新春長距離ライド in ニューヨーク その5: 三日目 チェーンとの格闘

■バックナンバー

その1:アメリカ本土最大の島はどこだ?
その2: ロングアイランド一周計画と準備
その3: 一日目 東へ
その4: 二日目 最果ての地へ


■出発

三日目。

5時半に起きて準備。
今日は早めに出て日が沈む前(というか帰宅ラッシュが始まる前)にマンハッタンに帰りたい。
というわけで防寒対策で一通り服を着て出発。

着替えやチェックアウト等していて結局ペダルをこぎだしたのは7時前。

今日は西進するのでほとんど向かい風。
しかも海と内陸部を交互に突き抜けるのでアップダウンも激しい。

かなり厳しいライドになるが、最終日ということで気合いと根性でやるしかない。


■チェーンオイル切れ

昨日は一日中プーリーの凍結に苦しめられてきたが、一晩部屋の中であったまって氷が溶け落ちたおかげか、変速もバッチリ。ガキンガキンすることもなくなった。ちなみに後になっても結局この日はプーリーが凍結することはなかった。ボトルケージのスポーツドリンクも氷結したのはちょっとだけだったので、この三日間では一番暖かった(といっても0度くらい)。

これでプーリー凍結に悩まされることなく走れる。

と思ったら、走るとチュラチュラチュラチュラという音が・・・
これは・・・、もしかして・・・。

なんとケミカル(チェーンオイル)が流れ落ちてしまっている。
思えば、雪しぶきを浴びながら二日間で約8万回もクランクを回転させているので、家で数十回クランクを回してチェーンを掃除するよりもよっぽど綺麗になっていたとしても不思議じゃない。というかこれまでで初めて見るほどの綺麗さだ。つまり、オイルは連日の雪中走行で綺麗さっぱり洗い流されてしまいましたとさ。(´・ω・`)



チェーンオイルは持ってきてなかったが、チェーンの摩擦抵抗が増えてペダルが重くなる&チェーン等が磨り減るのが早くなるというディスアドバンテージを受け入れつつ、半ばあきらめてチュラチュラチュラチュラいわせたまま走る。

チェーンの磨り減りを最小限に抑えるにはどうするか?

少なくとも交換したばかりのチェーンリングの被害を最小限に抑えるにはギアを重くすること。
ギアを重くすれば、同じ距離を走ったとしても、チェーンとチェーンリングの歯が噛み合う回数は少なくなるので噛み合う際に生じる磨り減りは減らせれる。

ということでプーリー凍結の恐怖から開放された今、自由にギアを変速して走る。

まずはロングアイランドでも名の売れた巨大アウトレットモールのTangerを通過。



そのまま進んでなんかハイウェイっぽいが気にせずに遥か先のNew Yorkを目指して進む。



三日間で最も暖かいといっても雪が溶けるほどではなく、周りは雪原状態。というか積もってる雪にロードバイクをおけばスタンドいらずで自立する。



そして今日ひたすら走っていくルート25Aに合流する。



ルート25Aは蛇行しながらもロングアイランド北部を東西に貫く幹線道路。



ロングアイランドの北側を西へ抜けていくが、まずは港町のPort Jeffersonを通過。ここでは一気にこれまで稼いだ高度を使い果たすダウンヒルが。Garmin 705のルート記録でも、速度や高度計からその様子が伺える。

で、Rocky Pointという街に入る。



アップダウンが激しく、上りではひたすら辛い時間が続く。

路面はところどころ凍結している。
雪と凍結のせいで、きつい登りでダンシングをしている最中に後輪が滑って空回りしガクンとなることもあった。


■チェーンがちぎれる!?

で、上りを繰り返していると、なんかチェーンがキシキシ、ミシミシ、ギギ・・・ギギ・・・と言い出す。
回転音のチュラチュラとは明らかに別の症状で、どうやらオイル切れで摩擦係数が高くなっているところに上り坂の強めのトルクがかかっているために、チェーンを軋ませているのだ。

まずい・・・。

このままだとチェーンがちぎれかねない・・・。

チェーンの磨り減りなんて、ライドが終わった後でチェーンを取り替えれば済む話だが、チェーンがちぎれてしまえばこの場での修復は不可能。そこでライド終了、山中で立ち往生である。

といってもこれまで三日間、一度もロードバイクを押さずにここまで乗って来たのだ。こんなところで坂道に屈して押すのは嫌だ。というわけでなんとかその場は漕ぎきって、どうするかを考える。

チェーンの負荷を最小限に抑えるにはどうするか?

