ニューヨーク地下鉄はなぜ腐れ外道か

自転車通勤再開。

まだ雪が溶けないが、マンハッタンの中はさすが観光地だけあって除雪がしっかりしている。

問題はブルックリン内だが未だ歩道脇には雪が積み上がっており、車道も2種類の雪がところどころ牙を剥いている。




まずはアイスバーン。車に踏みならされた雪が凍結し、滑る路面となっている。場所によってはブラックアイスバーンとなっていて、見た目ではわかりにくかったりする。




次に泥雪。汚れと混じった結果、ぐちゃぐちゃになった黒い雪で、天気は晴れているのに気温が低いため、晴天が数日続いても道路にはぐちゃぐちゃずぶずぶの泥雪が溜まっており、雨が降った後のようにバンバン撥ねて自転車と背中を汚してしまう。




さて、今回は趣向を変えて、なぜ自分が自転車通勤が好きかを、単なる自転車バカの理由に止まらず、ニューヨーク地下鉄の視点から書いていきたいと思う。

というか、一言で言うと、「なぜニューヨーク地下鉄がダメなのか」である。

書き終わったらかなり長くなってしまったが、以下読み進めて頂ければ幸いである。



ニューヨークの地下鉄とは、New York City Subwayのこと。MTA(Metropolitan Transportation Authority)というニューヨーク州の公益会社が運営している。

この地下鉄のせいで、「ここには住みたくない」と思ったことが何度もある。(まあ実際住んでしまっているわけだが)

山手線近辺で生活していた頃と比べると電車網のサービスの悪さは特筆ものである。観光する分には地下鉄自体が観光対象の1つになりうるので不満は出ないのかもしれないが、住んでいる者にとっては問題だらけの代物である。ここでは単に問題点を愚痴るのではなく、自由競争を阻害するその体質と、消費者行動として不満解決への手段を提言する


■はじめに

ニューヨーク地下鉄のどこが悪いかを述べて行くが、諸悪の根源は、地下鉄以外の交通手段がないこと、つまり、乗客側である消費者の選択の自由の権利が事実上奪われていることであり、その上で、選択権がない者に対し値上げを行うだけでなく、未利用者や地下鉄と関係ない部分からも税金という手段で強制的に徴収しているということである。例えば、クイーンズやブルックリンから、マンハッタンのミッドタウンへ通勤する場合に、現実的な運賃・時間・頻度で移動しようと思ったら、地下鉄に乗ることでしか移動できない。そのあたりの問題点と解決策を重点に、以下詳細を項目ごとにレポートしていきたい。


■ホーム、車内の様子

これは不満でもなんでもなく、単なる比較なのだが、ニューヨークの地下鉄のホームは汚い。天井も錆びた鉄骨丸見えで、雨天時には雨漏りしている箇所もよく見かける。夏はクーラーは効いておらず蒸し暑い。もちろんWi-Fiもなければ、電話の電波すら届かない。逆に日本や香港のMTRなどは、綺麗で電話が通じ、ネットも使えると至れり尽くせりである。

車内も同様で、薄暗く雑多な車内であるが、慣れればまあこんなもんかと思えてくる。逆に、以前久しぶりに日本の地下鉄に乗ったときは、そのあまりの整然さ、静けさに不気味さを感じてしまったほどである。車内の座席はプラスチック製の硬い座席で、アルミ製(?)の香港のMTRと似ている。硬い座席なのは掃除もしやすい上、ホームレスが寝転がるのを防ぐ目的もあるらしく、逆に日本のフカフカの座席は、ホームレスは言うに及ばず、汚れたときの掃除が大変だなぁと思ってしまう。


■乱れるダイヤ

ダイヤの乱れは日常茶飯事であり、日曜日の昼間、6番街の42丁目、タイムズスクエア付近の駅でさえ、20分以上待つこともしばしば。日本の新宿で何の事故も発生していない週末の昼間に山手線が20分も来ないということが日常的にあるだろうか。

日本では少しでも遅延があると、改札付近で遅延証明書を配ったりするが、ニューヨークの地下鉄ではそんなことは行われず、そもそも20分程度の遅延では遅延として認識されないので、遅延自体がなかったことになっている。まさしくパンクチュアル(時間に几帳面)な日本人にとってはストレスフルな環境である。というかそもそもそんなもの気にしないのがアメリカ人気質なのかもしれない。乱れるダイヤ対策としては、そもそも遅れるものとして気をおおらかに持つのがよいのだろうが、中には時間厳守な予定などもあり、その場合には常に余分なバッファを持って家を出発しなければならない。


■乱雑な路線変更

ニューヨークの地下鉄は世界でも珍しい24時間運行である。日本でも香港でも終電というものが存在する中で、ニューヨーク市では深夜勤務の人など、多様な人種構成、多様な職種があるため、唯一の公共交通機関として機能している地下鉄は24時間で運行する必要がある。

一方で、そのシワ寄せを至るところに垣間見ることができる。深夜も運行しているため、線路のメンテナンス等を週末に行うことが多い。その結果、ほぼ毎週末、どこかの路線で運行停止や路線変更が実施されている。ホームに中央に設置されている路線図は、以前は両面とも路線図であったが、最近では路線変更が多いためか、片面は全て路線変更の掲示で埋め尽くされている。

さらに、路線変更の場合は車両の行き先表示も変えてくれればいいものを、変更前の表示のままであるため、例えばD路線の車両に乗っても、実際に走るのはN路線の駅ということがよくあり、聞き取りにくいアナウンスを聞いたり、直接駅員に聞いて判別するしかない。

