伝説のサドルを求めて・・・第1話:Back to... le Tour 1986
伝説のサドルを求めて・・・第2話:アピュイドセルの歴史を紐解いてみた(本エントリ)
伝説のサドルを求めて・・・第3話:ダッシュサイクルのStage.9の補足
伝説のサドルを求めて・・・第4話:アピュイドセル探して
伝説のサドルを求めて・・・第5話:アピュイドセル、Appoggio Lombareのスペック
伝説のサドルを求めて・・・第6話:アピュイドセル、襲来
伝説のサドルを求めて・・・第7話:アーメル・アンドレ
伝説のサドルを求めて・・・番外編:温故知新?!究極のエアロヘルメット
伝説のサドルを求めて・・・最終話:アピュイドセルで実走
■アピュイドセルにまつわる噂・・・
UCIで禁止されて表舞台から姿を消してしまったからか、アピュイドセルについてはネットで検索しても断片的な情報しかなく、あたかも闇に葬られたUCI黒歴史のようである。
日本語、英語のネット情報をあたってみても、その記述はまちまちとなっている・・・
曰く、「ツールドフランスで、ローランフィニヨンが使用して、 たったの1回で、禁止を言い渡された伝説のサドル」
曰く、「ツール・ド・フランスでシステムUが使用していたアピュイドセル。TTマシンに装着されていた。 その市販品として販売されていたのが、セライタリア ランバーサポート」
曰く、「ローランフィニヨンが所属していたシステムU(スーパーUの時代だったかも)がたった一度だけチームタイムトライアルにアピュイドセルというお尻の後ろの空力改善パーツ」
曰く、「Super-hi back Selle Italia launch pad, seen in 1991 TdF prologue and subsequently banned by UCI.」(セラ・イタリア製、1991年のツール・ド・フランスのプロローグで使われてその後UCIに禁止された)
曰く、「Thierry Marie, rouleur extrordianire, without his special TT saddle which the UCI banned the day after he first rode on it」(ティエリー・マリーが使用した翌日に禁止されたTTサドル)
ネットの情報が千差万別なのであれば、ここはいっそのこと、自分で情報を収集・整理して、アピュイドセルの歴史をできるかぎりまとめてみようと思う。
■1986年版アピュイドセル
1986年のツール・ド・フランスのプロローグで、Système Uのティエリー・マリーがアピュイドセルを使っていたのは前回ご紹介した通り。
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尾っぽのように後ろに長く伸びるその形は明らかに空気抵抗軽減効果を狙ったものとして語られている。
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「一発で使用禁止になった」というのは、この1986年版アピュイドセルのことである。
当時のチャンネル2(フランスの元国営放送)でも「ティエリー・マリーの優勝は取り消されなかったが、サドル自体はその後禁止された」と解説されているのでここは間違いないと思われる。
事実、1987年以降のツール・ド・フランスからは1986年版のアピュイドセルは姿を消した・・・。
■1987年~1990年
その後、1987年、1988年、1989年、1990年と当時の映像をチェックしていくがアピュイドセルが姿を見せることはなかった・・・。
この若かったフィル・リゲットはおいといて・・・
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映像をチェックしていくと当時の熱いレースについ見入ってしまう・・・。
1989年の最終ステージのタイムトライアル。ここでフィニョンが逆転負けをして以降、今日に至るまで最終ステージは凱旋パレード扱いのコース設定で固定されている。
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僅か8秒差でイエローを失ったフィニョンの倒れこむ姿が印象的であった・・・。
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■1991年版アピュイドセル Appoggio Lombare
話しが脱線しかけたが、1986年版のアピュイドセルが姿を消してから5年・・・
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1991年のプロローグでCastoramaの選手たちが異形サドルをつけて登場した・・・
ネット情報では、「ティエリー・マリーが・・・」「ローラン・フィニョンが・・・」と個人名で言われているが、実際には「主にCastoramaの選手を中心に使用された」。
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ちなみに写真はポニーテールで御馴染み、前項目でも取り上げたローラン・フィニョン。
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そしてCastoramaに移籍済みのティエリー・マリーも。
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ミゲル・インデュラインに9秒差、グレッグ・レモンに3秒差をつけてのステージ優勝。
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さらに第2ステージのチームタイムトライアル。Castoramaの選手はみんなつけている。
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さすがにこのサドルが並んだ後姿はインパクトがある光景だ・・・。