答えはもちろん、「最も軽いギアで漕ぐ」である。もうチェーンの磨り減りなどどうでもいいので、ケイデンスで稼いで単体あたりのチェーンのコマに対する力の負荷を少なくするしかない!

というわけで結局プーリーが凍結した昨日と同様、一番軽いギアを中心に走ることになった。


■Route 25A

アップダウンを繰り返し、チェーンのチュラチュラ音を聞きながら、ひたすらルート25Aを西進。



ロングアイランド中部の北側にあるSt. Jamesを通過。



ルート25Aは路肩が広まったり狭まったり、山中では雪に隠れていたり、そもそもなかったり、車も右折してくるのでそこらへんに気をつけながら進む。

基本的に雪が積もってなくても微妙に凍結しており、路肩は白くなっている。



また海辺まで降りてCenterportを通過。というかまたすぐ上りがくるから大変だ。




■橋を越える

Hampstead Harborを越える際に、陸橋を兼ね備えた橋を渡る。

というのも水の部分だけ越えるのではなく、すでに陸上の手前から橋になっていて大きく空中を渡る感じだ。

が、どう見ても路肩がない・・・。

でもGarmin 705は直進を指しているし、橋の前はダウンヒルになっている一方で橋は上り坂なので、この勢いのまま突進する。

ちょっと大きい車やトラックでなくても、自転車を追い越そうとすれば確実に接触するだろという状態で走る。

��写真を取る余裕がなかったので、以下Google Mapのストリートビューを表示しておくので様子を見てみてほしい。)

View Tour de Long Island in a larger map

幸い西向きは2車線あり、自分がいない方の車線を何台も車が通り過ぎていってる。

ただ車線間にはコンクリ製のガイドがあり、一度橋に入ってしまったら車線変更ができないようになっている。橋に入る前から自分が見えてるうちは、後ろの車ももう一方の車線の方に入ってくれると思うが、橋の中央付近までいってしまうと橋進入付近からは見えなくなるので、自分の車線側に車が来たらと不安になる。

あいにく向かい風は強いし、標高的にも高いところが向こう側になっているので橋は延々と上り。

しかもチェーンの問題でギアもローで回している。

でも運がいいのか、不安になりつつも自分の車線には全然自動車が走っていない。

やっと橋の出口が見えてきたところで、かなり後方からのクラクションで自分の車線が渋滞になっていることを知る。というか、すぐ後ろやその後ろの車は、自分が見えているからかクラクションも鳴らさずに、ゆっくり後ろに付いてくれていた。べつに他の車が運良く別車線を走ってたわけでなく、自分の車線は一台のロードバイクのために徐行してくれていたのだ

ありがとう(´;ω;`)

アメリカと一括りにいってしまっていいかどうかはわからないが、少なくともロングアイランドは自転車にやさしい。マンハッタンはそうとはいえないところがあるが、郊外に行けば行くほど、渡ろうとしてれば先に行かしてくれる車が多いし、ロードバイクというスポーツに対する寛容がある気がする。というかこんな極寒の中でライドしてる自分を憐れんでくれてるのかもしれないが。

渡り終えると片手を挙げて御礼をしつつ道路脇(といっても路肩はないので段差を上がった草むらの中)で止まる。びゅんびゅん通過していくお待たせしてしまった車が一通り通り過ぎた後でライド再開。


■自転車屋はどこだ?!

こんな状態で走行しつつも、自分は常にあることに気を配りながら走っていた。

自転車屋はないか?である。

チェーンオイル(ルーブ)が洗い流されてチュラチュラ走行を余儀なくされていたが、もちろん自転車屋があれば補給したい。まあ実際は途中で見過ごしてしまったものもあったかもしれないが、とりあえず自転車屋の存在を気にしつつ走っていく。

幾度となくアップダウンを繰り返し、獲得標高(上ったトータル高度)は1000mを越えてきたところで、街並みが変わってきているのに気付く。

これまでは、街→山中→街→山中の繰り返しだったのが、街→街→街→街になっている。もちろん街といっても人が多い街の中心から、人が少ないところまであるのだが、少なくとも人っ子一人歩いていないような森林に囲まれた道を走るようなことがなくなった。

ニューヨーク市に近づいている・・・。

そう思うと気力が湧いてくる。

以前どこかで聞いた話だが、北極横断中の冒険家が、体力が尽きかけて心拍も低くなっていたときに、遠くに海が見えたことで、心拍も正常に戻ったらしい。

ゴールが見えれば体にも気力が蘇る。これは希望というものがいかに人間のパフォーマンスに影響するかを表している。人間は感情の動物である。理論や数値は大事だが、最後に重要になってくるのは、気合いややる気といったものなのだ。

