高回転トレーニングは役に立つか?

昨日のエントリでLSDについて触れたので、アウトサイダーさんより以前コメントをいただいたこともあり、LSDと高ケイデンストレーニングについて掘り下げてみたいと思う。

LSDの定義については、人によって解釈も違うようだが、以前のエントリでご紹介した通り、ここではLSDかつアクティブリカバリーとして、パワートレーニングでいうL1~L2、心拍トレーニングではZone1~Zone2の範囲として扱いたい


■LSDの目標

LSDといっても「単にダラダラ弱い強度でペダルを回す」のと、「目的を持ってペダルを回す」のでは大きく異なる。いわゆるトレーニングにおける意識性の原則である。

では、LSDの目標はどう位置付けるのかであるが、前述したように、自分としてはオーバートレーニング時のアクティブリカバリー的な位置付けで考えているので、速筋群はできるだけ使わずに、有酸素領域で遅筋を主に使ってトレーニングしている。一方で、軽負荷でペダルを回すことになるため、ペダリングに気をつけて、高回転ケイデンスを意識してトレーニングするようにしている。

高回転ケイデンスであれば、筋肉痛の速筋ではなく心肺機能を主に使ったトレーニングになるため、疲労した筋肉のアクティブリカバリーと並行的に一石二鳥でトレーニングができる。

ちなみに昨日のLSDでは、高回転ケイデンスといってもそこまで高回転ではなかった。昨日は平均出力を160ワット±10ワットに固定した上で、前半が94~100、後半が100~110、最後に160強まで回して終了した。競輪選手などが120回転を維持し続けるのに比べると、160ワットという軽負荷で回しているくせにかなりダメダメである。が、アクティブリカバリーであるし、「今はこれが精一杯」であった。




■高回転ケイデンストレーニングの意義

この点、以前のコメントで「ヒルクライムではまず使わない100以上の高ケイデンスで平地を走り続けて、ヒルクライムに役に立つのか?」というご質問をいただいた。

自分の意見として結論から書くと、「その人次第」であると思う。語弊を失くすために補足すると、「その人の脚質、ペダリングスタイル、最適なケイデンスによって有用かどうかは異なる」ということである。

例えば自分の場合は、これまでのパワーメーターを使ったトレーニングの結果、重いギアを低ケイデンスで回すよりも、軽いギアかつ高ケイデンスで回した方が高い出力が出せることがわかっているので、ヒルクライムでも100以上のケイデンスで上ることがある。これは別に自分の踏力が高い云々ということではなく、むしろ逆で、一回転の踏力が低いからこそ、軽いギアで高回転で回さないと速く走れないからである。

一方で、特に体格の良い外国人レーサー(ニューヨークのレースではむしろこのタイプの方が多い)では、高いトルク力で重いギアをガシガシ回すタイプもいる。80回転で重いギアを回した方がよっぽど速く走れる脚質の人であれば、逆に軽負荷で高回転の練習をしても効果的なトレーニングにはならないかもしれない

以下はグランフォンドニューヨークでベアーマウンテンを上ったときのグラフであるが、ケイデンスが100rpmを超える場面が何度もあるのがわかる。クライミングの状況を付記しておくと、既に2回のヒルクライム全力タイムアタックを終え、約100kmを走った後でのクライミングである。

実際の路面は常に一定の勾配ではないので、勾配が小さい部分では110rpmや120rpmまで出している。ちなみに平均ケイデンスは89rpmであり、勾配10%等では80rpm程度まで落ちているが、これは39-28Tより軽いギアがなかったためで、コンパクトクランク等があればもっと軽いギアを選んでいたと思う。



