パワーメーターに反映されないパワー効率とペダリング分析

前回のエントリから考察を掘り下げる。


クリート計測パワーメーター登場、時代の流れから紐解く究極のパワーメーターとは


パイオニアのペダリングモニターは確かにクランク角度ごとのトルク分布やベクトルを表示してくれる。

が、実際にペダリングをしてるのはペダルでもクランクでもなく人間の肉体である。

そしてペダリングをする肉体の動きとは、アナトミー(解剖学)的には股関節、膝関節、足関節の屈曲と伸展になる。

3つの関節による2つの動き、さらにコンセントリック(短縮性収縮)とエキセントリック(伸張性収縮)という筋肉の収縮種別を考えると下肢の動きは様々な組み合わせになる(等尺性収縮や二関節筋のエコンセントリックを考えるとさらに動きは複雑になる)。

にもかかわらず、既存のパワーモニターはもちろん、ペダリングモニターですらこれらの筋運動の内容を分析することはできない。

こちらの記事では、いわゆる巷にあふれるパワーメーターによってペダルを踏むことに注力してしまいがちになるが、もっと重要な体の動かし方について注目すべきだと指摘されている。特に股関節と膝関節を連動させる際の効率について書かれているのが参考になる。

A smooth action



一方で、筋肉の動きや効率の具体的な数値を一般ローディーが知る機会は極めて少ない。

今では簡単に手に入るパワーメーターと違い、筋肉の出力を知るメーター、つまりEMG(Electromyography、筋電計)といったものが使われるのはスポーツ科学の研究機関くらいである。

となると、ペダリングにおける筋肉の効率を調べようと思った場合には、自ずと研究論文といった学術資料にあたることになる。

前回ご紹介したこちらの図もドイツの以下研究論文より引用したものである。

Muskelleistung und Wirkungsgrad beim Radfahren(ドイツ語、PDFリンク)



この図表だけでも以下のことがわかる。

  • 最も出力を出しているのは股関節伸展
  • 引き足フェイズにおいて貢献しているのは膝関節屈曲
  • 膝関節伸展における伸張性収縮がトルクを相殺している
  • 足関節ではほとんどトルクは発生していない
  • サドルの前に座るほど膝関節伸展優位
  • サドルの後ろに座るほど股関節伸展優位
  • サドルのポジションによる引き足効果の有意差は認められず

最後の3項目については、ポジション云々で説明している記事は自転車雑誌や書籍でもそれなりにあるが、感覚的なものばかりで、それによって全体の出力の中でどの程度(何ワット分)影響が出るのかといった定量的な数字で証明されているものは見たことがない。

各関節の伸展、屈曲に作用する筋肉は決まっているので、アナトミーの知識があれば各作用と筋肉を結びつけることができ、自分に足りない部分や鍛えるべき主動筋も特定できる。トレーニングには意識性の原則があるため、雑誌で腸腰筋が重要だと読んで「とりあえずよくわからないけど腸腰筋を使おう」と思ってペダリングしているのと、「大腰筋と腸骨筋を使って膝関節を屈曲させよう」と個別具体的に意識するのとでは大きく違ってくる。


そして驚くべきことに、上で列挙した項目は、ペダリングにおける筋肉の使い方という点では非常に重要であるのにも関わらず、既存のパワーメーターやペダリングモニターでは一切知ることができないのである。

パワーメーターといったものがいかに一側面しか見せていないかがよくわかる。

たとえるなら円柱の下に映る丸い平面図だけ見せられているようなものである。



平面に映る円形だけみても、それが実際には円柱なのか、円錐なのか、球体なのか、全く別の立体なのかわからずに進むようなものであり、その落とし穴を認識していないと真の姿を見誤ったまま変な癖をつけてしまうことにもなりかねない。

つまり、ペダリングモニターでペダリング効率が高いと思って喜んでいても、人体の動きとしては全く非効率な動きになっているのかもしれないのである。

3 件のコメント :

  1. パワーが正確では無いと言われるが、同じパワーメーターを使い続ければいいだけ。その数値を指標とすればいい。どこで計測しようが問題ない。

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    1. Unknownさん、コメントありがとうございます。
      仰られている「正確」はパワーメーターのメーカーや種類の違いによる誤差のことを指されていると思います。この点、自転車にかかっている外力としての物理的なパワーを見たいだけであればそれで十分ですが、人体が生み出している筋肉の収縮力としてのパワーは、既存のパワーメーターでは相関性はあっても正確な数字を表示することはできません。また記事内にあるとおり、どの筋群または関節の屈伸がどの程度パワーに貢献しているかという情報は市販のパワーメーターではまだ計測できないのが現状となっております。

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  2. とのそうりですね👩‍🦲反発力の出ない漕ぎ方のために、何処の筋肉使ってるかが要ですからね。せめて反発ワット数引いた数値出さないとね。

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