と、燃える闘魂状態で走っていると、右手に自転車屋 BrickWellを発見。



位置的にはLittle Neckというニューヨーク市クイーンズのすぐ東にあるところ。

自転車屋の中に入るとダホンやロードバイクも並んでいてなかなかいい感じの店。奥から若い男性が出てきてHiと話しかけてくるので自分もHi。

「ルーブが切れてチェーンがやばいことになってるから、とりあえずルーブをくれっ!今付けたいからちっちゃいやつでいい」と訴えて、すぐにルーブを出してもらう。ぶっちゃけこんな状態なので残りのライドの油さえ補給できればなんでもいい。100ドルだって払う。


とりあえずルーブが補給できたので会計をしつつ世間話。

店員:「外は寒いか」

自分:「めっちゃ寒いよ」

店員:「シティ(ニューヨーク市)に帰る途中か?」

自分:「そうだ」

店員:「どこまでライドしてきたんだ?」

自分:「Montauk Pointまで」

店員:「・・・」

店員:「バイクでずっと行って来たのか?」

自分:「ああ、そうだ」

店員:「何日かかったんだ」

自分:「一昨日マンハッタンから出発して、今日が三日目だ」

店員:「クレイジーだ」(嫌な感じではないニュアンスで)

自分:「ロングアイランド一周中に、雪や水、泥の跳ね返りでルーブが切れて・・・」

などと現状の状態を説明。

もう1人のメンテナンスしてくれる店員Bが出てきたのでせっかくだからのその人にその場でルーブをつけてもらう。店員Bがロードバイクをスタンドに吊るしてとりあえずチェーンを回すとチュラチュラという音がして「Oh・・・」とこりゃまずい的な反応をされる。

自分は家ではコマごとにつけていくが、手馴れた感じでプーリー部分を中心につけてリアディレイラーを変速しながらならしてくれる。

「いいバイクだ」とお決まりの(でも嬉しい)文句を聞きつつ、「でもかなり汚れてるから一度一日くらいメンテナンスで入院させた方がいい」と言われる。まあこれだけぐちゃぐちゃになればそれも致し方なしだろう。

その後ステム部分もチェックしてくれて、ちょっとガタが出てるところを簡単に直してくれた。

こちらは指定トルクで締めてもちょっとガタが出ていたのでそのまま走っていたのだが、さすがはバイクのメンテナンスで飯を食ってるだけあって、トルクレンチも使わずに肌感覚でキュッキュッと締めて直してしまった。すげえ。


■一路ニューヨークへ

ルーブを補給したおかげでチュラチュラ音はなくなった。

エンジンは相変わらず疲労困憊だが、ペダルも快調で一気にニューヨーク市のクイーンズに入る。と、いきなり車がすぐ前方に出て路駐のために右寄せしてくる。これまでのフレンドリーなドライバーと違ってシティに入った洗礼を受ける。やはりニューヨーク市は車の運転が雑というか荒い。

そうこうするうちにハングルの看板が一気に多くなる。クイーンズの東端にあるフラッシングだ。

フラッシングはコリアンタウン(韓国人街)とチャイナタウンが合体していて、メインストリートのチャイナタウンを一気に駆け抜ける。

これまでのルート25A爆走状態と違い、クイーンズに入ると一気に道が複雑になるのでGarmin 705を頼りに進む。



そのままブルックリンに入ってブルックリンブリッジに。



最初、階段の橋入り口の方に着いてしまうが、観光名所だけあって人で一杯だったので遠慮して遠回りしつつ、自転車用の入り口から入る。



と、ブルックリンブリッジを渡っているところで風が強かったのか、左目の使い捨てコンタクトレンズが外れてしまう。

両方取れればメガネをかけるのだが、右だけついているという状態。

今更停まってグローブを外して右目をとるのも大変(というか水分がないのでとりにくい)なので、もうそのまま走ってしまう。

マンハッタンに入ってAvenue of Americasを北上。
良くも悪くも走り慣れたマンハッタン。



途中ピストに抜かれる。

まあこっちはもうボロボロ、体中筋肉痛で疲労困憊だからしょうがない。

と思いつつも、こちとら450キロ以上走ってここまで来てるんだ、なめんなよ。と気力を振り絞って一気にクロスバイクやら配達の人やらローラーブレードやらを抜いて、ついに三日ぶりに無事帰宅。

とりあえず家に戻って最初にしたことは・・・

三日分のプロテインを飲みまくった。

で、体中をマッサージしつつシャワーを浴びる。

あー、疲れた。

というかよく無事に帰ってこれた。

よくやった、自分。


最後に、三日目の実際の走行ルートはこんな感じ。



��まとめ編につづく・・・)


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