO2Max走(5分間全力)よりも更に短時間全力走に近く、ミッドフットクリートで効果が期待される1時間程度続くクライムやTT向けの検証としては微妙・・・



さらにミッドフットクリートとノーマルクリートを交互につけてテストしているのだが、普段ノーマルクリートで慣れた状態でいきなりミッドフットクリートにしているようなのも残念。

ミッドフットクリートにはミッドフットクリートなりの体の使い方があるので、少なくとも数ヶ月か数千kmミッドフットクリートに乗り慣れて「ミッドフットクリート使い」になってからテストしないとミッドフットクリートに適した本来の実力を発揮できないだろう。

一方で7月号はもっと深く、ペダリング時の踵の軌跡や、脚の主動筋など、体の使い方に焦点をあててくれている。



この中で紹介されていたのは、通常クリートはスクワット型向け、ミッドフットクリートはデッドリフト型向けということ。



体の使い方によって区別するならその通りだが、違和感を感じたのはその説明の仕方・・・

要約すると、「スクワット型のペダリングの人は通常クリート、デッドリフト型の人はミッドフットクリートにするといいだろう」という論調。


いやいや、順番が逆でしょう・・・。

取るべきアプローチとしては、今の自分がスクワット型かデッドリフト型かではなくて、自分が目指すべきはスクワット型かデッドリフト型のどちらなのかで決めるべきだろう・・・。

たとえば身長180cmの人がサイズ50cmのフレームに乗るなという論理展開ならまだわかる。なぜなら身長というのは(成長期を過ぎたら)変わらない定数であり、「フレームサイズに合わせて身長を変える」という選択肢がないからだ。

一方で、ケイデンス70rpmの人にとっては、ケイデンス70rpmは変えられないという前提で最大出力を出す方法を悩むより、そもそものケイデンスを90rpmにして出力を上げるという選択肢がある。なぜならケイデンスというのは努力次第で変えられる変数であり、それ自体が改善項目となるからである。

同じことが筋肉の使い方にも言える。

今大腿四頭筋を使うペダリングをしているからクリート位置をそれに合わせるのではなく、「どの筋肉を使ってペダリングしたいか、使うべきか」というアプローチから決めるべきではないだろうか。

ちなみに「結論」としてまとめられている「ミッドフットソールクリートがお薦めな人」は以下の通り。



「モモが上がらない」は股関節屈曲ができていないということ。スプリントは大腿四頭筋、反り腰にしろ踏み始めにしろ、どれも体の使い方やどの筋肉を使うかの話しで、努力次第で変更可能な部分

提案されているのは「現在の体の動きに合わせて決める」という手順で、やはり、「そもそもどういう体の動きを目指すべきか、どの筋肉を使うべきか」という視点が欠けている・・・。

例えば「モモが上がらない」だが、股関節屈曲に関わる筋肉は腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)、大腿直筋、縫工筋。

この点、大腿直筋は二関節筋(股関節と膝関節に作用)で、膝関節が伸展状態時の股関節屈曲に使われるため、膝関節が屈曲状態で股関節屈曲が行われるペダリング動作では主動作筋にはならず、ペダリングで「モモが上がらない」ということは即ち腸腰筋と縫工筋を使えていないということがわかる。

長時間一定出力で目指すべきペダリング筋肉


ではどの筋肉を使うべきなのだろうか。

ここで自分はヒルクライムとタイムトライアル中心なので、「長時間一定出力を維持するのに適した筋肉」という観点から考察してみたい。

せっかちな方のためにいきなり結論を書くと、大臀筋、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、内側広筋、内転筋を意識して使えることを目標としたい。

いきなり筋肉の個別名称が来てニヤニヤしている方もいると思うが、なぜこれらの筋肉を使うべきにいたったのかを解説していきたい。

遅筋か速筋か


まず最初に考察すべき点は、遅筋か速筋かという違いであろう。

ご存知のように、筋肉には低強度長時間出力に秀でた遅筋と、高強度短時間出力に秀でた速筋とがあり、人によっても個人差があるが、筋肉部位によっても個々の筋肉で割合が異なる

つまり、トラック競技やスプリントのような高強度短時間の出力の場合には速筋、1時間のヒルクライムやタイムトライアルような、低強度長時間の場合には遅筋が優位ということになる。

そして以下が下肢の筋肉群における速筋、遅筋割合。Type IがSlow Twitch Fiber(遅筋繊維)、Type IIがFast Twitch Fiber(速筋繊維)であり、中央の50%ラインより上の場合は遅筋優位、下の場合は速筋優位となる。



