次の暴落を予言するチャート

最近軟調なマーケットですが、単なる調整なのか、新たな金融危機の予兆なのか、最近のデータを分析するといろんなものが見えてきます。

強い雇用統計とインフレの裏にあるもの

3月の雇用統計は予想以上に強い結果になってインフレの底強さを見せつけてきました。

ただ内訳を見ると景色がずいぶん変わってきます。雇用の大部分が低賃金のサービス業(レストラン、小売り、レジャー、接客業など)であり続けている一方、テック、金融業界を始め、ホワイトカラーのフルタイムジョブ※は大規模なリストラが続いています。というか自分の周りでも首切られまくっています

実際、昨年以来、非正規雇用は180万人増加しましたが、正規雇用は135万人減少しています。(※日本の定義と厳密には異なりますが、わかりやすいようにフルタイムジョブ=正規雇用、パートタイムジョブ=非正規雇用と書きます)

米国で働いている身として注目すべきことは、ここ数年間の米国への移民の急増に対して、正規雇用の割合がどんどん低下していることです。個人消費は米国の経済成長の7割近くを占めていますが、それを押し上げる原動力となっている正規雇用が減っていることは将来の景気後退の先行指標としてみることができます。

正規雇用と不況との関連性

この点、歴史的にみて正規雇用の年間変化率がゼロを下回ったときは経済が不況に突入しています

2000年のドットコムバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年のコロナショックと、正社員の減少に合わせてクラッシュが起こっています。

そして今回、3月時点でまだマーケットは好調な段階にも関わらず正社員は前年比マイナス1%でマイナス圏に突入しました。

移民については多くの議論が行われていますが、ほとんどの議論は合法移民と不法移民を区別していません。日本のニュースを見るとアメリカの移民問題として報道しているものもありますが、あくまで問題になってるのは不法移民です。

日本で移民を受け入れるかどうかの議論は合法移民の問題ですが、もともと移民国家であるアメリカでは(どちらがいいかの是非は別として)合法移民を受け入れるのは大前提で、移民議論の発射台が違うことを認識しておかないといけません。

不法移民の議論はポリティカルな話にもなるので割愛しますが、不法移民が雇用と賃金に与えている影響についてはそれほど議論の余地はありません。 (不法移民でない)アメリカ人労働者※は高い賃金や福利厚生を求めるため企業のコストは上がります。一方で消費者は安値を求めるため、企業はコスト削減を迫られ、労働コストを抑えようとします。(※市民権およびグリーンカード等を持つ合法労働者。ソーシャルセキュリティなどの年金やMedicare、Medicaideの受益者でもある)

AIの発展とともにホワイトカラーの仕事が取って代わられ、正規雇用の需要がさらに圧迫されるなか、不法移民に対するアメリカ人の不満は反不法移民の票を取り込もうとしているトランプの後押しをすることになりそうです。

Margin Debtインパクト

さらに直接的にマーケットの「勢い」を決める指標がレバレッジの強さを示すMargin Debt(証拠金負債残高)です。証拠金を用いた証券取引 (マージン取引) と市場 (S&P 500) の相関性は高く、証拠金負債残高は最近では過去に例を見ないレベルで激増しています。

過去の例を見ても暴落前は必ずレバレッジが拡大されていました。レバレッジ=実際の資産以上に投資されている部分なので、レバレッジがかかればかかるほど実体経済以上にバブルが大きくなっているといえます。レバレッジは株価上昇の燃料になりますが、燃料が尽きて下がり始めればロスカットがロスカットを呼ぶため墜落したときの痛みは大きくなります。

「バブルがいつ崩壊するかを予測することは誰にもできない。ただしバブルはすべて崩壊してきた」というアメリカの経済学者、ガルブレイスの言葉が思い出されます。

Margin Debtは2020年のコロナショック時には縮小したものの解消されるには至らず、その後のジャブジャブ緩和もあってか足元ではかなり積みあがっています。今の高値がレバレッジをかけて膨らんだバブルである以上、逆回転を始めたときのインパクトを想像すると恐ろしいものがあります。

商業用不動産

最後に注目したいのはCRE(Commercial Real Estate、商業用不動産)です。

低金利時代のモーゲージが高金利の世界では爆弾になっています。FRBの利下げを見越して支払いを延期した結果、2024年に満期残高が積みあがることになりました。が、利下げ期待が後退している状況でこのまま高金利が続いて満期残高の壁にぶち当たってしまえば借り換えコストをカバーできなくなってしまうでしょう。

実際の不動産ビルの例でも、280パークアベニューは去年9月に元利が返済できず回収会社に渡り、360パークアベニューはCPPIB(カナダ年金制度投資委員会)が1ドルで売却、ピッツバーグのダウンタウンでは26棟が差し押さえの危機に瀕しています。

特にテック企業が多いサンフランシスコは空室率も高く影響は大きそうです。

今日発表のあったバンクオブアメリカの四半期決算ではCREの引き当てが積みあがってきましたが、ブルームバーグが指摘している「先延ばしと見ないふりの戦略」が通用しなくなってきている予兆とみることもできます。

利下げが急激に行われれば別ですが、バイデン政権下で不法移民が大量流入している今の状況が続けばインフレが収まらず、トランプが当選すれば関税強化と減税で物価高&インフレ再燃。皮肉なことですが大暴落が利下げを早める特効薬になってくれるのかもしれません。


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