ちなみに自分にとって最適なケイデンスを気付かせてくれたのは、Tacxのパワー出力指定トレーニング機能であった。

以前にもご紹介したように、Tacxのパワー出力指定機能では、常に出力が一定になるように負荷を自動調整してくれる

例えば、200Wattと指定した状態でケイデンスを100回転から90回転に下げれば、ケイデンスが下がった分クランク一回転分の負荷が高くなりペダルが重くなる(実際の例で言うと、ギアが同じ状態で勾配が上がるイメージ)。逆にケイデンスを上げれば上げるほど、ペダル自体は軽くなっていく(が、その分回転が速いのでトータルの出力は200Wattで一定である)。

つまり、体感的な辛さと心拍数を見ることで、同じ出力を出すのに、どのようなケイデンスであれば最も効果的に、疲れずに走れるかがわかるのである。換言すれば、「自分にとって最適なケイデンスを見つけることができる機能」である。

ちなみにこの機能で自分の最適ケイデンスを知る前は、「ヒルクライムではケイデンスは落ちるもの」だという認識を持ってしまっていた。道理でなかなかタイムが伸びなかったはずである。この「最適なケイデンス」に対する認識のパラダイム変換があってからタイムが伸びたのは言うまでもない。


■ケイデンスとギア

ここでケイデンスとギアの関係についておさらいしてみたい。

出力はケイデンスとギア比によって求められ、スピードを上げるには、ケイデンスを上げるか、ギアを重くするかである。

一方で、ケイデンスは細かい調整ができるが、ギアは例え20段変速であってもケイデンスほど細かい調整ができない

以下は、ギアを固定(53-18T)しケイデンスを変えた(75rpm~170rpm)場合(青グラフ)と、ケイデンスを固定(90rpm)しギアを変えた(39-21T~53-11T)場合(茶グラフ)とで、一分間の推進距離(m)を比較したグラフである。



この点、ギア構成は20段変速で最もなだらかである39-53Tと11-21Tの組み合わせで比較しているが、ケイデンスを変える方が推進距離の変化がなだらかであり、微妙な速度調整はケイデンスに拠った方がしやすいことがわかる。

また、Cycling Timeのカーマイケルによる記事でも、集団に遅れそうになったときは、むしろギアを落としてケイデンスを上げることで追いつくようにアドバイスがされている。

ちなみに、理想的なケイデンスは90回転といわれることがあるが自分の場合は90rpmで回してるようでは少し重すぎで、93~95rpmくらいで回せるギアがちょうど良い。それであれば少し踏み込めば100rpmまで出せるし、何度も踏み込む場面があるレースでも脚を節約しつつ最後のスプリントに臨むことができる。逆に人によっては85rpmや80rpmの方が高出力を出しやすいという場合もあるだろう。



ということでやはりまずは自分の脚質を知ることからスタートするのが一番であると思った次第である。


6 件のコメント :

  1. なるほどですね。
    大変、興味深いレポートです。
    最適なケイデンス探し、となると自分的には答えは出ている気がします。
    ついでに質問をさせてください。
    今ヒルクライムだと、ギアが重め(39x19~25)、ケイデンス低め(60~80)が走りやすいと感じています。
    となると、今後のトレーニングとして、もっと重いギアを踏めるようにするのがいいのか?
    あるいはケイデンスをあげる練習をすればいいのか?
    長所を伸ばす?短所を克服する?まぁ両方がベストなのでしょうが。。
    その辺りのアドバイスが頂けるとうれしいです。