また、路線変更時の変更の仕方も統一されていない。D路線のホームにF車両が来たので、F車両に乗ったら、表示どおりF路線を走ることもあれば、ホームに従ってD路線を走ることもある。困った経験としては、ダウンタウン方面のプラットフォームに車両が来たので乗ったら、車内の(次の駅等の)表示が、アップタウン側の駅になっていたので、乗り間違えたのかと思ったら、表示の方が間違っていて、実際に停まった次の駅はダウンタウン側の駅であった。こうなると、ホームも、車両も、車内の表示も時と場合により違う動きをするので、もう何を信用して判断したらいいのかわからない


■運任せの待ち時間

タチが悪いのが、次の電車到着までの時間が表示されないことである。最近ではマンハッタンの中のごく一部の駅など、表示される駅もちらほら出てきたが、表示がある駅の方が珍しく、まだ到底十分とは言えないレベル(少なくとも自分が普段利用する駅では1つもない)。それでも、山手線のように数分に一度来るくらいならいいのだが、1分後に来るか、20分後に来るかもわからないという状態である。

地元に十数年住んでいる友人は、ホーム内の風の動きや地響きで、どっち方向の車両が近づきつつあるなどを判断するのだが、お前は騎馬の接近を地響きで判断している戦国時代の武将かとツッコミたくなる。

同じ路線を走る特急(Express)と各駅(Local)があったりする中で、たとえば特急が20分待ちとわかっているなら、各駅に乗ろうという利用者側の判断ができるのだが、その判断材料すら提供されないため、時間通りに着くか、何分待つか、別の路線で行けば早く着けるのかどうかなど、すべて運任せになってしまう。それに比べると、次の電車どころか、次の次の電車の到着時間まで表示されている日本や香港は時代が進んでいるなぁと思う。

ちなみにインターネットで遅延状況が見れるようになっているが、20分遅れは「通常運行」であり、豪雪の際に普段1時間で通勤できるところを2時間半かかったときも、ネットの情報では「通常運行。遅延なし」であったのであまり当てにはならない。


■暴利を貪る運賃

さらにタチが悪いのが乗車賃であり、失業率が上昇、景気も低迷しているアメリカ経済の中でも右肩上がりに、一度も値下げすることなく値上げが続いている。詳しくは英語版Wikipediaにグラフが掲載されているので以下参照いただきたい。

New York City transit fares

そもそもアメリカでは、日本と違って交通費が支給されない企業がほとんどであり、運賃の値上げは直接消費者の財布に響く。Pre-Taxの税引前所得から交通費を控除できる税制があるため、それらを利用して節税をすることもできるが、所得控除をしても値上がりが直接影響するという点は変わらない。逆に交通費を負担する企業が多ければ、企業レベルでの圧力がかかって値上がりを抑制する効果も出るのかもしれないが、現状では大多数が個人消費者であるため、MTAの言いなりになってしまっている。


■諸悪の根源

この点、実態経済に反して値上げを続ける背景、サービス向上の企業努力が行われない背景には、交通路独占による殿様商売の影響が大きい。ニューヨーク市内における公共交通機関は地下鉄、バスのみであり、両方とも同じ会社(MTA)が運営している。一方で、駐車場が少ないこともあり、自家用車でマンハッタン内に出勤する一般サラリーマンはごくわずかであり、タクシーは高額となるため競争相手にはならず、事実上MTAによる地下鉄、バスがマンハッタン市内の交通を独占している

嘆かわしいのは、自分が忌み嫌う二大忌避会社のもう1つであるUPSと違い、MTAの場合は競合している代替可能会社がないため、消費者の選択の自由が奪われてしまっていることである。

つまり、およそ交通手段という点においては、ニューヨーク市の住民はMTAの支配下にあり、MTAの地下鉄・バスに頼る以外の選択肢を持てないのである・・・・・・自転車を除いてはっ!!


■対抗手段

そう、MTAの支配に対抗するための唯一の交通手段が自転車通勤なのである。
冒頭の話しに戻れば、クイーンズやブルックリンからマンハッタンへ通勤する際に、自家用車は駐車スペースがなく、タクシーは高額、歩きでは数時間かかるため、地下鉄かバスというMTAが支配するもの以外には、もはや自転車が残された唯一の交通手段となる。

自転車通勤は単なる移動手段ではない。LSDトレーニング、アクティブリカバリーという効果に加え、MTA支配から脱却するための、消費者の選択の自由を勝ち取るための権利行動なのである。


■血税を搾り続ける

上記対抗手段によって一見MTAの支配から逃れられたように見えるが、忘れてはいけないことがある。

ニューヨーク市の消費税、8.875%(2011年1月現在)の内訳をご存知だろうか。

8.875%のうち、4%はニューヨーク州の州税、4.5%はニューヨーク市の市税だが、残りの0.375%はMTAへのサーチャージなのである。日本で言えば、消費税の一部がJRの収益になるようなものである。なんでやねんと。

たとえば、自宅から徒歩1分のコンビニに行ってガリガリ君とうまい棒を買ったとしよう。そのときにJRのために余分にお金を払わなければいけないとしたら、、、それは理不尽だろう。

普通税のように用途が決められていない中から、公的資金注入のような形で補填されるのはまだ100歩譲って納得できるとしても、目的税として徴収しているのに目的と関係ない部分(ジュースやお菓子の購入からも)税金を徴収するのは消費者の理解を得られまい。少なくとも日本の目的税である自動車取得税や軽油引取税は自動車を使わない人からは徴収されない。

つまり、普段地下鉄を利用していなくても、ジュースを買ったり、食事をするたびに、地下鉄運営会社たるMTAへ税金を払っているのである。MTA支配から逃れるためにクロスバイクを通勤用に買おうが、タイムトライアル用にTTバイクを買おうが、新しいロードバイクを買おうが、なぜかそのうちの0.375%がMTAに上納されているという理不尽極まりない事実を忘れてはならない。


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