成功報酬型ファンドラップという名の「仕組み債」

今週のワールドビジネスサテライトを見てびっくりした。

紹介されていたのは某銀行が売り出すという「画期的」な投資信託

手数料が成功報酬のみはお得?


ファンドラップでいわゆる一任運用のお任せ投信。

「画期的」とされている部分は、通常なら運用損が出ても差し引かれる手数料が、運用益が出た場合にしか取られない「成功報酬型」になっているというもの



番組内では具体的な例が紹介されている。

1万5千円の運用益が出たときだけ、3割の4500円のお任せ手数料(成功報酬)が引かれます・・・。




え・・・。

( ゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシゴシ

(;゚ Д゚) …!?

3割・・・・!?

ぼろ儲けやん・・・。

これって例えて言うなら、「俺マージャンの腕プロ級だから」って言って100万円借りて賭け麻雀して、20万勝ったらそのうち6万もらうけど、20万負けても100万負けても知りませんってことだよね・・・。

つまり直接的な金銭的損失リスク無しに利益だけ3割ももらうってことね。

さらに運用益はそこから源泉徴収で20%の税金が徴収されるとすると、20万円の運用益が出てもそのうち3割の6万円が成功報酬として引かれ、さらにそこから2割の2万8千円が源泉徴収され、手元に残るのは半額近くにまで減って11万2千円となる・・・。

逆に20万円負けた場合はそのまま20万円の損失として手元から溶けていく。

日本株の過去20年間の平均リターン(3.5%)とリスク(17.7%)から計算すると、年間の最大損益幅はマイナス14.2%~プラス21.2%の範囲内となる。



これを5年間複利で損益幅をグラフにするとこうなる。縦軸は100万円投資した場合の手取り損益(万円)、横軸はマーケットの5年間複利幅。



こうしてみると勝つ場合と負ける場合が混在していて、成功報酬&源泉徴収後の手取りベースではまったく旨みがない投資であることがわかる。

せめて損失幅を限定するようなヘッジをしない限りとてもではないが安定して利益を上げられる投資とは言えない。

これだけでも買う気にはならないが、これだけならまだ良心的な方で、話しはこれで終わらないからタチが悪い・・・。

オプション条項


さらにイヤらしいのは、オプション条項が付いていること。

商品紹介ページを見てみるとこんな但し書きが。



曰く、どんなにマーケットが好調でも、運用利益が5%に達した時点で契約は強制終了、換金されてしまうとのこと。

( ゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシゴシ

(;゚ Д゚) …!?


ハァア!?



しかもこの早期償還条項・・・、顧客側からは一切変更できない

契約金額の105%以外の金額をプロフィットロック・ポイントとして設定することはできません。また、プロフィットロック・ポイントの変更や設定解除はできません。

要するに、契約期間の5年間、どんなにマーケットが良くても利益は2.8%※に限定、逆に損失は無限大ってことだ(※成功報酬&源泉徴収後の手取り。)。

まあ「無限大」といっても投資額次第だが、何口も分けて大量に購入していたら、それこそ資金が尽きるまでマイナスになる可能性がある。

上掲のグラフにこのオプション条項を加えた実際の損益曲線を描くとこうなる。



この損益曲線を契約者は本当に認識してるのか・・・、ちゃんと説明されてるのか心配になる・・・。

つまりは、上記で述べた損失幅を限定するようなヘッジをしない限りとてもではないが安定して利益を上げられる投資とは言えない」の真逆をしてて、わざわざ利益幅を限定しちゃってるわけである。



そもそもオプションを売っている分のプレミアムが2.8%に含まれているので、実質的に顧客が得る真水の運用益はもっと小さくなるということになる。

よって契約者は2.8%にも満たない手数料収入で暴落のリスクを一手に引き受けていることになる(アメリカの10年物国債でも2.8%以上あるというのに…)。


いやー、あこぎやなぁー。

これを「画期的」っていって紹介してるワールドビジネスサテライトもどうかと思うが・・・。

「画期的な投資信託」って紹介されているけど、その実態は悪行の限りを尽くした仕組み債の手口と全く同じ※で、これを契約する人は、自分が実はデリバティブ取引でオプションの売りをやらされていて、利益限定損失無限大のリスクを引き受けているなんて夢にも思ってないんだろう。(※仕組み債の場合、固定利率の債券で利益を限定し、株式転換のノックイン条項等のデリバティブオプションを付けることで損失無限大を実現している)

というか、そもそもその事実を認識している人は契約しないと思うと、皮肉なことだがやはりこの商品は「初心者向け」なのだろう・・・。

さらには日経新聞も「手数料を成功報酬だけにすることで投資に不慣れな顧客の資金を呼び込む」と報道する始末。

オプションの売りというデリバティブを組み込んだ仕組み投信が「不慣れな初心者向き」って・・・。

まあ「不慣れな初心者(をカモにするの)に向いている」ってことなら納得だが・・・。

鏡の向こう側


そして心理的に微妙なのが、そもそも「成功報酬型」という宣伝の仕方。

「成功報酬のみ」と聞くと、「成功したときしか販売側も儲からないので同じ舟に乗ってますよ」と顧客に思わせているように感じてしまうが、呉越同舟もいいところ

これ、オプションで言えば売り手の契約者に対して、相対する買い手となっているのは販売側に他ならない。

販売側が呑んで契約者と逆のポジションを取ったら・・・。

損失限定、利益無限大となる「画期的」な商品の出来上がりである(笑・・・えない・・)。



つまり、逆のポジションを取った場合の損益曲線はこうなる。



まさに上記で述べた「損失幅を限定するようなヘッジをしない限りとてもではないが安定して利益を上げられる投資とは言えない」が、反対ポジション側からでは見事に実現できてしまっていることになる。



さらに損失の場合にも「成功報酬」として損失の一部が返ってくるので損失幅を縮小できる。

ここまでくるとおわかりの通り、「成功報酬型」というのはただの客寄せパンダで、真の狙いはこのオプション条項にこそあるのである。

ところが驚くべき事に、ワールドビジネスサテライトの番組では、この極悪なオプション条項に一切触れずに商品を紹介している(!?)

どれだけ広告宣伝料が裏で動いているのか知らないが、ワールドビジネスサテライトも堕ちたものである。


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