    返信削除
  2. コメントありがとうございます。
    まだまだ初心者ロードレーサーの自分がアドバイスなど偉そうなことをできる立場ではないかもしれませんが、僭越ながら私の考えを記載させていただきますので、1つの意見としてご参考いただければ幸いです。
    高回転ペダリングはランス・アームストロングに代表されるように、長い自転車の歴史の中では比較的新しいスタイルだと思います。実際に、120rpmで軽いギアを回すランス・アームストロングとは対照的に、ヤン・ウルリッヒやミゲル・インデュラインは重いギアを高トルクで踏むスタイルですが、それぞれがタイムトライアルでの優勝経験があることから、[色:FF0000]「どちらのスタイルでも頂点を極められることが証明されている」[/色]と言えると思います。(ヤン・ウルリッヒは元トラックの選手だったのでその傾向が強いのも当然でしょうが)
    一方で、では自分に最適なスタイルはですが、ある程度の(少なくとも私のようなアマチュア)レベルであれば、スタイル自体が矯正可能な範囲であると思っています。つまり、自分が高トルク型のスタイルで行きたければ、ひたすらその練習をすればそのスタイルでのパフォーマンスを上げることができると思うので、自分の好きなスタイルで、モチベーションが上がることでトレーニングを積み重ねれる方が結果につながると思います。
    ただ、一般的にヒルクライムのシーンでは、高トルク型の場合には勾配の変化に弱いという特徴はあると思います。が、その場合でも、何百回も走り込んだ峠で、自分のトルクで最大勾配でも問題ないことがわかっていれば、そこまで不利にはならないと思います。(実際に、トルク型で体格が良いインデュラインも山岳ステージで優勝していますし)
    ということで答えになっていないかもしれませんが、[色:FF0000]「自分の好きなスタイルを一貫して目指す」[/色]ことでしょうか。というのも、このブログでも書いてきましたが、ペダルの違い、ホイールの違い、そしてスタイルの違いでさえも、[色:FF0000]積み重ねてきたトレーニングの絶対量の前には霞んでしまう[/色]と思うからです。私の場合は高回転型と思ってそのスタイルを進んでいますが、ランスの120rpmに比べたら高回転でもなんでもないので、もっと「高回転型」のスタイルになれるように、まだまだ突き詰めて行く必要があると思っています。
    そういう意味では、欠点を補いつつも、長所を伸ばす方に重点を置いた方が、「やる気が出る」→「トレーニング量も増える」ということで、伸びも大きくなるかと思います。

    返信削除
  3. こんばんは。
    プロのレーサーでも変なフォームの人はいますが、それで訓練を積んで来たので速いのでしょうね。
    まわりが皆コンパクトクランクを装備しているので、やはり高ケイデンス、低トルクが正しいのではと悩んでいたのですが思い過ごしとわかりました。
    120回転ですか?なら、こちらはギアをアウターに入れて勝負といきましょうw。
    話変わりますが、ニューヨークの夜景キレイなんでしょうね。

    返信削除
  4. こんばんは。
    そうですね。スプリントひとつとっても、バイクを左右に大きく揺らすタイプの人もいれば(このタイプの方が多いですが)、カヴェンディッシュのようにあまり揺らさずに爆発的なスプリントをする人もいますしね。
    ギアも最適なケイデンスありきで、勾配に合わせて選べばよいと思います。今年のジロ・デ・イタリアのゾンコラン峠では、コンタドールは36x32T、別府史之は36x28Tで走っていたようですし。ツール・ド・フランスでガリビエ峠がコースに最初に入った1911年当時は、変速機の使用が禁止されていたので、22x11Tを使っていたようです。ということで、逆にアウターで80rpmを出し続けれるようになればコンパクトクランクは不要だと思います。
    そういえばニューヨークの夜景も綺麗ですが、ニュージャージーにある工場の灯りもかなり大規模で綺麗ですよ。

    返信削除
  5. こんばんは。
    >ニュージャージーにある工場の灯りもかなり大規模で綺麗ですよ。
    アメリカの工場は大規模そうですね。撮りたい。。
    でも偏見ですが、アメリカの場合土地が広いため横長の工場になって、日本のような密集度が少ない分、被写体としては面白みがないという気がします。
    でかすぎて画面に収まらないとか。。でも遠くからならいいかも。

    返信削除
  6. 確かにアメリカの工場(に限らず全ての施設)は横に広いと思います。
    逆に遠くからだと周りに何もない分、平原(荒野?)の中に現れる工場群という感じで目立ってます。

    返信削除