この割合を見ると、下肢の筋肉の特徴としては以下が挙げられる。

  1. 距腿関節の底屈は遅筋優位
  2. 大腿四頭筋は速筋優位
  3. 姿勢維持筋は遅筋優位

ひとつひとつ掘り下げてみたい。

1.距腿関節の底屈は遅筋優位


距腿関節(足関節)を底屈する際の主動作筋であるヒラメ筋(Soleus)と腓腹筋(Gastrocnemius)はどちらも遅筋優位である。

自分自身ヒラメ筋と腓腹筋の遅筋優位を感じた事例は2つある。

1つ目はカーフレイズ。

遅筋優位だからか、高レップス続けても疲れにくい。

逆に言えばボディビルダー泣かせの筋肉とも言われており、海外のボディビルディングフォーラムを見ると、カーフ(ふくらはぎ)の筋肥大ができずに悩んでいたり、その解決策を特集している記事もあるくらいである。

2つ目は自動車の運転。

自動車でアクセルやブレーキを踏む動作は全て距腿関節の底屈である。

もともと筋肉が成人男性に比べて発達していない女性や高齢者でも、日常的に鍛えていない人でも、長時間使い続けられる疲れにくい動作(距腿関節の底屈動作)だからこそ自動車の制御に使われているのではないかと思うと納得がいく(考えすぎかもしれないが)。

2.大腿四頭筋は速筋優位


一方で大腿四頭筋は速筋優位。

大腿四頭筋といえば膝関節の伸展に作用し、まさに自転車でのメイン筋肉といっても過言ではない筋肉である。

が、大腿四頭筋のうち、大腿直筋(Rectus Femoris)と中間広筋(Vastus Intermedius)はどちらも速筋優位で、外側広筋(Vastus Lateralis)はほぼ中間。

大腿四頭筋で踏むと疲れやすくて長持ちしにくいというのも納得である。

逆に言えば、スプリントのような短時間高出力にはむしろ大腿四頭筋中心でガツンと踏んでやれということになる。

ただ内側広筋(Vastus Medialis)だけは遅筋優位。

結局ペダリングでは、どれだけポステリオール筋肉群を使おうが股関節伸展を使おうが、完全に膝関節伸展を使わないことはできず、膝関節伸展に使う筋肉の疲労は避けられないことを考えると、内側広筋中心に遅筋優位の膝関節伸展を実現させるというのが理想である。

3.姿勢維持筋は遅筋優位


大臀筋(Gluteus Maximus)とハムストリングスは遅筋優位。

どちらもポステリオール筋肉群で、いわば体の後ろ側の筋肉である。

上半身のヒッティングマッスルにしろ、体の後ろ側の筋肉というのは、目で見えないため意識しにくいがめちゃくちゃ重要である。



ポステリオール筋肉群が遅筋優位なのも、上掲した自動車の話と同じく日常生活の中からその理由がわかる。

ニュートンが重力を見つけたように、我々は常に地球に体重分の重力を引っ張られ、その分だけ垂直抗力を発揮して重力に逆らって生きている。

歩いているときはもちろん、ただ単に立っているだけでも、体重60kgの人であれば60kg分の垂直抗力で地球に対して押し返しているのである。



60kgのバーベルを1時間持ち上げ続けるのがいかに大変かということを考えれば、体重の重力分を常に支えているというのはかなりの長時間筋出力なわけである。

つまり我々は日常生活の中で常に重力に逆らって姿勢を維持しているので、姿勢維持筋が低強度長時間に特化した遅筋繊維優位だというのはむしろ人間の身体構造上当然の帰結なのだと言える。

例えば歩いているときに、お尻の上の方、背中の腰骨の下に手をあててみて欲しい。前に出した脚に体重を乗せるとき(上半身の荷重を前脚に移すとき)に臀筋が収縮して固くなっているのがわかる(前脚に荷重を乗せる=ペダリングの股関節伸展動作)。このように、姿勢維持筋は日常生活の中で常に使われ続け、鍛え続けられているのである。

となると辿り着く結論は、「姿勢維持筋をペダリングに使わない手はない」のである。

デッドリフトと臀筋とハムストリング


そしてデッドリフトの主動作筋こそ、姿勢維持筋たる臀筋とハムストリングスの遅筋優位筋群。

このように、「どの関節動作を、どの遅筋繊維を使いたいか」というアプローチから考えていくと、おのずと自分が目指すべきペダリングはスクワット型ではなくデッドリフト型であることがわかる。

となると、まずデッドリフトという理想とする動きがあり、クリート位置やポジショニングを調整することでいかにペダリングの動きをそれに合わせていくかという方向性になる。

まあデッドリフトの場合、初動は膝関節伸展優位で始まる※ペダリングとは異なり、むしろ股関節伸展にフォーカスするならルーマニアンデッドリフトの方が近いのだが・・・(※経験のある方も多いと思うが、デッドリフトを股関節伸展優位で始めるとバーベルで脛を擦って流血する)。

まだまだオフシーズンは始まったばかり、PDCAサイクルを繰り返して理想の動きを追求していく旅は続く。



2 件のコメント :

  1. やめてひさしいosymetricを使いたくなってきますね!

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    1. すでに処分してしまって在庫なしですがたしかにどうなるのか試してみたくなりますね。

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