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Selle Italia製で、Appogio Lombare(イタリア語)という名称がついている。
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Appogio Lombare・・・、
英語に訳すとLumber Support。
日本語にすると「ランバーサポート」だが、敢えて漢字にすると「腰椎支持」。
そのまんまやんかというネーミングセンスだが、Selle Italiaも「イタリアのサドル」という意味なのでそのまんまなのは元からである。
前回のエントリで、ティエリー・マリーのプロローグ優勝について「1991年はまた話しが別」と注を入れていたが、1991年は(モデルや形は違うものの)1986年と同じくアピュイドセルをつけて優勝した年なのである。
■1992年
そして1992年のツール・ド・フランス。
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ここでも1991年同様、Appogio Lombareのアピュイドセルの姿を見ることができる。
つまり、1991年版のアピュイドセル、Appogio Lombareはすぐには禁止にならなかったということがわかる。
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第4ステージのチームタイムトライアルでも。
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ルクセンブルクで行われた第9ステージのタイムトライアルでも。Castoramaの選手(↓はリュク・ルブラン)はアピュイドセルを使用。
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「主にCastoramaの選手を中心に使用された」と前述したが、当時イエロージャージを着ていたR.M.Oのパスカル・リノもタイムトライアルでアピュイドセルを使用している。
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チームタイムトライアルを見る限り、R.M.Oの他のチームメイトは使用していないので、スポンサー関連ではなく、選手の希望で個人的に使用したものであろう。
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話しは逸れるが、第14ステージのラルプ・デュエズ。
クラウディオ・キアプッチもミゲル・インデュラインも、やはり前回ご紹介した通りモンキー握り&アタックダンシングのペダリングである。
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そしてゴールラインにはなぜか旭日旗・・・。クラウディオ・キアプッチ、ミゲル・インデュライン、そして旭日旗・・・。すごい絵である。
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■1993年以降とUCI規則
また話しが脱線しかけたが、1993年からはSelle Italiaのアピュイドセルは姿を消す。
ただ、アピュイドセルと言えるかはどうかは微妙なところだが、サドル後方がせりあがったSelle San MarcoのConcor Supercorsa Sprintをビャルヌ・リースが使っているのを確認することができる。
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どちらにしろ、その後のツール・ド・フランスではこれらのサドルを見ることはなくなる。
規定時期は不確かであるものの、UCI規定のClarification Guide(PDFリンク)で、Sitting Positionを規定している1.3.008に詳細が追加されている。
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「Lumber Supportを名指しで禁止」である。
禁止理由は「ensure fairness in competition」(競技の公平性を確保するため)で、つまりランバーサポートがあるかないかで公平さを欠くほど効果があるということに他ならない。
が、この禁止理由が妥当かどうかはまた疑問が残るところであるのは、オブリーやボードマンの記録が抹消されたアワー・レコード等でご承知の通り。
例えば上で取り上げた1989年最終ステージの大逆転劇。
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ローラン・フィニョンがブルホーンバーではなく、グレッグ・レモンのようにTTバーを使っていれば8秒差で負けなかったのではとも言われている。
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さらにTTヘルメットを被っていればや、ポニーテールがなければ空気抵抗を改善できて負けなかったとも。
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TTバーやディスクホイールが公平で、ランバーサポートが不公平というのは、むしろ恣意的な影がつきまとう「UCI規定自体が不公平」なのではという意見が出ても仕方がないのかもしれない。
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ただ自分の走るレースにはUCIのレギュレーションが及ばないものも多い。
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ここは去勢されていない旧世代の怪物がどこまで通用するのか、試してみるのもまた一興である・・・。
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